政府は訪日外国人客の拡大を目指し、2020年には現在の約2倍である4,000万人、30年には6,000万人を目標に掲げている。外国人客の増加が見込まれる東京の宿泊需要は高まり、ホテル不足は今後も厳しい状況が予想されている。稼働率の上昇、料金の高騰といった話題でも注目される、東京ホテルシーンの現況とこれからを考えてみたい。

"御三家"の「ホテルオークラ東京」は2015年8月に本館を閉館し、2019年春開業を目指して建て替え工事中。現在は別館で営業を継続している

御三家からホテル2014年問題まで

高級ホテルの代名詞と言えば"御三家"。日本のホテル界をリードしてきたと言っても過言ではない、「帝国ホテル 東京」「ホテルオークラ東京」「ホテルニューオータニ」を指す。そして1990年代に入り、黒船が襲来した。「フォーシーズンズホテル椿山荘東京」(1992年、現在は「ホテル椿山荘東京」)、「パーク ハイアット 東京」(1994年)、「ウェスティンホテル東京」(1994年)である。これら外資系チェーン名を冠したホテルが次々と開業し、"新御三家"と呼ばれるに至った。

ヨーロピアンクラシックの非日常感(写真は「ウエスティンホテル東京」)

その後も外資系チェーンを冠したホテルは続々誕生。2002年には「フォーシーズンズホテル丸の内 東京」、2003年には「グランド ハイアット 東京」、2005年にはヒルトンの上級ブランドである「コンラッド東京」と開業が続く。特に、"新新御三家"の誕生と言われた「マンダリン オリエンタル 東京」(2005年)、「ザ・リッツカールトン 東京」(2007年)、「ザ ペニンシュラ 東京」(2007年)は既存ホテルへの脅威として捉えられ、客室の供給過多が起こる"ホテル2007年問題"とも言われた。

「ザ ペニンシュラ 東京」は2007年に誕生

近年では、外資系チェーンでも特徴あるハイクラスブランドが参入する傾向がある。虎ノ門ヒルズに開業した「アンダーズ 東京」は、ハイアットホテルアンドリゾーツの日本初進出ブランド。そして、大手町に開業した「アマン東京」は、スモールラグジュアリーなリゾートホテルとして知られるアマンリゾート日本初進出ホテルだ。

これらの高級ホテルが続々進出したことは、既存のハイクラスホテルにとって脅威となり、パイの奪い合いがが懸念された"ホテル2014年問題"として、メディアをにぎわしたことは記憶に新しい。このホテル2014年問題は、東京だけではなく関西でも同様の傾向が指摘された。

大手町は注目のホテルエリアに(写真は「アマン東京」)

2016年は日系ブランドに注目が

2016年最も注目されたホテルトピックと言えば、旧赤坂プリンスホテル(赤プリ)の跡地に建設された「東京ガーデンテラス紀尾井町」紀尾井タワーの30階から36階に位置する「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」の開業だろう。プリンスホテル最上級のブランドとして圧倒的な存在感を誇る。また、ホテルではないが、星野リゾートの最上級ブランドである「星のや」も都心に進出。大手町にて和尽くしの旅館という「星のや東京」が注目されている。

「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」が赤プリの跡地に誕生

和の贅を尽くした「星のや東京」

いすれも立地やコンセプト、インテリア、サービスなど、既存の施設にはない特別感にあふれており、外資系チェーンがクローズアップされてきた中で日系チェーンのクオリティーも注目された1年だった。東京の地図を広げつつホテルシーンの今を眺めると、注目のエリアごとに特色あるラグジュアリーなホテルが存在。現在の状況は、"東京ホテル群雄割拠時代"と定義することができるだろう。

外資系vs日系がより鮮明に

外資系ホテルチェーンの強みはそのブランドイメージもあるが、やはり海外からの送客を取り込みやすいことだ。外資系ホテルチェーンの特徴として会員プログラムの充実がある。年間を通して同一チェーンへの宿泊が一定以上の基準に達すると、シルバー→ゴールド→プラチナというようにステータスが上がる。

それにより、客室のアップグレードやクラブラウンジの利用など、受けられるベネフィットが格段にアップする。すなわち、世界各国を飛び回るビジネス客や旅行頻度が高い観光客といったワールドクラスの上客が、東京でも同一チェーンのホテルを利用することになる。

都内外資系ホテルチェーンの多くは、再開発された複合施設・エリアのランドマークとして開業している。多くのホテルは、経営会社と運営会社・ブランドが異なることは既存の事実である。例えば、虎ノ門ヒルズの「アンダーズ 東京」、東京ミッドタウンの「ザ・リッツカールトン東京」、汐留シオサイトの「コンラッド東京」といったように、オフィスビルの上層フロアにホテルを入居させることは、もはや"セット"とも言える。

虎ノ門ヒルズはビジネスの拠点のほか、オフィスワーカーや近隣住民が憩えるコミュニケーションスペースとして運用。その最上層には「アンダーズ 東京」が備わっている

ホテルを入居させることで来訪者の増加はもちろん、エリア全体のブランディング・イメージの向上も見込まれる。外資系ホテルチェーンの進出は、都内各所の再開発と切っても切り離せないものとなってきた。こうした外資系チェーンの進出は、訪日外国人客増加による当然の現象であるとともに、東京の本格的な国際観光都市化への足がかりになり得ると言えるだろう。

躍進続く日系ブランド

外資系の進出が続いてきたが、日系ブランドも負けてはいない。「東京ドームホテル」(2000年)、「ザ・プリンス パークタワー東京」(2005年)など日系ならではの居心地のいいホテルがそろう。他方、「ホテル日航東京」(1996年)が2015年10月に外資系の「ヒルトン東京お台場」としてリブランドされたことは記憶に新しく、また、前述の「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」は、外資系ホテルチェーン「スターウッド」の最上級カテゴリーである「ラグジュアリーコレクション」に加盟した。日系と外資系の熾烈な顧客獲得争いがうかがえる。

現在、東京シティエリアのプリンスホテルではリニューアルが相次いでいる。プリンスホテルの牙城である品川・高輪エリアで特徴的なのが高輪のぜいたくな庭園である。そんなロケーションを生かし誕生したのが「グランドプリンスホテル高輪」の全16室からなる「旅館」。別館の和室リニューアルにより誕生した空間は、訪日外国人客を意識したコンセプトが光る。

また、ザ・プリンス パークタワー東京では"ブリージャー(bleisure)"を意識したリニューアルがなされた。ブリージャーとは、"ビジネス(businesss)"と"レジャー(leisure)"が融合した出張休暇を意味し、出張先でそのまま休暇を楽しむという、いま世界的なブームになっているスタイルだ。

"御三家"の「帝国ホテル 東京」でも現在、リニューアルが進められている

同じく日系のシティホテルである「京王プラザホテル」(新宿)や、「帝国ホテル 東京」(内幸町)でも外国人ビジネス客を意識したリニューアルが進められている。東京ホテルシーンにおいて、インバウンド活況による「外資系VS日系」の構図がより鮮明になってきており、こうした動きは今後も加速していくものと思われる。

筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)

ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。

「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」