静岡県三島市は伊豆半島の付け根に位置し、富士山の裾野に抱かれるように市域が広がる、三嶋大社の門前町として栄えてきた歴史を持つ街だ。三島は新幹線が停車する割に、どちらかといえば"地味"な存在だった。しかし、2015年冬に歩行者用の吊り橋としては日本一の長さを誇る「三島スカイウォーク」が開業し、一躍注目スポットとなった。今回は三島スカイウォークを中心に、あらためて三島の良さを再確認する旅に出掛けてみたい。
源平合戦とも関係深い三嶋大社
JR三島駅までは、東京駅から東海道線の快速などで約2時間。新幹線を使えば1時間弱で到着する。三島駅に下り立ったら、まずは伊豆国の一宮(いちのみや)で、奈良・平安時代の古書にも記録が残るという三嶋大社を参拝しよう。
三嶋大社が歴史上、注目を浴びるのは、源頼朝(1147~1199年)が伊豆で平家打倒の兵を挙げた時の話だろう。頼朝は、治承4年(1180)8月17日の三嶋大社の祭礼の日に、平家方の山木兼隆(かねたか)の屋敷(現在の静岡県伊豆の国市)を襲撃した。その日、山木家の家人たちの多くは三嶋大社の祭礼に出掛けており、守りが手薄だったため、襲撃が成功したと伝わる。
この事件を皮切りに、源平合戦の動乱が始まり、やがて、日本初の武家政権・鎌倉幕府の樹立へとつながっていく。現在、三嶋大社境内には、頼朝が参詣に訪れた際に腰掛けたという「源頼朝 腰掛石」がある。
●information
三嶋大社
静岡県三島市大宮町2-1-5
アクセス: JR東海道新幹線、東海道線三島駅から徒歩約10分
三島の鰻はなぜうまい?
三嶋大社の参拝を終えたら、次は「元箱根港」行きのバスに乗り「三島スカイウォーク」に向かおう。ただしバスは、平日は日中一時間に1本程度しかない(休日は2本程度)。もし次のバスまで時間があるようなら、この辺りで昼食にするのもいいだろう。
三島と言えば、何といっても"鰻(うなぎ)の蒲焼き"が有名で、三島駅・三嶋大社の周辺には多くの鰻屋がある。関東周辺で、特に食通の人々は「鰻といえば三島」というようだが、なぜ三島の鰻はそんなにおいしいのだろうか? どうやら、その秘密は水にあるようだ。
市内のいたる所に富士山の雪解け水が伏流水となって湧き出していることから、三島は古くから「水の都」と呼ばれてきた。この水に鰻をさらすことで、鰻独特の臭みや余分な脂がなくなり、引き締まったおいしい鰻になるのだ。最近は鰻の稚魚が減少し、蒲焼きも少々値が張るのは確かだが、一度は味わってみるのをオススメしたい。
総工費約40億円! 絶景を味わうための橋
おいしい小休止が終わったら、いよいよ「三島スカイウォーク」へ。三嶋大社門前から三島スカイウォークまでは、バスで20分程で到着する。
この三島スカイウォークは歩行者専用としては日本最長の400mの大吊り橋を中心に、花を眺めながらショッピングが楽しめる「スカイガーデン」や、カフェ、ラグジュアリートイレ、広い駐車場なども備わった、複合観光施設だ。早速、入場料を支払い、吊り橋へ向かってみよう。
近くで見ると、長さもさることながら、ケーブルを両岸で持ち上げる主塔の全高も44mに及び、かなりの迫力だ。三島スカイウォークの面白いところは、この橋はいわゆる「生活道路」ではなく、富士山などの素晴らしい景色を楽しむための観光スポットとしてわざわざ建設されたということだ。従って、橋を渡った先には眺望を楽しむための展望デッキと売店、散策路があるだけで、民家は一軒もない。
また、橋と言えば通常、国や自治体などが建設するものと思うが、民間企業が吊り橋をきっかけとして地域の活性化をはかるという事業構想から、総工費約40億円という巨費を投じて架橋したというのも興味深い。
2014年の伊豆縦貫自動車道の開通などにより、三島が単なる「通過点」になってしまうのではという危機感がかねてから地元にあったというが、吊り橋ができてからずいぶんと観光客が増えたという。この吊り橋計画はひとまず成功したといっていいのではないだろうか。
筆者が訪れた日は、残念ながら雲がかかり富士山の姿を見ることがかなわなかったが、三島や沼津の市街地、駿河湾の対岸の静岡市までを一望することができた。朝夕や雨が上がった後などに富士山が見える可能性が高いとのことなので、近い内に再訪したいと思う。
●information
三島スカイウォーク
静岡県三島市笹原新田313
JR三島駅より「元箱根港」行きバスで約25分、「箱根西麓・三島大吊橋」下車すぐ
戦国時代の山城跡で北条氏の築城術を知る
三島の旅、最後は三島スカイウォークからバスで2停留所の場所にある戦国時代の山城「山中城跡」を見学しに行こう。山中城は小田原に本拠を置いた小田原北条氏の支城のひとつで、天正18年(1590)の豊臣秀吉の小田原攻めの際に落城したと伝わる。
この山中城の一番の見どころは、障子の桟(さん)または、食べ物のワッフルの様な形状をした「障子堀」と呼ばれる堀だろう。現在は遺構を保護する目的から芝が植えられた空堀になっているが、当時はローム層が露出し、ひとたび敵が堀に嵌(は)まれば脱出するのが困難だったであろう。
このような形状の堀は、北条氏の築城術のひとつとして知られ、小田原城にも同様の堀の構造が見られるが、ここまできれいな状態では保存されておらず、とても貴重な文化財だ。
●information
山中城跡
静岡県三島市山中新田
JR三島駅より「元箱根港」行きバスで約29分、「山中城跡」下車すぐ
新幹線を使わずとも東京から日帰り可能な三島の旅は、歴史ある古い神社、グルメ、新しい絶景スポット、そして戦国時代の城跡と、とてもバラエティーに富んだものだった。鰻で精をつけ、吊り橋で心地よい風に吹かれる。夏旅にもぴったりな旅先ではないだろうか。
※記事中の情報は2016年7月時点のもの
筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)
旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。