――今回、監督をはじめ、メインスタッフの方はバイクに乗っている方ばかりになっていますが、そのあたり意識したのですか?

私には「オートバイのことがわかる監督」としてオファーが来たんですけど、私以外のスタッフは、そんなことはまったく関係なく選ばれました。なのに、なぜかほとんどがバイク乗りという、不思議なことに。役者さんだと男性陣は、実家がバイク屋みたいな方もいましたね。一方、女性陣は乗ったことも触ったこともない方がほとんど……いや、全員かな。なので最初は大変でしたね。「ここでアイドリングから発進して、アクセル開けて、曲がりながら……」とか説明しても、まったく理解してもらえない(笑)。佐倉羽音の口バイクも、演じている上田麗奈さんに「ここでエンジンをかけて、加速していってください」といっても、「はい?」って感じで。彼女も大変だったと思います。

――特に女性の方には難しいでしょうね。

音響監督が必死で説明するんだけど、まったくコミュニケーションが取れない感じです(笑)。「それなら実車に触れてもらおう」ということで、バイクを用意して、サイドスタンドをあげて、押してもらって、実際にエンジンをかけてもらいました。人によっては、ヘルメットをかぶって、後ろに乗ってもらい実際に走りもしました。そうしたら、皆さん豹変しましたね。音響監督の指示が急に理解できるようになって、すごくやりやすくなったようでした。ただ、細かな用語の説明は必要で、例えば「チョークを引く」みたいに、今だと普通に乗っている人でもわからないような用語を説明するのは本当に大変でした。基本的には音響監督に全部任せちゃいましたけど(笑)。

――音響監督さんがバイク乗りでよかったですね(笑)

本当に(笑)。音響監督がわからなければ、僕が直接やるしかなかったですから。

――逆にメインスタッフがバイク好きばかりだからこそ困ったことはありましたか?

例えば、フルロックターンと半クラッチを「俺は使う」「俺は使わない」で騒ぎになることもありましたね。なにしろ、それぞれに自分が正しいと思い込んでいますから(笑)。

――監督が原作を読んだ際に、ここは絶対に外せないと思ったエピソードはありますか?

個別なエピソードではないですが、とにかく、「一番過激なところは残す」ということですね。尺の問題があるので、どうしても外さざるを得ないエピソードも出てくるのですが、そのときの基準として、一番危なそうなところを残す。自転車の話とか、北海道ツーリングで教師が生徒にお酒を飲ませそうになる話とか、学校で賭けをやる話とか、危なそうな話がいっぱいあるんですけど、それは全部やろうと思いました。

『ばくおん!!』第5話「つーりんぐ!!」。担任の猿山猿子が羽音たちに飲酒をすすめるシーン

――カブをスレッジハンマーでぶっ壊すシーンは絶対にやらないと思っていました。

そうでしょ? いろいろと言われるだろうなとは思ったんですけど、最初からやると決めていました。それが成功しているか、失敗しているかは別にして、観ている人に作り手がとりあえず頑張ってる感は伝わったのではないかと思います。

『ばくおん!!』第8話「ふゆやすみ!!」。スレッジハンマーでカブを壊すシーン

――ちなみに監督のお気に入りのキャラクターは?

来夢先輩ですね。正直に言うとひいきしていて、来夢先輩のカットはみんなカッコいいんですよ。もちろん、私がそういう風にしているからなんですけど(笑)。最初、声をどうしようか、息遣いくらいは入れようかという話もあったんですけど、結局、何も喋らないことになりました。来夢先輩は、原作者の哲学的なところを体現するキャラとして用意されているので立ち位置がカッコいいんです。登場人物の中では、恩紗も見得を切るんですけど、それって女子高生の浅はかな見得でしかない。実は、それがかわいいんですけどね! でも来夢先輩は本当に見得が切れるキャラなので、彼女には決めポーズが用意できる。彼女が気持ちを表す手段はマックスターンしかないんですけど、それがまたカッコいい(笑)。

『ばくおん!!』最終回・第12話「もしものせかい!!」。来夢先輩

――6月21日からBlu-ray&DVD第1巻が発売中ですが、Blu-ray&DVDであらためて観てもらいたいポイントはありますか?

『ばくおん!!』は、一発芸みたいな作品だと思っています。残業帰りの若いサラリーマンの兄ちゃんが、夜中に家に帰ってきて、ちょっとビールでも飲みながらテレビをつけたら、たまたま放送していた『ばくおん!!』を観る。その兄ちゃんも昔バイクに乗っていたものだから、思わずバカ笑いしてしまい、次の日起きたらもう覚えていないんだけど、何かスッキリ……。そんな作品になればいいなと思って作りました。だから、監督としては正しくないのかもしれませんが、この作品がバイクの販売促進になればいいとか、バイクを知らなかった人に興味を持ってもらいたいって気持ちはあまりないんですよ。あらためて、Blu-ray&DVDを観てもらうのであれば、昔のバイク仲間が集まったときの酒の肴みたいな感じで、みんなで昔を思い出しながらガハガハ笑ってもらいたいですね。

メインキャスト・佐倉羽音役の上田麗奈さんと三ノ輪聖役の山口立花子さんの『ばくおん!!』対談はコチラ

(C)おりもとみまな(ヤングチャンピオン烈)/ばくおん!!製作委員会