小道具も一緒に作ったMV

――それではアルバム『全部、君のせいだ。』について聞いていきたいと思います。まずは表題曲の「全部キミのせいだ」。

アルバムタイトルは、収録楽曲を制作してから決めたんです。その時に、数ある楽曲の中から「全部キミのせいだ」か「My first love」にするか、もしくはまったく新しいタイトルを作るかという話になりました。「全部キミのせいだ」は、私が最初にいただいた楽曲ですし、とてもグっときて印象に残るタイトルだったので、こっちのほうがいいのかなと。楽曲自体もとても不思議なんです。最初から最後まで違うものをペタペタと貼り付けたような、Aメロ、Bメロからサビ、落ちサビまでまったく違う見え方をするんです。

――それはレコーディングも大変そうですね。

いろんな見え方があるからこそ、大変でしたし、緊張しました。レコーディングでは作詞の大西洋平さんや、作曲の小野貴光さんにも意見を聞いて歌いました。「最初のAメロはボソボソ小声でしゃべっているような感じで徐々に上がってくる。でもサビはそこまで明るく元気ではない」とか、加減が難しかったです。

――楽曲もそうですけど、MVもとても幻想的な仕上がりになっていますよね。

MVでは鏡をたくさん使っているんですけど至近距離で鏡を見つめたり、鏡越しにカメラ目線をしたりとか、屈折を使ったようなカメラワークにも苦労しました。「こっちを見て」と言われたと思ったら、「ゆっくり回って今度は別の鏡を使ってカメラを見て」とか。どこを向いても見つめあえる構図でも撮影したんですけど、最初はわからなすぎて、キョロキョロと挙動不審でした(笑)。

――いつも撮影されているMVとはだいぶ違うイメージになりましたね。

一人でMV撮影をするのは初めてなんですよ。ゼロからのスタートだったので 緊張度も倍でした。でも、撮影自体はまったりと、のびのびした現場でした。あと、私も小道具を作ったんですよ。

――撮影に使う小道具をですか?

はい! 背景に飾るキラキラしたビーズがあったんですけど、それの糸がほどけてしまったので、「じゃあ一から作り直そうか」って、監督をはじめとしたスタッフさんたちが作り直していたんです。それを見て私もやってみたいなって思って、コロコロ転がってきたビーズを拾って糸を通していました(笑)。


自分が思っていても、実際に表現できないと意味がない

――豪華な小道具になりましたね。MVでも山崎さんが作ったビーズが映っているかもですね。2曲目は「星屑のシャンデリア」。

いただいたときに、「なんて! なんて!」って思ったくらい好きな曲です。キラキラして幻想的な楽曲なんです。宮殿に迷い込んだ少女が、大理石の廊下を走っているような、場面がイメージしやすい歌詞です。だからこそ、どういう方向性で歌うべきか迷いました。クール系の楽曲なんですけど、低い声は違うだろうと思ったので、幼さは混ぜつつ、そこまで感情的にはなりすぎず……という塩梅で歌いました。2番からは静かになり、時計のリズムがカチカチと聴こえてくるので、ここだけ息混じりの歌声にしてみようとか。

――リズムや音に合わせて歌声を変えていった。クール系というと、3曲目の「Lunatic Romance」もそうですね。

80年代ガンガンで、低い声のクールで大人の女性というイメージがあります。でも、私にはそういった要素がまるでなくって、どうしていこうかと思いました(笑)。低い声で話しかける……とまではいかないんですけど、ちょっと口をすぼめてしゃくりを意識するように歌いました。AメロやBメロには波があまりないので、その分サビで巻き返すように。高音でしゃくるカ所も、甘くなりすぎないようにクールでそのまま行こうと。

