R&DセンターXを担当する本田技術研究所執行役員の脇谷勉氏は、下のスライドで同センターの研究内容が関連するビジネス領域を紹介した。これを見ると、ASIMOのようなロボットが更なる機能拡大を果たす方向性も想像できるし、自動車の安全技術やゼロエミッション化につながる技術が生まれてきそうでもある。

カーボンフリー、食糧、家事支援などの言葉が並ぶ

センターお披露目イベントのプレゼンを聞く限りでは、正直に言って具体的な製品・サービスを想像するのは難しかった。どんなプロダクトに結実するかは松本氏も明言を避けていたが、2017年度中には何らかの成果物をリリースする考えを示した。

日本は人材の宝庫?

センターの仕事の進め方として、特徴的なのはオープンイノベーションを重視するとしていることだ。手を組む相手としては企業、大学、機関、個人などを想定している。

スタンフォード大学名誉教授のエドワード・ファイゲンバウム氏

では、先端技術を研究するうえで優秀な人材は集まるのか。人工知能などの技術を研究対象とするのであれば、例えばシリコンバレーにでもセンターを構えたほうがよかったのではないだろうか。この辺りの疑問について、R&DセンターXのアドバイザーを務めるスタンフォード大学名誉教授のエドワード・ファイゲンバウム氏は楽観的な見方を示した。同氏によると、日本の大学で学ぶ将来のエンジニアたちは「未開拓の資源」であり、むしろ人材は集めやすいくらいだという。

イノベーティブな研究・開発を進めるためには組織の在り方も重要だ。松本氏は創業当時のホンダを引き合いに出し、「イノベーションは柔軟で、機敏で、野心的な組織から生まれる」と指摘。センターの組織はできるだけフラットにし、仕事への取り組み方としては商品や技術・機能別のプロジェクト運営とする方針だという。ちなみに、同センターでどのくらいの研究者を雇用するかは明かされなかった。

オープンイノベーションで自前主義から脱却

自動車業界では昨今、新たな価値の創造に向けて、外部に門戸を開くケースが散見される。最近ではトヨタ自動車が、オープンイノベーションプログラム「TOYOTA NEXT」の実施を発表。これまでは陥りがちだった自前主義にとらわれず、外部の知恵やアイデアを活用していく方針を示した。ホンダは今回、オープンイノベーションを身上とする恒久的な拠点を新設したわけだ。

センターのオフィスはオープンな雰囲気。研究者たちがすぐに議論を始められるよう、レイアウトを工夫しているという

クルマの「知能化」と「電動化」がトレンドとなった今、自動車メーカーは従来のように、品質の高いクルマ作りに終始しているわけにはいかなくなったのかもしれない。「TOYOTA NEXT」の開始を発表する際、トヨタの村上秀一常務は同社が「80年にわたって続けてきたビジネスモデルが通用しない時代に入りつつある」と口にしていた。

ホンダは自動運転で「ウェイモ」(かつてのグーグルの自動運転車部門)と組んだり、電動車向けモーターで日立オートモーティブシステムズとの合弁設立に合意したりと、外部との関係構築を急いでいる。背景にはトヨタと共通する危機感があるのかもしれない。かつては“ワイガヤ”と呼ばれたオープンな社風で、数々の製品を生み出してきた同社。研究者たちの交流が活発になり、外部からも様々なアイデアが流れ込んでくれば、新拠点がホンダを活性化する可能性もあるだろう。