うま味。今では「UMAMI」という言葉で世界に知られるようなった日本発の味覚だ。では、そのうま味の正体とは? 身近であるゆえに、「分かるんだけど何て言うか……」という人も多いのではないだろうか。そんなうま味の歴史から味わい方まで、"おいしい体験"を通じて学べる工場が、都内からアクセスしやすい場所にある。
東京ドーム8個分の巨大な敷地
今回紹介する工場の最寄り駅は京浜急行電鉄大師線「鈴木町駅」。この駅は昭和4(1929)年の開業当時、駅名が「味の素前駅」だったと言う。これで今回の工場先はお分かりだろう。東京ドーム8個分に相当する約33万平方メートルの広大な敷地をもつ、「味の素 川崎工場」が今回のスポットだ。ちなみに、現在の鈴木町駅のネーミングは、味の素の創業者である鈴木三郎助氏にちなんだもので、地域一体が「鈴木町」と変更された際、駅名も変わったそうだ。
同社の工場見学自体は、1920年代から得意先を対象に実施し、2003年から一般向けに展開。2015年4月には「味の素グループうま味体験館」をオープンし、従来の「ほんだし」コースに加えて、「味の素」「Cook Do」コースを新設した。体験館や工場内にはいたるところに、同社のキャラクター「アジパンダ」が出没。ちなみに、鈴木町駅から続く赤い足跡はアジパンダのものだ。
シアター見学から驚きが
見学コースは「ほんだし」「味の素」「Cook Do」の3つがあり、コースによって年齢制限が設けられている。「ほんだし」コースは年齢を問わないが、「味の素」コースは小学生以上、「Cook Do」コースは小学5年生以上が見学対象となる。また、中学生以下の見学には、保護者同伴が必要になる。これらの見学は全て無料だ。
それぞれのコースの所要時間は90分で、最初のシアター見学のみ一緒となる。このシアター、椅子がないのには訳がある。映像が360度展開されるのだ。うま味とともに歩んできた日本人の食の歴史を知る映像は、見る角度によって様々な風景が楽しめる。「味の素」の原料であるさとうきびの映像が揺れたかと思えば、ふわっと風まで吹いてくる。これから始まる工場見学への期待値も高まってくるだろう。
ガイド+iPad+削り体験
今回の見学では、年齢制限なしで楽しめる「ほんだし」コースを選んだ。広い工場を巡るために用意されたバスもまたアジパンダ。その横にいるのは、妹の「アジパンナ」とのこと。バスの中でも専門クルーが工場の歴史や工場の見所を教えてくれるので、聞き逃しのないように。その昔、工場内に機関車が乗り入れていたようで、今はそのまっすぐ開けた道路をトラックが通り抜けている。
「ほんだし」コースの工場は、一見すると「あれ、ここは本当に工場? 」と思ってしまうようなシックな内装。見学コースの空間は料亭をイメージしており、ふわりと香るダシのにおいによく似合う。工場でまず手渡されるのがiPad。このiPadを使って、製造工程のすみずみまで紹介してくれる。「初めは小さなお子さまに使いにくいかなと思っていましたが、思いのほかすいすいと使いこなしているようです」とクルーも言う。
まずは「ほんだし」ができるまでの流れをパネル展示で学ぶ。「意外に、『ほんだし』はカツオから作るということをご存知でない方もいらっしゃるようです。使うカツオもサイズが決まっており、小さくても大きすぎても駄目なんです」(クルー)。
「ほんだし」の製造工程を簡単に説明すると、原料となるカツオ節を5mm程度の大きさに砕いた節粉とカツオエキス、うま味調味料、食塩を混ぜて顆粒にしたのが「ほんだし」だ。この川崎工場では、カツオ節を粉砕するところから始まる。造粒室にて混ぜて練り合わせた材料を顆粒にして乾燥。その後に品質検査を経て、充填包装室で袋や箱に包装する。造粒室で作られる顆粒は1時間に約2tというところに、改めて工場の大きさを実感する。
機械がこなす仕事を見ていると簡単そうに見えてしまうが、この難しさを教えてくれるのがカツオ節削り体験だ。筆者もこの時、初めてカツオ節削りを体験したのだが、思いのほか力が必要で、商品として目にするような薄くて大きなカツオ節はなかなかできない。「昔はこの器具がどの家庭にもあって、食事の度に削っていたんですよ」とクルー。こうした体験もまた、学びのひとつだ。
バスで体験館に戻ったら、今度は2階へ。続いての体験は待ちに待った試食体験だ。