――先ほどからとても丁寧に、楽曲ごとに歌い方を変えていっています。それらはディレクションがあったわけではなく、自ら考えられたのでしょうか。

そうですね。楽曲を聴いたときに、「この曲はこうかな?」とメモしたのをレコーディング時に持っていっていました。4曲目の「空っぽのパペット」もそうですね。

――まさに幻想的という言葉がふさわしいくらいの楽曲だと思います。

歌詞だけ見ると、可愛い系なのかなと思っていたんですけど、聴いた瞬間に衝撃を受けました。物静かで不思議系かと思いきや、裏声や低音など音域をたくさん使った激しい楽曲でしたね。そして、「あなたのおかげで感情や、知らなくていいことを覚えてしまった」というストーリーがあるので、感情的に歌うのは違うかなと思ったんです。

――空っぽだったパペットの心に感情が生まれていくという歌詞ですが、感情を知る前と知った後ではどちらの表現が難しかったですか?

知った後ですね。知る前は無機質っぽい歌い方だったんですけど、知った後は、どの程度感情が変化するのかを考えていきました。レコーディングの時の難易度が高すぎて、自分が思っていても、それを実際に表現できないと意味がないと思ったんです。スタッフさんから、「Aメロ、Bメロは柔らかいけど、サビになるとぐっと変わる。変化がなさそうであるから、しっかり確かめてみて」というディレクションを受けました。

かわいいとはなんだろう

――5曲目「雨と魔法」は心地良いサウンドが印象的ですね。

レコーディング三日前くらいから雨ラッシュだったんです(笑)。なので、雨を感じながら「こういう楽曲なのかな」と日常からヒントを得ていました。悲しいことがあったり、つまずきそうなことがあったりしたときに、ぴったり合うような、心の支えになれるような歌詞やメロディですよね。なので、あまり作り込まずにシンプルに表現していきました。この楽曲が一番なにも考えずに歌えました。レコーディングではいろいろ考えながら歌っていたんですけど、最後に「何も考えずに歌ってみようか」って録ったテイクが使われたくらいです。

――山崎さんの素が詰まった楽曲になりましたね。6曲目は「ドーナツガール」。

「ドーナツガール」は、女の子の恋模様がふんだんに盛り込まれたキュンキュンする楽曲です。曲がかわいいので、そこにどう近づけばいいんだろう……とドーナツを食べながら考えていました(笑)。

――ドーナツ! レコーディング時にですか?

差し入れしていただいたんです。「どーなつ……どーなつ……」と考えていきました(笑)。ハモリやコーラスが盛りだくさんなので、録っても録っても、「あともう一個ハモいきまーす」みたいに。あと、落ちサビで「見えてきそう 知らないNew World」という歌詞があるんですけど、ここは英語っぽい発音か、カタカナっぽい発音かで揺れていたんですけど、私が一番やりやすいのが英語っぽい発音だったので、そちらを採用していただきました。

――なるほど……あれ、かわいさの表現は……?

……(小声で)できなかった……。「かわいいとはなんだろう」と、表現では一番さまよいました。「クールならこんな感じかな」というのが自分の中にあるんですけど、キュートさは難しいです。

――山崎さんはキュートさの塊のような気もするのですが、きっと表現するとなるとまた違うのでしょうか。7曲目の「Zi-Gu-Za-Gu Emotions」はまさかのEDMですね。

実は、私がリクエストした曲なんです。でも、直接「EDMを歌いたい」と言ったわけではなく、私が「EDMサウンドが好きなんですよー」と言っていたのを作・編曲のTak Miyazawaさんが聞いてくれていたみたいで、なので楽曲をいただくまでは知らなくて、びっくりしました!

――そんな経緯があったんですね。だいぶかわいらしいEDMになりましたね。

中毒性が強いですよね。ちょっとロボットぽく歌っていて、なるべくビブラートは使わないように心がけました。

――「空っぽのパペット」のように感情を切った?

感情というよりは、しゃべって、そのまま切る、みたいな。ビブラートもしゃくりも使わず平坦に歌って、そこからエフェクトをかけたら面白いんじゃないかなって。だから「Lunatic Romance」とかと比べて聴いていただきたいです。