脚本家の加藤陽一さん

映像配信、スマホアプリ、電子書籍など、膨大なコンテンツの流通が進む中で、新発のアニメ単体によるビジネスは成立が難しくなってきている。業界を取り巻くこのような環境において、現在でも多くのヒット作を生み出しているのが「クロスメディア展開」という方法だ。異なるメディアにヒットの種を撒いてヒットの可能性を高めつつ、それぞれの相乗効果を狙う。

一方で、「クロスメディア展開」作品の制作サイドにとっては、「既存のファンを満足させる」ことに加え、常に「新規ファンを獲得する」ことを意識しなければならない難しいかじ取りが必要になる。そのために重要な役割を果たすのが、「クロスメディア展開」を前提にしながら物語を編んでいくことができる「シリーズ構成」の存在だ。

10月からテレビ東京系でスタートしたアニメ『デジモンユニバース アプリモンスターズ』は、クロスメディア作品の"はしり"ともいうべき「デジモン」シリーズの後継作として立ち上げられたプロジェクト。本作で「シリーズ構成」を担当するのは、『妖怪ウォッチ』『アイカツ!』などの脚本を手掛けてきた加藤陽一さんだ。ヒットメーカーとして知られる加藤さんに、クロスメディア作品における脚本の極意、そして最新作『アプモン』の魅力を聞いた。

――息の長いドラマをはじめ、「シリーズ構成」という肩書を最近特によく見かける印象があるのですが、そもそも「シリーズ構成」は「脚本」とどう違うのでしょう。

どんなシリーズ構成の方にも共通する基本的な役割というのがいくつかあって、まずは名前の通り、「テレビのシリーズを構成していく」ことですね。全体で何話あるシリーズをどんな物語にするか。そのために第何話にどんな話を入れるか、などといったシリーズの構成を考える仕事ですね。もちろん、ストーリーの詳細やキャラクターといったシリーズを構成する上で必要な要素を考えることも含まれます。

もう一つは「チーフシナリオライター」としての役割ですね。多くの場合、特に長いテレビシリーズの場合は脚本家が一人ではなくチームで取り組みます。『アプモン』の場合もチームには僕のほかに全部で5人の脚本家がいるんですけど、その方々に脚本を発注し、書いていただいて、それを監修して改訂の発注をするということですね。その二つが大きな仕事になります。

――そういった構成の部分は監督がやっているという印象を持っていました。「シリーズ構成」自体は新しいお仕事なのですか?

昔からあったのではないでしょうか。監督との組み方によって、監督とシリーズ構成のどちらがどういう形でイニシアチブを取るかというのは違うと思います。もちろんどういう場合であれ、「シリーズ構成」と監督が一枚岩になって作っていくべきだというところに変わりはないですね。

――加藤さんというと、その特徴として『妖怪ウォッチ』のコマさんの「もんげー」など、キャッチーな決め台詞が挙げられます。これらは意識して作り出されているのでしょうか?

決め台詞を作る必要性があると決めたらひねり出すしかないといった感じですね。実は偶然生まれたものはほぼないんですよ。考える中では、どのフレーズが一番見てくださっている方の生活の中に浸透しやすいかな、ということを判断の基準にしています。マネしやすいかどうか、そしてそのフレーズを使うシチュエーションが日常にあるかということです。

子どもの場合は日常生活で。大人の視聴者がいる場合はSNSでその作品のことを話す時に、作中の決め台詞が使えるとより広まりやすい。そんな感覚があります。『アプモン』では飛鳥虎次郎くんの「ノレる? ノレない? 超ノレる!」とか、花嵐エリちゃんの「ドッカンパンチ!」というあたりですね。

そういったフレーズはインパクトや引っかかりを作るためのものです。全体的には、「ふとテレビをつけて見た時に、何も知らないで見ても面白いと思ってもらえる作品がいい」と考えています。例えば、見知らぬ世界のファンタジーの話だと、そのファンタジーの舞台がどんな世界なのか知らないとよくわからないですよね。一方で、物語の舞台が視聴者の暮らしている場所と同じだったら、より分かりやすく、日常を感じやすい。ですからそこは意識していますね。どの作品を作る時も、"見ればわかる"ということはとても大切だと思っています。

――"見ればわかる"というのは、脚本のある意味で究極ですね。そもそも、加藤さんが脚本家を志されたきっかけは?

もともとは高校生のころに「流行を作る仕事に就きたい」と考えていて、音楽やゲーム制作の仕事をしたいと考えていました。ですがその時に自分が行けそうな場所を考えると、テレビだと思ったんですね。それで学生時代に放送作家として活動を始めました。テレビやラジオの番組を作るということを19歳くらいから始めて、そこで働いているうちにそのまま放送作家になりました。アニメの脚本家になったのは、放送作家をやっているときにあるテレビ局の方から「アニメの脚本を書いてみない?」って、「君みたいな脚本家のニーズはきっとあると思うよ」と勧めていただいたのがきっかけですね。

――どういうところに"ニーズ"があったと思われますか?

