Amazonプライム・ビデオにて全13話が好評配信中の特撮ドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』が、7月からTOKYO MXおよびBS朝日にて放送されている。人間を食らう危険な実験生物「アマゾン」が潜伏している社会で、自らもアマゾンでありながらアマゾンを"狩る"宿命を持つ鷹山仁/仮面ライダーアマゾンアルファと、人間とアマゾンとの間に立って苦悩し、"守る"ために戦う水澤悠/仮面ライダーアマゾンオメガという、2人の仮面ライダーが登場。従来の変身ヒーローのパターンを大幅に壊し、先の読めないスリリングな展開が話題を呼んでいる。
ここでは本作のプロデューサー・白倉伸一郎氏と、全13話のシナリオを手がけた小林靖子氏の両名に、『アマゾンズ』企画の経緯や、キャラクター造形、そして挑戦的なストーリー作りの秘密などをざっくばらんにうかがった。前編では、かつてない数のライダーが登場し当時ファンの度肝を抜いた『仮面ライダー龍騎』の裏話から、『アマゾンズ』に込めた思いと、それらを作品に落としこむための設定作りについて訊いた。
――白倉さんがプロデューサーを務め、小林さんがメインライターを手がけた作品といえば、2002年の『仮面ライダー龍騎』が思い出されます。前作の『仮面ライダーアギト』(2001年)では3人のライダーによる物語を並行して描く群像劇となりましたが、『龍騎』では劇場版やTVスペシャルを含めて13人もの仮面ライダーが登場し、それぞれの「願い」をかけて争いあうという、今までにない斬新なシリーズでしたね。
白倉:仮面ライダーのピンチに、歴代ライダーが助けに来るという流れ、常識を打ち破るつもりで作った『アギト』ですが、その中でもつい(ライダー共闘を)やっちゃうんですよね。実際ドラマが盛り上がりますし。しかしそうなると、今までと同じになっちゃうんです。困ったときの助っ人ライダーという(笑)。そこで、もう一緒に戦うのは無理なレベルまで数を増やしたらどうかと思ったわけですね。「このライダーたち、最後には一緒に戦ってくれるんじゃないか」という視聴者の思いを、完全にあきらめてもらう「数」を設定しようと考えたんです。
小林:そういうお話を、当時のインタビュー記事で読んだような気がします。
白倉:加えて、ライダー同士で戦うというのは「カードバトル」という商品展開からの発想もあるんですよ。意志のない怪物がカードを使うわけにはいきませんから。
小林:『龍騎』で初めて「仮面ライダー」のメインライターをやりましたが、最初はなかなかわからなくて困りましたね。「連続もの」でこういう感じかなっていうのは、半分ぐらい過ぎてようやくつかめたってところです。
白倉:最初はいろいろと注文を出しましたね。こうしてくれああしてくれって。カニ(仮面ライダーシザース)みたいに、戦いに敗れて"死ぬ"ライダーを出してくれって。予定調和みたいなことはしないでねってお願いしました。
小林:シザースは「仮面ライダーにも悪いやつがいて、敗れた者は途中でどんどんいなくなっていく」っていう『龍騎』の世界を強調するためのキャラクターでした。
白倉:それがだんだんと慣れてきて、中盤になると靖子にゃんのほうから「ライダーの数が足りないんですよね」って言ってきて(笑)。レギュラーじゃなくていいから、ニセライダー(オルタナティブ)みたいなキャラを出して、とか言われました。
――『龍騎』もそうですが、小林さんは一年間もの長きに渡る連続ストーリーを伏線消化も含めて綺麗にまとめあげる構成力に優れているように思えます。
小林:いや~構成力ではないと思いますよ。
白倉:言うならば「回収力」じゃないですかね。原作付きのアニメ作品もそうですし、『龍騎』もそうですけど、別の作家が作ったキャラクターであっても見事に引き継いで、キャラをきちんと生かしていくことを考えてくれるんです。1年間も続くドラマについては、最初に「こうしよう」と思っていても、だんだんキャラが独り歩きして、最初の枠から外れてしまうことがあります。そんなとき、枠にはめて引き戻すよりもキャラとして生かしていくことを考える方なんです。
――それは『仮面ライダーアマゾンズ』にも受け継がれていますね。
白倉:『アマゾンズ』は配信オリジナル版とテレビ版と2回観ているんですけど、構成がしっかりしているな、とあらためて感心するところがありますよ。架空の世界だけど、キャラクターがみんな生きている、人生を踏まえて描いている。
小林:白倉さんからあまり褒められることがないので、照れますね(笑)。
――『アマゾンズ』は13話と短いシリーズですが、最初のお話を構想する段階から着地点(最終回)を想定していたのですか?
小林:それはなかったんですよ。最初は話数も短いから、構成を作りますかって言ったら……。
白倉:僕がそれに反対した(笑)。「4話くらい進んでから考えましょうよ」って。
小林:「考えようか」って言って、そのまま最後まで来た感じでしたね(笑)。
白倉:なぜ反対したかというと、それは「小林靖子だから」(笑)! まず重要だと思ったのは、"どういう世界を構築していけるか"が勝負なんじゃないかと、ただの野獣のカンみたいなもので思ったんです。一応、こういう感じのストーリー構想は作ってはあるけれど、キャラクターの動きそのものを細かく決めるとどうにもならんなと思った。
小林:『アマゾンズ』の物語は どこに向かおうとしているのかもわからないくらい、最初は状況だけしか知らされてなかったんです。
白倉:こちらの思惑としては、まず悠(アマゾンオメガ)と仁(アマゾンアルファ)の"対立"と"融和"、という部分を見せようと考えていました。
――養殖(悠)と野生(仁)、対照的な2人の主人公がドラマを作っていくという設定はどこから出てきたのですか?
小林:2人のライダーを出そうというのは決まっていました。白倉さんが、モグラはほしいかなって。
白倉:「養殖と野生って面白くないですか?」って案は靖子にゃんが言い出したことですね(笑)。
小林:坊ちゃんとホームレスとか、対照的なものをいろいろ考えたのですが、最終的にはヒッキー(ひきこもり)とヒモという(笑)。
白倉:ひと言で言い表せないとダメですから、考えに考えてここに行きました。
小林:ヒッキーだからといって、ひ弱な少年にしないというのは、キャスティングの段階からなんとなく決まっていましたね。
白倉:わりとゆるい考えで始めています。少年と大人になると、どうしても少年が大人に教えを乞うという関係性になるじゃないですか。世間のことを何も知らない悠が、仁と出会ったことで影響を受けるという。そうなりがちなんですけれど、それと逆なほうに行かないといけない。2人が同じ方向に行っても面白くないので、仁が悠によって何らかの影響を受けるとか、そういう部分も描くつもりで決めていきました。
ちなみに、最初のキャスティング構想では、マモルと悠の俳優さんが逆だったんですよ。でも、悠には表面上は大人しく見えていて、心の中に野獣を秘めているという雰囲気がほしかった。逆に、マモルは野獣だけど子どもだ、という設定ですしね。キャスティングではだいぶモメましたし、ケンカになりましたね。