「先行き不透明で子供を産むのが心配」とは、若い世代からよく聞く言葉です。高度成長期の男性は確かにバラ色の世界が広がっていたのかもしれませんが、歴史を振り返っても先行きが透明な時代はごくまれです。先行き不透明なのが普通なのです。
できるだけ生のデータに接しよう
人生を考えるうえで大切な情報は、極力実際の具体的な生データに触れることが大切です。例えば、「万一の保障はどのくらい必要か」というテーマがあったとします。自分が働けなくなったら子供の教育、医療費、生活費にどのくらい必要なのかと考えます。世にあふれている情報やデータは生命保険会社のものも多いです。当然保険に加入してもらう前提ですので、「万一の場合は、こんなにお金が必要です。だから、これだけ保険に加入する必要があります」的に不安をあおる傾向にあり、また金額もかなり多めです。残された妻が働くことを全く想定していないケースもあります。つまり普通のサラリーマンでも必要額以上の保険に加入させられているということを意味します。
不安をあおることは世間の注目を集める最も有効な手段です。生命保険会社に限らず、政府や官庁関連の発表も例外ではありません。データは使い方によっては、いくらでも違ったニュアンスにすることができます。気になることがあれば、できる限り生のデータを探しに行く姿勢が大切です。いつどのような目的で作られ、どのような手段で情報を収集したのか、アンケート等の作り方、集計の仕方などが克明に決められていて、正しい情報が集められていると納得できる情報に触れることを心がけましょう。
便利なツール「知るぽると」
「知るぽると」は日銀の関連機関である金融広報中央委員会が運営しているサイトです。お金に関するさまざまなデータが掲載されていますが、その中で、知るぽるとホームページトップ→金融と経済の仕組み→「暮らしに身近な統計集」を検索すると人生設計に必要な費用がいろいろ掲載されています。その中の教育・子育ての項目には全部で23のデータが掲載されています。金融広報中央委員会独自のデータもあれば省庁が作成したデータを元にわかりやすく編集しているものもあります。
インターネットで検索すると民間会社や省庁のさまざまなデータが検出されますが、慣れないと膨大な元データであったり、信用性が判別できなかったりしますので、最初に「暮らしに身近な統計集」からスタートするとよいと思います。必ず出典が記載されていますので、元データを検索して詳細を確認することも簡単にできます。
教育費の内訳を知ろう!
前回のコラム「専業主婦・主夫になるには結婚相手の年収は最低いくら必要?」にあるライフプランニングシートで利用した教育費のデータは、内閣府制作統括官(共生社会政策担当)が2010年3月に発表した「インターネットによる子育て費用に関する調査報告書」の概要版を参考にしました。 項目は、「衣類・服飾・雑貨費」「食費」「生活用品費」「医療費」「保育費」「学校教育費」「学校外教育費」「学校外活動費」「子供の携帯電話料費」「おこづかい」「お祝い行事関係費」「子供のための貯金・保険」「レジャー・旅行費」の実に13もの項目に分かれています。そのために実感として把握しやすくなっています。例えば、中学3年生はレジャー費が少なくなり、学校外教育費が急増するなど、塾などに通って遊ぶ暇が無くなる状況が見て取れます。当然お金もかかりますので子供のための貯金もその年は少なくなっています。
さらにそれぞれが2~10項目に細分化されて金額が示されています。例えば学校教育費であれば、「入学日」「授業料」「寄付金」「給食費」「生徒会費等の会費」「修学旅行費等」「課外クラブ費」「制服、通学用品費」「通学交通費」「その他学校外学習費」となっています。
教育費に限らず、生のデータに接することとともに、最終的にはより細かなデータを確認することも考えてください。細目を眺めると海外短期留学やサマーキャンプなどは今後もっと増える可能性があるとわかります。高校生と大学生のデータはありませんが、細目を見ればどこの項目が増えそうなのか予測がつきます。
下記の表を比較すると、15歳の子育て費用よりも、国立大学生の生活費は低くなっていますが、15歳の生活費の中には、塾などの学校外教育費が36万円も含まれています。また15歳までは私立の学校を含めた平均値ですので、私立大学生の176万円と合わせて考えれば、妥当な数値だと判断できます。
グローバル化と子育て
これからの子供は世界の子供が競争相手です。これからの時代は、ますます英語教育は加速するでしょう。語学力だけでなく、小学生の子供を持つ若いファイナンシャルプランナーは、子どもの金銭教育のキャンプに行かせていました。自分たちで何を売るかの商品企画をして、商品を作って、実際に売った後、1時間当たりの単価(労賃)を算出するというものです。
しかし、世界を見渡して大学で学ぶ費用をすべて親がかりという国はどのくらいあるでしょうか。多くは自活して大学に通っています。奨学金制度が改善されるようですが、日本では安易に奨学金を借りて返せなくなるケースが社会問題化しています。問題を先送りしている日本の学生と早くから自活している世界の学生が、社会に出て競争すればどのような結果がでるか、容易に想像できます。これからの親は子供に早くから「大学は自力で勉強する」ことを言い聞かせておくべきではないでしょうか。しっかり勉強して国公立の大学であれば授業料も安いです。
全体の金額だけを見れば、「こんなに1人当たりかかるのか」となりがちですが、細かく細目を見て行けば、これから考えなくてはならない事柄も見えてきますし、長期的な計画があれば、節約できる金額も少なくないでしょう。ここでは細目までは表示できませんが、ぜひ実際に検索してみてください。
<著者プロフィール>
佐藤 章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。
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