日本マクドナルドが業績不振に陥る一方で、シェイクシャックやカールスジュニアといった海外の専門店が次々に上陸を果たす日本のハンバーガー業界。老舗と新興勢力が顧客獲得でしのぎを削る有様は、“ハンバーガー戦争”とでも形容したくなるほどだ。風雲急を告げる業界にあって、日本勢はどのような戦略を描いているのだろうか。モスバーガーを運営するモスフードサービスで話を聞いた。
成熟市場ならではの混戦模様
なぜ今、日本でハンバーガー戦争が起こっているのか。その背景として、“食”に関する成熟した市場の存在を挙げるのは、モスフードサービス執行役員・総合企画室長の千原一晃氏だ。
モスの1号店がオープンした1970年代には、まだ珍しい食べ物だったであろうハンバーガー。マックとモスが競い合うように店舗網を拡大した結果、いつしかハンバーガーは当たり前のメニューとなり、ある意味でありふれた存在となっていった。その成熟市場に商機ありとみたのが、続々と乗り込んできている海外グルメバーガー勢力だと千原氏は分析する。
味、素材、ボリューム、バーガーショップの雰囲気など、ハンバーガーが持つ本質的な価値に焦点を当て、その魅力を再認識させるような戦略で日本市場に打って出たグルメバーガー勢力。商品の値段は総じて高めだが、その価格設定の裏には「既存のハンバーガーとは違う」という自信が透けて見える。日本の成熟市場は、高級・高品質路線のハンバーガーを展開する海外勢の出店に敏感に反応した。
高品質バーガーの市場は「決してニッチではない」
グルメバーガー勢の日本事業は総じて好調な様子。ニューヨーク発のバーガーショップであるシェイクシャックとベアバーガーは、両社とも2016年に入って日本2号店を開業した。2016年3月に秋葉原に1号店をオープンし、18年ぶりの日本再上陸を果たしたカールスジュニアは、今後10年で150店舗まで事業を拡大するという方針を打ち出している。
従来のハンバーガーに飽き足らず、もう少しプレミア感があり、ボリュームのある商品を望む層はかなりいるとの見方を示すカールスジュニアジャパンの渡邉氏。(2016年5月10日のAKB48ブランド大使就任式にて撮影) |
以前お話をうかがったカールスジュニアジャパンの渡邉雅人代表取締役社長は、日本におけるグルメバーガー市場を「決してニッチとは呼べない」大きさだと表現した。マックとモスが拡大に努めたてきたハンバーガー市場は、多種多様なメニューが存在する日本の外食業界にあっても、品目別に見ると最大級の規模だ。高価格のグルメバーガーに手を伸ばすのが一部のバーガーファンに限られるとしても、分母が大きいぶん、その顧客層は市場規模としてみた場合決して小さくないというのが同氏の見立てだ。
グルメバーガー勢の侵攻を日本の老舗企業はどう捉えているのだろうか。前出の千原氏は、市場の活性化につながる昨今の動きは「脅威というより大歓迎」と話す。仮に品質にこだわらない激安バーガーショップが海外から乗り込んできたのであれば、日本におけるハンバーガーのブランド価値は低下し、既存バーガーチェーンにも悪影響が及ぶおそれがあった。高級店の上陸とともにグルメバーガーブームが到来し、ハンバーガーの魅力が見直されるような流れは、品質重視の姿勢を堅持してきたモスにとっても歓迎すべき事象だったのだ。