腹をくくる古舘伊知郎

『フルタチさん』は、「世の中でひっかかること」を「通りすぎず、ちゃんと引っかかっていく番組」だという。

初回では「トランプタワーがセントラルパークの眺望を独占できる理由」や「どうやって教科書の歴史は変わるのか?」といった「ひっかかる」疑問を解説したり、古舘自身が「Yahoo!ニュース」の編集部に潜入。「ヤフトピ」がどうやってできていくのかをレポートした。また、「おしゃべりモンスター」といわれる古舘伊知郎の脳を最新のMRIで検証したりもした。

『フルタチさん』初回収録後の取材会より

まだまだ手探りながら、「ケーキ戦争が渦巻いている中で、銀座で古ーい言問だんごのお店を開く」と番組開始前に語っていたように、純お笑い系の番組が重なっているこの時間帯の中で差別化するという戦略は成功しているといえるだろう。

何より異質に映るのは、スタッフの"発注"通り役割をこなす司会者が多い昨今のバラエティ番組の中で、古舘伊知郎は自らが前面に立って、自らの色をハッキリと打ち出し、責任をまっとうしているように見えることだ。その腹のくくり方は12年間ため込んだ知識と鬱憤(うっぷん)の賜物だろう。

「破れかぶれになってますね」

『フルタチさん』で開口一番、古舘が言ったように、日テレに挑む民放各局は"負け戦"必至だ。だが、「ぶつかりながら、へこたりながらやっていきたい」という古舘の言葉は他の局の番組も同じ思いだろう。

『スター名鑑』も『アメトーーク』も『モヤさま』も、視聴率至上主義に迎合されることなく、自ら「面白い」と思えることを表現している。『鉄腕!DASH!!』も同じだ。加えて言えば『イッテQ』も、ここに来てなお、みやぞんのような新たな"スター"を作り上げている。

かつての"土8戦争"のように

『モヤモヤさまぁ~ず2』(左から)福田典子アナ、さまぁ~ず=きょう13日の放送より (C)テレビ東京

きょう13日放送の『フルタチさん』では、無声映画に弁士として古舘が実況に挑戦するという。『スター名鑑』は「クイズ!あいつ今ネタ何してる?」といういかにも『スター名鑑』らしい悪意を漂わせた新クイズが行われるようだ。

『モヤさま』も、さまぁ~ずが「田舎エロス」と形容し、「出だしたか?」と言う新アシスタント・福田アナのキャラクターが徐々に発揮されてきた。

面白い番組が重なってしまうのは視聴者としてはうれしい悲鳴だ。ちょっと分散してくれればいいのに、と正直思う。だが、かつて"土8戦争"の盛り上がりとともにテレビが活気づいたのと同じように、"日7戦争"がもっともっと盛り上がり、各局がしのぎを削っていけばまたテレビが活気を取り戻すはずだ。

古舘伊知郎は『フルタチさん』の中で、自らをも鼓舞するように言った。

「テレビよ、奮起せよ!」


(視聴率の数字は、ビデオリサーチ調べ・関東地区)


戸部田誠(てれびのスキマ)
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『コントに捧げた内村光良の怒り』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)などがある。