妊娠すると、身体にはたくさんの変化が現れる。これは赤ちゃんを育てるための生理的変化だが、場合によってはそれをコントロールできず、病的な状態となってしまう。そして、妊娠中特有の高血圧や糖尿病になることもあるという。それらの症状や治療法について、順天堂大学医学部附属練馬病院産科婦人科長の荻島大貴先生にうかがった。

「妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病」のリスクファクターは?

血糖値が上がるのは妊婦にとって普通のこと

高血圧・糖尿病というと、何か思い浮かぶものはないだろうか。そう、「生活習慣病」である。実際、「正常な妊娠で起こる体内の変化は、生活習慣病と似ています」と、荻島先生は言う。妊娠すると、赤ちゃんへ栄養を送るために血流が増え、血糖値が上がりやすくなり、コレステロールが増加する。確かに、よく聞く生活習慣病の症状に似ているが、妊婦には普通のことだという。

「妊娠高血圧症候群」は悪化すると母子ともに危険

妊娠すると、身体は赤ちゃんのために血液を増加させていく。なんとその量は、通常の1.5倍。心臓が一度に押し出す血液量も増え、当然血圧も上がりそうだが、実は血圧は下がる。その理由は、血管も同時に拡張してスムーズに血液を流そうとするからなのだそう。しかし、その拡張がうまくできない場合は「妊娠高血圧症候群」になってしまう。ちなみに、一般的に知られる「妊娠中毒症」とは、この妊娠高血圧症候群のことである。

そのリスクとなりうるのは、高年齢での妊娠や肥満など。症状は血圧が高くなるほか、尿にタンパクが増えたりむくんできたりするという。妊娠高血圧症候群に至る前の予防法はなく、産科でそう診断された場合は管理入院して安静を保ち、食事療法や降圧剤の投与などを行うようになる。荻島先生によると、「一番の治療法は、ターミネーション(妊娠を中断すること)でしかない」とのこと。お母さんと子供に負担がかからない範囲で妊娠を継続し、分娩をさせるという。

妊娠高血圧症候群は、症状が悪化すると子宮内胎児発育不全(FGR)※の発症や、最悪の場合、子癇(しかん)という母子ともに命の危険がある状態になることもあるという。そうならないように、身体の変化を定期的に観察していくことが重要となる。

妊娠高血圧症候群と診断された場合、管理入院して安静を保ち、食事療法などを行う

※子宮内胎児発育不全は、妊娠高血圧症候群が関係することもあるが、喫煙や膠原病(こうげんびょう)などが関係するほか、原因不明なことも多い

「妊娠糖尿病」は赤ちゃんの将来にも影響!?

血液が増えることと同様、妊娠中に血糖値が上がりやすくなることも、赤ちゃんに栄養を送るための母体の機能だが、上がりすぎると「妊娠糖尿病」となり、おなかの中で赤ちゃんが肥満児となって難産になってしまうことがある。また、あまりに急激な血糖の変化は赤ちゃんの心臓を止めてしまうこともあるという。

妊娠糖尿病になるリスクがある人は、糖尿病の家族がいる・肥満・高齢など。もしもなってしまった場合は、食事療法やインスリンの投与で管理していく。妊娠中の管理入院で多いのは、切迫早産(今にも早産になりそうな状態)のほか、この妊娠糖尿病なのだそうだ。

妊娠糖尿病は妊娠が終了すれば治るが、将来、糖尿病になりやすくなる。また、生まれた子供が将来的に肥満や糖尿病などになるリスクが高くなると言われている。

妊娠糖尿病と診断された場合、食事療法やインスリンの投与で管理していく

「母子の健康を守るためには、妊婦検診はとても大事」と荻島先生は言う。検診では、母子手帳にお母さんと赤ちゃんの状態を記録していく。それによって異常がないかを観察し、万が一何かが見つかった場合は正しい管理をしていくことが大切だ。

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監修者プロフィール: 荻島大貴

1994年順天堂大学医学部卒業、2000年同大学大学院卒業。現職 順天堂大学医学部付属練馬病院 産科婦人科診療科長・先任准教授。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医・指導医・評議委員、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本周産期・新生児学会周産期専門医、母体保護法指定医。練馬区を中心として城西地区の婦人科がんの診療と周産期医療を行っている。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。