陽性反応が出ても、本当は妊娠していないというケースも

妊娠検査薬で陽性が出たら、「赤ちゃんができた! 」と喜ぶ人は多いだろう。しかし、中には妊娠がすでに終わっているものや、正常ではない妊娠の場合もあるという。それらはいったい、どのようなものなのか、順天堂大学医学部附属練馬病院産科婦人科長の荻島大貴先生にうかがった。

すでに妊娠終了!? ちまたに聞く「化学流産」とは

「化学流産」という言葉を聞いたことはあるだろうか。これは、ごく初期の段階で自然に妊娠が中断されたもので、医学的には「生化学妊娠」と言われる。この場合、妊娠検査薬などで陽性を示すものの、すでに妊娠は終わっているという。そう聞くと、「赤ちゃんが流れてしまった」という思いを抱くかもしれない。しかし、「生化学妊娠は、厳密には流産ではありません」と荻島先生は言う。

現在は、妊娠すると産生される「hCG」という成分を検出する精度が非常に高くなっているため、妊娠を確認しやすくなっているが、昔は妊娠に気付かないうちに生化学妊娠(化学流産)となっていたことも多かったそうだ。現在でも、妊娠検査薬で確かめなければ妊娠とは気づかないうち(月経が少し遅れている程度と認識するような時期)に、実は生化学的妊娠(化学流産)だったという可能性もあるという。ちなみに、市販の妊娠検査薬はこのhCGを検出するもので、月経予定日の4~5日が経ったころから反応が出る。

異常な妊娠の代表格「子宮外妊娠」

検査薬での陽性反応が出たら、まずは産婦人科を訪れることが重要なポイントとなる。その理由は、「正常に子宮内に妊娠しているかを確認する必要があるから」なのだそう。特に、子宮外妊娠(異所性妊娠)などの異常が確認された場合は、緊急手術などの対応が必要となることもある。

子宮外妊娠は、文字通り子宮以外の場所に受精卵が着床してしまうことで、その90%以上が卵管で起こるという。まれには、腹膜や卵巣、子宮頸部で起こることもあるそうだ。

検査は、腟から子宮内を観察する「経腟超音波」を使用して行う。「『胎嚢(たいのう)』と呼ばれる、赤ちゃんが成長するための袋がちゃんと子宮の中にあれば、子宮外妊娠を否定できます」とのこと。この検査は、妊娠6週までに行われる。

「絨毛性疾患」という異常がある場合も

そのほか、検査薬で陽性であるのに異常なものとしては、「絨毛性疾患(じゅうもうせいしっかん)」がある。絨毛とは胎盤の組織のことで、通常はお母さんと赤ちゃんの栄養交換をするためのもの。そのため、絨毛は妊娠によって変化した子宮内膜に入り込んでいる。それが形成される段階から腫瘍となってしまっている場合があるという。この段階では、悪性か良性かの見分けは付かないそうだ。

陽性反応が出たら、まずは産婦人科へ

妊娠の異常という話を聞くと、いろいろな怖いものが潜んでいるように思ってしまうかもしれない。しかし、これらの異常がないことを確認し、さらに2週間が経てば、超音波で数mm~1cmに成長した赤ちゃんや、心臓の動きが見えるという。産婦人科でのチェックは「妊娠してますね。おめでとうございます」と言われるためだけのものではなく、母体の健康を守るためでもあると覚えておこう。

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監修者プロフィール: 荻島大貴

1994年順天堂大学医学部卒業、2000年同大学大学院卒業。現職 順天堂大学医学部付属練馬病院 産科婦人科診療科長・先任准教授。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医・指導医・評議委員、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本周産期・新生児学会周産期専門医、母体保護法指定医。練馬区を中心として城西地区の婦人科がんの診療と周産期医療を行っている。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。