暦の上では、もう夏である。実際の夏休みも近づいている。夏休みに、どこかへ行こうとしたときに、まず考えるのは、「青春18きっぷ」の利用である。
多くの人は、「青春18きっぷ」が普通列車乗り放題のきっぷであることは知っているはずだ。ただし、このきっぷには、普通列車乗り放題のみということによるさまざまな制約がある。その制約を知ったうえで、よい旅をしてほしい。
「青春18きっぷ」とはなにか?
まず「青春18きっぷ」とは、全国のJR線の普通列車(快速列車も含む)が一日乗り放題のきっぷが5日分セットになった、夏休み・冬休み・春休みの限定きっぷである。指定席券売機や「みどりの窓口」などで買うことができる。
値段は11,850円。一日あたりに換算すると、2,370円だ。使用一回あたりの有効期限は、一日である。複数人でも、同じ行程で旅行をするなら、一緒にこのきっぷを使用することができる。基本的には24時まで有効である。東京や大阪の電車特定区間内では、終電まで使用することができる。
特急列車や(現在は定期列車では存在しないものの)急行列車には乗ることができない。乗る場合は、乗車券や特急券を買わなくてはならない。普通列車のグリーン車に乗る場合は、自由席ならば別にグリーン券を買えば乗れる。ライナー列車も、ライナー券を買えば普通車ならOKだ。
気をつけるべきルールは?
新幹線が各地に開通したことにともない、第三セクターになった区間がある。その場合、乗れるケースと乗れないケースがある。青い森鉄道の青森~野辺地~八戸、あいの風とやま鉄道の高岡~富山、IRいしかわ鉄道の金沢~津幡は、普通列車の自由席に乗車してJR線へと通過利用する場合に限り、利用できる。また、ここで名前が出た駅では途中下車できる。しかし、第三セクター各駅で下車した場合、第三セクター乗車区間の全区間の運賃が必要になっている。
なぜこのようなことになっているのか。ここで挙げられた野辺地・八戸・高岡・津幡からは、孤立して運行しているJR在来線があるからだ。そのJR在来線に乗れるようにするために、特例として乗車できるようになっている。
また、青函トンネルの区間では北海道新幹線のみしか走っておらず、その新幹線はすべて特急として扱われている。北海道新幹線の奥津軽いまべつ~木古内と、道南いさりび鉄道全線は、「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」(2,300円)で乗ることができる。他にも、JR北海道の石勝線の新夕張~新得では、特急列車しか走っていないため、特例として特急列車に乗車できる。
実際に「青春18きっぷ」の旅に行こう!
「青春18きっぷ」の旅をするには、まず「普通列車」であることに注意していただきたい。特急列車のように、スピードも速くなければ、座席が快適であるわけでもない。最近は、地方でも都会の通勤電車と同じようなロングシートであることも多い。ただし、名古屋圏や関西圏や福岡圏では、「快速」や「新快速」などといった名称で、転換クロスシートで進行方向向きに座ることができる速達タイプの列車も走っている。前へ前へと進むには、こういった列車をぜひ活用していただきたい。
また、普通列車の少ない区間もある。JR北海道の大半、JR東日本の上越線水上~越後湯沢、JR東海の中央本線塩尻~中津川、JR九州の日豊本線佐伯~延岡などがあげられる。幹線であっても県境だったり、人口が少なかったりする地域では列車の本数は少ないので、その場合は別料金を払っても特急や新幹線で移動することを考えたほうがスムーズだ。
また、最近では夜行の快速列車は少ない。「ムーンライトながら」「ムーンライト信州」は臨時列車であり、運行日も決まっている。もちろん、そういった列車は人気だ。指定券は早めに押さえておこう。
大都市圏のように、列車本数が多いところに乗るだけなら、気ままに動いてもいい。しかし、長距離を移動する場合には、しっかりとした計画を立てることが必要だ。その場合に役立つのは、紙の時刻表である。ちょっと重いが、『JTB時刻表』(JTBパブリッシング)、『JR時刻表』(交通新聞社)のいずれかは携えて旅に出たい。とくに、列車の遅れなどで大きく計画を変えなければいけない場合は、こういった時刻表が役に立つ。
そして何より、無理はしないということである。いまは、夜行列車も少ないので、何連泊も列車内で泊まるということは不可能だ。あまりにも無理な行程は組まず、格安のビジネスホテルでいいから宿泊先は確保し、夜はよく眠ることが大事だ。
おトクに使えるかどうかについては、一日分のもとを取れてプラスアルファになるかならないか程度で十分だ。とくに初心者の場合、いろいろと見て回りたいだろう。東京駅からなら、富士の手前の吉原(静岡県)、甲府の少し先の塩崎(山梨県)まで行けば、十分もとが取れてしまう程度の金額の設定でしかない。列車本数の多い地域を回るなら、各地を観光しても大丈夫な程度にはなっている。ある程度余裕を持って計画を立て、無理をせずにぜひよい旅を。
※価格はすべて税込
著者プロフィール: 小林拓矢
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。フリーライター。大学在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道、時事社会その他についてウェブや雑誌・ムックに執筆。単著『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に共著者として参加。