続いて「治療」とまではいかなくても、自宅でも簡単にできる対策を紹介する。

■歯磨きの方法を改善する……毛先の硬い歯ブラシで力強く歯を磨くと、歯の表面を保護しているエナメル層を傷つけ、その内部にある象牙質を露出させてしまいかねない。毛先のやわらかいブラシを使用し、「鉛筆と同じ握り方でブラッシングをする」「歯に軽く圧力をかけるように押し当て、左右に1~2mm細かく振動させる」などの「歯に優しい方法」で歯を磨く。

■歯磨き粉を工夫する……知覚過敏対策としてお勧めの歯磨き粉は、硝酸カリウム(カリウムイオン)やフッ素を配合している製品。「カリウムイオンは薬効成分として、開いた穴をふさいでくれます。痛みが本格化する前だったら、予防効果も期待できます。フッ素は歯の表面のミネラルと結びつき、歯を強固にしてくれます。これらの歯磨き粉を用いた歯磨きを習慣的にしてもらえるといいかと思います」。

■ガムをかむ……象牙細管に穴が開き歯がしみている場合、唾液の分泌量を増やして「再石灰化」のサイクルを促せば、痛みをやわらげられる。再石灰化は、虫歯などの影響で開いた歯の穴をリンやカルシウムの結晶で塞ぐこと。これらのリンやカルシウムは唾液によって作られるため、ガムをかんだりよく食べ物を咀嚼(そしゃく)したりすることで唾液を促すとよい。

個々の生活習慣や口腔内に適したケアを

家庭での簡単な対策方法がわかったからといって、「もう安心」と思うのは早計だ。例えば、「歯磨き時の圧力が適切かどうか」は普通の人では判断できない。性格が神経質な人は、無意識のうちに「磨き残しがないようにしっかりやらないと」などと圧力が強くなってしまうかもしれない。また、セルフ判断によるそもそもの原因の見立てが違っていたら、いくら歯磨き方法や歯磨き粉を工夫したところで意味はない。

原因が多岐にわたる知覚過敏だけに、個々の患者の性格やライフスタイルにふさわしいテーラーメイドケアをする必要性があると今村医師は話す。

「よく『先生や歯科衛生士さんがそうやれといったからそうしていました~』などと話されている患者さんがいらっしゃいますが、ご自身の歯の知覚などはご本人しかわかりません。医師や衛生士は、患者さんと一緒にその患者さんに合った適切なセルフケアを提案し、患者さんに実行していただき、その結果を出すことが重要だと考えます。ご自分の歯ですから、ぜひ医師や衛生士さんにまかせっきりにせず、あくまで『アドバイザー』ととらえ、ご自身で実行してその結果を出していくことを第一に考えていただきたいと思います。決して、医師や衛生士の言うことを聞くことを目的としないでください」。

仮に知覚過敏に「適切な歯磨き」で対応するとなったら、定期的に歯科医院に通い、歯と歯ブラシを医師に診てもらうことで適切かどうかを判断してもらうしかない。生活習慣や口腔(こうくう)内環境は一人ひとり異なるため、おのおので日ごろからきちんと歯を管理するための意識を持つことが肝要と言えるだろう。

※写真と本文は関係ありません


記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)

M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。表参道デンタルオフィス 矯正歯科。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。