自動運転で解決できる社会問題

藤原氏の構想は、さらに広がりを見せる。

「白タクを認め、そこに自動運転技術を適用していくことで、地方に活躍の場が生まれれば、高齢の元タクシー運転手が地方へ行ったり、故郷へ帰って運転をいかした生活をしたりすることができるのではないでしょうか。日々畑で働きながら、依頼が来れば運転で手伝うとか」

「白タクで手助けするための運賃は、村や町など、自治体が支払ったり補助したりすればいいでしょう。地域のバスが廃線になっていますが、定期的な路線バスは費用が掛かりすぎ、自治体では維持できなくなっています。しかし、必要なときにだけ白タクを認め、その代金を支払うのであれば、経費はずっと安く済むでしょう」

「そうなってくると、クルマを維持・整備するための工場が必要になり、燃料を入れるガソリンスタンドも必要になって、既存の自動車産業を維持していくことができます。それも1つの地方創生につながっていくのではないでしょうか」

自動運転が人を排除し、ロボット社会を生み出す道筋ではなく、人がいきる社会を創造することにつなげようとする発想だ。

人がハンドルを握ることを前提に開発

人がハンドルを握る自動運転の在り方について語る藤原氏

自動運転技術を実現させる方法についても、人がハンドルを握ることを前提とすることで、開発の仕方が新たになると、藤原氏は話す。

「人がハンドルを握る、あるいはペダルを踏むことを前提にすれば、その操作に人の状態が現れます。もし居眠りをすれば、ふ~っとハンドルが切られたり、スマートフォンを見ながら運転していると真っ直ぐに走れなくなったりする。そういう普段とは違った操作の様子が現れます。人の状態と、普段とは違う運転状況との因果関係を明らかにできれば、操作を検知するセンサーをハンドルやペダルに取り付け、あとはコンピュータが判断し、クルマを止めるなどの処置に結び付けられます。このやり方なら、高価な画像センサーなど使わないので、容易にあらゆる自動車に装備することができます」

「私の狙いは、生活を支えている廉価な自動車でも装備できる自動運転技術です。それが実現できれば、普及も早いでしょう。先進安全自動車(ASV)のなかで、これを研究開発させてほしいと関係各所に働きかけ、医大の先生などと一緒に、第6期(2016年~)の5カ年計画で取り組んでいます」

廉価な自動車にも採用できるという発想が重要だ。それは、原価と性能の調和をはかりながら、すべてのクルマに装着できる道につながるからだ。

一般的に自動運転技術の開発では、人が手を離した状態での走行や、人の状態をカメラなどで監視するセンサーの開発などが盛んだ。しかし、人が自らハンドルを握り、自ら運転することを前提としたマツダの取り組みは、人を知るという側面で、より直接的な検知や判断、認識につながり、的確性を高める可能性がある。“Be a driver.”の意にかなったやり方だ。