5月に静岡で開催された国内最大級のプラモデルの祭典「第55回静岡ホビーショー」。航空機や戦車などの本格的なモデル、さらにはガンプラの新アイテムが並ぶ中で、個人的にもっともテンションが上がったのが現在放送中のアニメ『マクロスΔ(デルタ)』より、主人公機を3形態変形まで再現したプラモデル「1/72 VF-31J ジークフリード(ハヤテ・インメルマン機)」の展示だった。

バンダイホビー事業部 ハイターゲットチームの内田巧さん 撮影:宮川朋久

「変形」。それは軽度から重度に至るロボットプラモファンにとって特別な響きを持つ言葉ではないだろうか。「変形」を支える「可変機構」は、「プロポーション」「彩色」「ギミック」「ディテール」などとともにプラモデルの主要な評価軸たりうる重要な要素であることは間違いない。今回の「VF-31」はどうなっているのか? 開発でチーフを務めたバンダイホビー事業部 ハイターゲットチームの内田巧さんに話を訊いた。

今回は「1/72 VF-31J ジークフリード(ハヤテ・インメルマン機)」と、『マクロスΔ』Blu-ray特装限定版全9巻のバンダイビジュアルクラブ&プレミアムバンダイ支店購入特典の「1/72 VF-31J ジークフリード(ハヤテ・インメルマン機) クリアカラーver.」の試作品を実際に手にとってもらいながらのインタビューとなった。

内田さんは語る、「バルキリーは究極の可変モデルなんです」。そう、これは究極の可変モデルに挑んだ、世界屈指の技術者たちの戦いの結晶なのだ。

――今までに内田さんは開発でどんなアイテムを担当されているのでしょうか。

ガンプラや「マクロス」などのハイターゲット向けのプラモデルの企画開発を担当しています。実際にどういう商品を作るのかというところから、商品ができるまでですね。

――商品を拝見していて、2015年に発売された「MG 1/100 V2ガンダム Ver.Ka」などの時期に一気に可変プラモのレベルが上がった印象があったのですが、いかがでしょうか。

ガンプラでいうと、例えば「RG 1/144 Zガンダム」などの小型のモデルでも細かいヒンジの再現ができるようになってきました。「V2ガンダム」も含めて、そういう変形の技術が蓄積された結果、ホビーのレベルが上がってきています。

今回の「1/72 VF-31J ジークフリード(ハヤテ・インメルマン機)」では、ロック機構というものを採用しています。これによって、1回組み立てるとちょっとやそっとではパーツがはずれないように強化されています。

――それは『マクロスF』の「1/72 VF-25F メサイアバルキリー」の時にもあったものなのですか?

「メサイア」の時にはここまでかっちりとしたロック機構はありませんでした。実際は「メサイア」の後に発売された「1/72 VF-27γルシファーバルキリー ブレラ・スターン機」からですね。そこからさらに見直しを加えて、「VF-31」へ進化しています。過去の分析から次に生かそうということは繰り返し行われていますので、その分が徐々に徐々によくなってきているというところですね。

――「VF-31」に関してはファイター形態の"面"の部分もかなりきれいになっている印象があります。

「マクロス」の可変プラモデルに関しては、どれだけファイター形態の時のデザインを崩さずにバトロイドに変形できるかをポイントにしています。やはりただ変形できるというだけではなくて、ファイターをより航空機モデルに近いものにしていくことは「VF-25」の時にも意識していたことですので、今回『マクロスΔ』で変形が複雑になっていたとしても、なんとしても再現しようというところは最初からありました。

――最初に「VF-31 ジークフリード」を見た時はどのような印象でしたか。そもそも形式はどのような形で最初受け取るものなのですか?

最初は河森(正治)さんが描いたデザイン画からですね。そこからサテライトさんがCGを作成されて、最終的にはそのモデルデータをいただいて商品の参考にさせていただきました。

「VF-31」は、最初にパッと見た時に変形のプロセスが想像しにくいなと。お腹のたたみ方が印象的ではあるんですけれども、「YF-30 クロノス」の時からもさらに変わっているんですね。最初に見た時には先端が回転するというところもわからなかったので。

――腕の収納の仕方も独特ですよね。

腕の収納は主翼の下に入っています。ここはクリアバージョンで見ていただいたほうがより伝わるかもしれないですね。

――プラモデルを作られている方から見て、「マクロス」シリーズのバルキリーの魅力はどんなところにあるのでしょう。

やはり可変というところが一番かなと。『マクロスF』の時からそうなのですが、最初に企画する時にも、やはり変形する商品は絶対にやりたい。ファイターだけ、バトロイドだけではバルキリーの魅力は伝わらないと思っています。

――三段変形プラモを展開したのは「1/72 VF-25F メサイアバルキリー」からでしょうか?

三段変形は、アリイ(有井製作所、現・マイクロエース)さんやイマイ(今井科学)さんの時代に『超時空要塞マクロス』のモデルも発売されています。バンダイとして一から可変する商品としてやっているのは、差し替え変形になりますが、『マクロス2』の「1/100 VF-2 ネックスバルキリー」、『マクロス7』の「1/100 VF-19改 ファイヤーバルキリー」などですね。「メサイア」も差し替えは一部あるのですが、1/72で精密にプロポーションなども意識したものは「メサイア」からになりますね。

――今回の「VF-31」は完全に差し替えなしですか?

各形態のプロポーションをまずは完全に再現したいという狙いで、一部差し替えを採用しています。細かい変形の再現とギミックを両立させようとすると、デザイン上で難しかったり、強度面に不安があったりということが過去の積み上げの中でありました。そこで、今回のモデルではギミックを優先するよりも変形のしやすさ、遊びやすさ、そして各形態の保持力を追求しています。その上で、武装が展開するところなど、設定準拠で仕上がりとして追い込みたいところは差し替えで再現しています。