経営順調な新千歳の利権確保

現時点の主役は北海道空港(HKK)であり、自らが新経営主体となるべく準備と主張を行っている。それは、経営順調な新千歳空港の現事業者からすれば"あえてやらなくてもいい民営化"を認めた対価として、現事業者に経営権は与えられるべきである、とするやや一面的な考え方に基づく行動のように筆者は感じている。

北海道の7空港の民営化においては、経営順調な新千歳空港の存在が大きい

筆者としては、現在も全国一のにぎわいを見せている空港の商業運営面はまだしも、道内空港全体を見渡して考えれば地元関係者によるこれまでと同様の経営を続けても、本来期待されるべき道内航空ネットワークの整備拡充が図られるとは考えにくいように思われる。特に新千歳空港以外の空港の将来図をどう描き、そこにどうネットワークを構築し、需要を創造するかという大仕事においては、既存の経営手法や取り巻く利権に縛られているビル事業者や地元企業以外の、新しい風が必要なのではないだろうか。

現在の新千歳空港では、ピーク帯前後の国際線のグランドハンドリングサービス、給油体制が飽和状態にあり、海外エアラインの国際線新規就航の打診を断らざるを得ない事態が発生している。民営化を機にさらなる競争が導入され本来求められている空港経営改革を実現するために、事業者の選択肢を広げることが重要である。

民間10社以上が空港経営を思案

北海道も今後の空港運営戦略について推進案を表明しており、11月28日には道議会に最終案が提示された。ここでは、今回の道内の国・自治体管理の7空港一括民営化を機に、民営化されない空港も含む道内航空ネットワークの再構築を図りたいとする意図と願いが込められている。新経営権者への道全体を視野に入れた航空需要拡充への取り組みに、大きな期待をかけていることがうかがえる。

その対象として道が描いているのは、筆者が見る限り十分な資金力や事業構想力、旅客・貨物流動の創造力を持つ企業同士による獲得競争を経た新経営権者の出現であり、HKKを軸とする地元連合が第一、というスタンスではないように思われる。

道内7空港を一括で民営化するプロセスは容易ではなく、またその後のエアライン誘致を始めとする空港営業とネットワークの確保、商業機能の充実、周辺開発など、新事業者が幅広いノウハウを結集させて経営することが必要であり、国交省・北海道との緊密な連携が不可欠となる。そのためには、空港事業者が外国から複数空港経営の経験のある運営者を仲間に入れることだけでは解決は難しく、日本の多様な民間事業経営を取り入れることが求められよう。

実際、民間事業者側の北海道7空港経営権への関心は非常に高く、独自に自社の知恵とリソースを駆使した空港経営計画を練っている企業が多いと言われている。その数は10社以上と多く、大混戦になるだろうとの見方が大勢になりつつある。

北海道の狙いとしては、民営化対象の7空港のみならず、道内全体の航空ネットワークの再構築がある

JAL・ANAともに流れに任せる構え

このような事情のもと、やや微妙な位置に立たされているのがJAL・ANA両社だ。高松空港では経営への関与ができないとされたものの、さすがに北と南の基幹空港では、特に国内エアラインによるネットワークの拡充という意味で、両社の動向が今後の空港経営に与えるインパクトは大きい。FABとHKKはともに、自治体が退出した後の株主として両エアラインを残したまま、地元連合のコンソーシアムに参加するよう求めているようだ。

しかし、JALは再建に伴う支援措置を勘案し戦略投資を国から制限されている「8.10ペーパー」が2017年3月まで効力を持つため派手な動きはできない。また、ANAは仙台と羽田国際線跡地(ホテル事業)と連続でPFI事業に敗退しており、現時点では両社とも流れに任せる構えだ。

ただ、福岡ではそのままビル会社~SPCに残ることで運営権社側に残ることが有力な反面、北海道は他のコンソーシアムが優れた提案で勝利する可能性も大きい。HKKグループが経営権を取得できなかった場合、現在の空港ビル出資分への売却益還元の扱いなど、実務的な面でHKKとの協議事項は多そうだ。

そして、今後もっとも重要と思われるのが"選考基準の設定"だろう。海外の空港コンセッションでは、ビッドの決着はひとえに入札価格の大きいところが勝つ仕組みだ。地元との協調がどうであれ、最も大きなリスクを覚悟して決意を示した事業者はそれを回収するために死ぬ気で努力するわけだから、購入価格に最大の評価点シェアを持たせるのは当然だろう。

単なる投機筋を排除するためのスクリーニングは必要であり、経営改革プランの斬新性・実現性・チャレンジ性を求めることは重要だ。そのためにも、地元とのつながりなどの情緒的な評価が選定評価を左右するのではなく、最も決意と意欲と実行力のある事業者を選ぶための公正でアグレッシブな評価システムが構築されることを期待したい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。