どうでしょうね。「既存のアニメにとらわれない」「バランス感覚」「広い層に向けてネタを考えられる」というあたりを言っていただいたことはありますね。

――今は放送作家としての視点が脚本作りのどんな要素に生きていると思われますか。

例えば、ほかの回を見逃して設定の細かいことが分からなくても、作品の内容が把握できるように意識してシナリオは作るようにしています。そのような、視聴者の方に理解してもらう、見てもらうための工夫をシナリオにしっかり反映させるのは、放送作家的な視点かもしれませんね。

また、プロジェクト全体を意識しつつ形に落とし込む、ある種のプロデューサー目線のようなものも、放送作家的な考えかもしれません。

――今回は人気シリーズ「デジモン」の後継作である『アプモン』を手がけられたわけですが、最初にお話を聞いた時はどんな印象でしたか?

最初に拝見したバンダイさんの企画書に「"脱"デジタルモンスター」と掲げられていたのが印象的でした。今、面白いと思えるものを自分たちの感覚で作れるなら、やれることがたくさんあると思えました。

――「デジモン」シリーズの主人公というと、元気で活発、熱血漢といったキャラクターが多かったのですが、『アプモン』の新海ハルは真逆のおとなしい脇役タイプで、第一話では"主人公キャラ"になれないことを悩んでいます。

「人工知能」と「インターネット」をテーマにしようとなった時に、「人工知能と人間の関わり方はどんな形が正しいのか」「インターネットの情報をどうとらえるのが正しいのか」ということを立ち止まって考えられる子のほうが主人公としてふさわしいのではないかと考えたためです。熱血の主人公が「正しいのはこれだ!!」と、即座に一刀両断していく感じは少し違うかなと。いろいろなことを優しさをもって判断してほしい。

ハルは、ネットのことも友達のこともちゃんと向きあって考えていく、優しいタイプなんです。第一話で出てきた「優しいだけでは何もできない」というところが今後の話のポイントになっていきます。実はそれは第一話で親友の勇仁が言っていたセリフが答えになっていて、「優しい奴が一歩踏み出したら最強なんじゃないの?」という。そこに向けて、第一話では彼に一歩を踏み出してほしかったんです。

――今後はハル君のそんな成長も見られるということなんですね。全体としての今後の見どころはどんなところでしょう。

これからさらに仲間が増えて、なぜ「アプリドライヴ」があるのか、凶悪なる人工知能・リヴァイアサンとは何かということが明らかになっていきます。でもそれによって話が難しくなるかというとそんなことはなくて、気軽に笑えて楽しめる部分もたくさんある。気楽な部分とサスペンスのようなドキドキするところが両方あるのが見どころですね。

それに、人工知能を扱うというのが、今の時代ならではですから、クライマックスは人工知能というネタではないとできないドラマになっていきます。人工知能と人間の話、アツくて泣ける!という展開に期待していただきたいですね。

――お聞きしていると、「脚本家」「シリーズ構成」ともに非常に大変なお仕事ですが、こうして世の中に作品を送り出していけるというのはとても魅力的ですね。最後に、これからそういった職業を目指す若い人たちにアドバイスをするとしたら、どんなことでしょう。

そういえば、"脚本家を目指す若い人"というのに会ったことがあまりないんですよ(笑)。アニメの脚本家って本当に20代が少ないので、若い人がもっといてもいいなって思うんですけどね……。

基本的には、自分が頑張って書いたものを何度も直されるというのが若手の入り口です。苦しい面もあると思うんですね。でも、脚本家とひと口に言っても、同じ作品の中でも向いているエピソードとそうでないエピソードがあるし、向いている作品と向いていない作品があります。相性やめぐり合わせも当然あるので、そういうことも考えつつ、良いタイミングが来るまでに実力をつける、というのがいいのではないでしょうか。 ものを作る上では、自分が正しい、「これだ!」と思うものをやった時に、評価されるというのが一番気持ちいいと思いますからね。

TVアニメ『デジモンユニバース アプリモンスターズ』は、テレビ東京系6局ネットにて毎週土曜あさ7時より放送中。

加藤陽一(かとうよういち)
脚本家
『妖怪ウォッチ』『アイカツ!』『デュエルマスターズシリーズ』『モンスターストライク』など多くのTVアニメ、映画で脚本やシリーズ構成を担当。最新作は『デジモンユニバース アプリモンスターズ』のほか、『タイムボカン24』『ドリフェス!』など。

(C)本郷あきよし・アプモンプロジェクト・テレビ東京