2017年よりマタハラ対策は義務化

―マタハラに対して今、国はどのような取り組みをしているのでしょうか?

2015年に私たち団体は、育介法(育児介護休業法)と均等法(男女雇用機会均等法)の改正の際、非正規雇用者の育休取得要件の緩和をお願いしました。従来では、同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること、子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること、子の2歳の誕生日の前々日までに労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないこと、という要件でした。2017年1月1日からは、同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること、子が1歳6カ月に達するまでの間に労働契約の期間が満了し、かつ、契約の更新がないことが明らかでないこと、という2つの要件に緩和されます。

なお育介法に関しては、子どもの看護休暇が1日単位だったのが半日単位で取得できるようになり、育児休業の対象となる子どもは法律上の親子関係ある実子・養子のみだったのが法律上の親子関係に準じる子どもに拡大されます。

2017年1月1日からは、非正規雇用者の育休取得条件が緩和される(写真はイメージ)

均等法に関しては、私たち団体もマタハラ対策を企業に義務化を提唱し、2016年3月に国会に参考人として招致されました。その後、全会一致で可決され、2017年1月1日から企業に義務化が施行されることになりました。これでマタハラがセクハラと同じように、常識問題になっていくだろうなと感じています。なお、介護休業も2017年1月1日から要件が緩和されます。私たち団体は介護も視野に入れて要望活動をしていました。マタハラ防止はケアハラ(ケアハラスメント、介護と仕事との両立を侵害されること)防止にもなるので、育休を緩和すれば介護休も緩和されるんです。

今、6,7割の女性が非正規雇用で働いているという中で、非正規雇用者への制度は欠かせないものです。また、2030年までに30~34歳女性の就業率が82.1%以上でないと年金が破綻するという見通しもあります(出典: 独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計(平成26年2月)」)。ゼロ成長シナリオかつ、労働市場への参加が進まない場合だと、現在の見通しでは2030年における30~34歳女性の就業率は66.6%ですので、あと約15年で約15%も向上させるためには、よっぽど抜本的な取り組みが必要になるでしょう。

―現在、出産の前後にわたって包括的に支援したりママ社員を夜勤免除にしたりなど、さまざま企業が女性支援に取り組んでいますが、現段階の企業意識はどのくらいのレベルだと思いますか?

業種を問わず、できている企業とできていない企業の差が大きいと思います。厚労省が調査したデータでも、私たち団体が調査したデータでも、マタハラの有無は企業規模を問わないということが分かっています。人が抜けた時に代替要員が入らないのではという意識から、マタハラは中小企業で起こりやすいだろうと考えられがちですが、大企業でもありますし、被害者支援でうかがった話では、誰でも知っているような大企業で起こっていることもありました。2017年からマタハラ対策の義務化が施行されるので、これからだと思いますね。もちろん、法律よりも手厚い制度を設けているような企業もあります。

マタハラ被害にあった時にすべきこと

―「マタハラを受けているかもしれない」と思った時に知っておきたいこと、行動すべきことはなんだと思いますか?

まずはひとりで抱え込まないで、第三者に相談すること。義務化が施行されれば、必ず相談窓口が企業に設けられるので、その相談窓口がきちんと守秘義務が守られていることを確認した上で、きちんと声をあげるということが大事ですよね。

労働問題は、その当事者が声をあげないとないものにされてしまいます。同僚からされたらまずは上司に相談、上司からされたら企業内の相談窓口に相談、企業内の組織ぐるみでされたなら第三者機関に相談するようにしましょう。その際、証拠が必要になります。録音や書面での証拠などですね。また、いつ誰にどんな言葉を言われたのか、詳細に書かれた日記などあればそれも証拠となる可能性が高いです。

妊娠による解雇は違法なので、企業は理由をすり替えることも想定できます。「妊娠が理由ではなく本人の能力不足だ」「業績が悪化しているから」などという理由ですね。裁判するとかしないとかに関わらず、自分を守る正確な情報を確保しておくことは大切です。

マタハラ解決にはパートナーの行動も必要になる(写真はイメージ)

―パートナーが妊娠・子育てをしながら働いている場合、男性としてこれは知っていてほしいということはありますか?

「マタハラは女性だけの問題ではない」ということですね。共働き世帯でしたら、仕事も家事も育児も奥さんにではなくて、旦那さんの家事育児の参加が必要になってきますし、そのためにも、男性の育休取得率が向上してほしいなと思っています。マタハラは男性の育休取得にもつながってくる問題なんだと思ってほしいです。

パワハラ(パワーハラスメント)やセクハラ(セクシャルハラスメント)は個人の人権問題ですが、マタハラは働き方の問題にも関わっています。だからこそ、マタハラは女性だけの問題ではないと考えています。また、これはパートナーに限らず言えることですが、マタハラは日本の少子化と労働力不足に直結する、日本の経済問題だということを知ってもらいたいです。

マタハラはそれぞれのハラスメントに関係している(出典: マタハラNet)

マタハラそのもので言うと、私は「三大ハラスメント」として、パワハラとセクハラ、そして、マタハラがあげられると考えていますが、マタハラはふたつのハラスメントの両方にまたがっています。加えて言うと、マタハラは「ファミリーハラスメント」のひとつであり、そのほかのファミリーハラスメントには、パタハラ(パタニティハラスメント、男性が育児参加する権利を侵害されること)、ケアハラがあります。その意味で、マタハラはあらゆるハラスメントの要素を含んでいることを知ってほしいなと思っています。