逆マタハラを解決する制度やインセンティブも重要
―現在社会ではマタハラの他、制度を利用する人をサポートする側が痛みを感じる「逆マタハラ」も問題視されています。実際に逆マタハラの相談を受けることはありますか?
設立した2014年当時からも、逆マタハラに関するメールはありました。「産休・育休で休んでいる人たちの業務のしわ寄せが自分たちに降り注いできて、自分たちも残業に残業で血へどを吐く思いだ」というような声です。実際、私たち団体はProFutureに協力していただき、ProFutureに登録している企業へ意識調査をしたところ、7割の企業は産休・育休で人が抜けたフォローは残った人たちがやるという回答でした。調査前、大手だったら代替要員が入っているんだろうなと私自身も思っていたんですが、企業規模を問わず、多くの企業で代替要員が入っていないというのが現状です。
その結果、業務のしわ寄せがおきて逆マタハラと主張するのは当然です。逆マタハラの改善がマタハラ改善のポイントになります。フォローする人たちの評価制度や対価を見直すとか、結婚・妊娠を望まない人も長期の休暇がとれる制度の導入とか、在宅ワークを誰もがとれる制度にするとか。代替要員として派遣社員を活用する以外にも、いつ誰が抜けてもいいようにペア制度を設けるのもひとつの方法だと思います。実際にそうした取り組みをしている企業もあります。
―マタハラ・逆マタハラを防ぐために、当事者やその周囲の人、企業はどのような取り組みが必要になると考えていますか?
先ほど、フォローする人たちにインセンティブをと話しましたが、具体的にどのような制度を整えるのがいいのかはその企業の業種や業態にもよります。また、同業他社の制度をまねて実践しても、必ずしもうまくいくとは限りません。従業員にヒアリングしてトライアンドエラーを繰り返し、その企業で自分たちに合った解決策を考えるしかないです。
マタハラを考えることは働き方を考えることです。場合によっては、企業自体のルール設計から変える必要があるかもしれません。ただ、総じて言えることは、マタハラ解決の方法はダイバーシティインクルージョンだと思っています。妊娠中や子育て中の就労者というダイバーシティ人材と普通の人が分断されている状態が今です。
マタハラ対策が手厚い企業の生産性は2.54倍にも!?
―マタハラ・逆マタハラを解決することによって、企業にどのような影響が想定できるでしょうか?
ワークライフバランスにおける生産性に関して、妊娠・出産や子育てに対してほとんど何もしていない企業と法律の範囲内で制度を設けている企業、法律よりももっと手厚い制度を設けている企業を比較すると、何もしていない企業に比べて手厚い制度を設けている企業は2.54倍、生産性が高くなっているというデータもあります(出典: RIETI BBL(2011年12月21日)「企業のパフォーマンスとWLBや女性の人材活用との関係: RIETIの企業調査から見えてきたこと」山口一男シカゴ大学教授、RIETI客員研究員)。
マタハラを解決することはダイバーシティインクルージョンの達成につながりますし、ダイバーシティインクルージョンが達成できれば社員のパフォーマンスは上がり、結果、企業の生産性の向上につながるという経営戦略になり得ます。加えて、働きやすい環境を整えることによって働きやすい企業というイメージがつき、優秀な人材の採用を成功させることができます。手厚い制度を実施している企業では人が辞めなくなり、長いスパンをかけて人材育成ができるというサイクルが回り始めます。
人はどんな時にモチベーションを高めることができるかというと、やはり、自分が頼られている、自分が役に立っている、自分が企業から大事にされている・愛されていると感じた時だと思います。そして、その時に最大のパフォーマンスを発揮します。私が企業を取材をした感覚でも、マタハラがない企業は大体、利益もあがっています。そうした認識がもっと広まっていけばと願っています。
プロフィール: 小酒部さやか
NPO法人マタハラNet代表理事。自身が受けたマタニティハラスメント被害の経験より、2014年7月にマタハラNetを設立。2015年3月、女性の地位向上などへの貢献をたたえるアメリカ国務省の「国際勇気ある女性賞」を日本人で初めて受賞。国際平和や社会正義・倫理問題を研究する機関「カーネギー・カウンシル」上級研究員の取材を受けるなど国内・海外を問わず多数のメディアに注目されている。女性も男性も、若者も高齢者も、また育児や介護をしている方など、さまざまな状況の人々の多様な働き方を肯定し、安心して働き続けることのできる思いやりある社会の実現のため、日々活動を行っている。