『バラいろダンディ』(TOKYO MX、以下「MX」に略)が5日の放送で、司会を務めていた元フジテレビアナウンサー・長谷川豊の降板を発表した。降板理由は自身のブログに人工透析患者を中傷するような文章を書いたことであって番組側に非はないが、それにしてもMXは出演者の降板にまつわるトラブルが多い。

8月には東京都知事選に出馬したジャーナリスト・上杉隆氏が「一方的に『週刊リテラシー』を降板させられた」として対立。3月には岡本夏生が「インフルエンザ感染後、診断書を持たずに出演した」という不可解な理由で『5時に夢中!』を降板。昨年2月にも中村うさぎが「スタッフや共演者との行き違い」を理由に『5時に夢中!』を降板。その他にも、作家の西村賢太が『ニッポン・ダンディ』を、漫画家の西原理恵子が『5時に夢中!』を突然降板するなど頻繁に騒動が起きている。

相次ぐ降板劇の背景には、どんなものがあるのだろうか――。


トラブルは確信犯であり"勲章"

『バラいろダンディ』を降板となったフリーアナウンサーの長谷川豊

MXのトラブルは降板騒動だけではなく、企画や出演者へのクレームは数知れず。その大半を占める『5時に夢中!』『バラいろダンディ』は、生放送番組だけにコントロールしにくいのだが、それを覚悟の上で過激発言が売りの人物をキャスティングしている。

かつて「映らない幻のテレビ局」と揶揄(やゆ)された過去を持ち、「相手にされていない」「どうせ誰も見ていない」の自虐がベースにあるため、怖いものなし。「キー局では絶対に見られない」キャストとトークを売りにして、斬新な差別化を図っている。

特に近年はキー局が連日10数時間に渡って情報番組を生放送しているが、扱うニュースも、コメンテーターのキャスティングも、コメント内容も大差なく無難なものばかり。ハッキリと自論を話すMXの番組で溜飲を下げる人が増え、業界視聴率も高いと言われている。 だから善悪両方の意味でトラブルは確信犯であり、それも含めて活路を見い出しているのは明白。それなりに反省はしつつも、さほど懲りていないし、むしろトラブルはダメージというより、"勲章"のようになっている感すらある。

しかし、MXもただ過激な人物をキャスティングし、生放送で野放しにしているわけではない。西原理恵子の降板時にマツコ・デラックスが、「私たちはルールを守りながら、ギリギリのところで戦ってきた」と語ったように、称賛か批判か、爆笑か激怒か、「紙一重のところをトークできる人物をキャスティングし、最低限のコントロールはしよう」という姿勢がうかがえる。その意味で、『5時に夢中!』『バラいろダンディ』らを手がける大川貴史プロデューサーをはじめ、スタッフの手腕によるところは大きい。

コアなファン狙いだから逃げられない

『淳と隆の週刊リテラシー』で上杉隆氏と共演していたロンドンブーツ1号2号の田村淳

そもそもMXはキー局に属さない独立局だけに、番組編成の自由度が高い。ネットワーク内の同時放送に縛られないため、日中は主婦向け、夜は大人の男性向け、深夜はアニメ好きと、極端にターゲットを絞った番組表を作っている。

視聴率やビッグスポンサーの制約を受けにくい分、割り切って「マスではなくコア狙い」に徹して支持を集めているのだ。コアなファンがいる分、視聴率は取れなくても視聴熱は高く、常に「何かが起きそう」という期待感を抱いているため、多少の騒動でソッポを向かれる心配はない。

これは裏を返せば、視聴率獲得を制作の基準にし、ビッグスポンサーの顔色をうかがい、クレーマーやBPOを恐れる「キー局の番組に物足りなさを感じる人が多い」ことの表れでもある。親交のある某キー局のテレビマンは、「MXがうらやましい」と話していたが、その反面、騒動が起きると「『ほら見たことか』と内心喜んでしまう」とも言っていた。

いまだキー局の番組編成や表現に制限が加わり続けているだけに、MXの自由度が際立つのは必然だろう。問題は、両者の間をゆくテレビ局がないこと。かつてはテレビ東京がその立ち位置に近かったが、近年はあまり他のキー局と変わらない印象になるなど、このあたりにテレビ業界全体の問題点が透けて見える。

影響力が増す中、制作現場は火の車

私自身、『5時に夢中!』『バラいろダンディ』のスタッフから何度か問い合わせを受けたことがあるが、どちらの番組も制作スタンスは真摯だった。ただし、現場は火の車。インパクトや過激さをベースに企画が練られるため、リサーチの時点からADが走り回り、内容は2転3転どころではなく何度も変わるなど、危ういところがあった。

独立局ゆえに予算がなく、人材も少ないのは理解できるが、「本当に大丈夫なの?」と念を押してしまったのも事実。今のところ、そんな脇の甘さも大事にはつながっていないが、2015年度の売上高は164億7,000万円と、5期連続過去最高を更新するなど好調が続くだけに気をつけたいところだ。

今秋から田中みな実がMCを務める昼の帯番組『ひるキュン!』がスタートするなど、情報番組の充実化が進み、音楽番組やドラマなどの制作にも意欲的なMX。東京スカイツリーからの電波放送で1,430万世帯の視聴が可能となり、スマホアプリ「エムキャス」の登場で全国視聴が可能(対応番組のみ)になるなど影響力が増す中、これまでの自由さを保てるのだろうか。

今回のような降板騒動があるくらいの方が、"独立局の星"としてMXは輝き続けるのかもしれない。逆に、それがなくなったら勢いが衰えてしまうのではないか、と感じている。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。