ブツクサ言っていたころに先輩の助言

――芸能生活の中で、誰かの言ってくれた言葉で印象に残っているものはありますか?

中村:ありますね。一番デカかったのは、24~5歳のブツクサ言ってたころの言葉です。「お前は何がしたいんだ」と言われて、即答できなくなっている自分がいて。デビューしたばかりのころは、無駄な野心と野望ばかりだったんですけど、そのころは何をしたいのか、どうなりたいのかが見えなくなってて。それで、初心を思い返したら、ブツクサ言うことがなくなったんです。結局、自分次第なんだなと思いました。

――それは先輩の助言だったんですか?

中村:そうです。

――そういうブツクサ言ってた時期と、錆がついてた時期は、重なっていたんですか?

中村:重なってたと思います。バカだったんですよね。ちゃんとバカだったというか。若い頃って……と言っても今も若いんで、思春期から地に足が着くまでって、頭でっかちでわかったような気になるもんですよね。自分ってものを拡大解釈するか、すごく小さく見るかのどっちかだと思うんですけど、僕は拡大解釈するほうのバカだったんで。

――今はどういう解釈をされるようになったんでしょう。

中村:今は、拡大解釈はせずに、一個一個やりたいことのために頑張るだけって感じです。もちろん、主演をやらせてもらったり、いろいろ背負うべき責任もできてきて、それは喜び勇んで背負うつもりだし、うれしい限りなんですけど。そういうことって、年齢ともリンクしていて、企業に務めている人も、僕らくらいの年齢になえると、責任も負わないといけない分、自由にやる機会も与えられたりするじゃないですか。そういうことを聞いたり何かで読んだりすると、親近感を覚えるんですよね。

――昨年出演されていたドラマ『下町ロケット』で演じたのも、大企業である帝国重工に勤める宇宙開発事業部の若手エンジニアで、ご自身と同世代の役したよね。

中村:浅木捷平という役は、僕の中での解釈では、うまいこと生きてるマイペースなヤツだと思ったんですよ。帝国重工という大会社にいて、すぐ横では権力争いをしているけれど、浅木は技術職として向き合えてて……。

――見ている側としては、ピュアな印象のほうが強かったのですが、ピュアに技術職をやるには、マイペースなところもあったからだということですか。面白いですね。

中村:そうなんです。根っこはピュアなんだけど、それだけだったら、つくだ製作所のような零細企業に勤めればいい。でもちゃんと可能性のある大会社に勤めて、若手だけれどそこそこのポストについて、仕事も任せられている。そういう部分での器用さもあるのかなという解釈をしていました。

社会人としてしっかり背負いたい

――では、主演映画の『星ガ丘ワンダーランド』で演じた瀬生温人という人物は、どういう解釈をされていましたか?

中村:温人っていうやつは、苔みたいな人間で、ひっそりと自生してささやかに生きてる青年だと思いましたね。なにかしらの過去の出来事に鎖でつながれてて、誰がつないだでもないのに、ほどけずにいて、そのせいで年をとっても子供の部分が残っている。この物語はいろんな出会いと出来事からスタートするんですけど、こいつの人生において、初めて能動的に動いた瞬間が描かれてるんじゃないかと思って役を演じました。最初と最後でもちろん変化はあるんですけど、あくまでもささやかな男の人生を描いているのだと、そんな男の一場面だと思ってやってましたね。

――さきほど、責任も出てくるという話がありましたが、こうした主演作での責任感はどう感じてましたか?

中村:自分が見てきた先輩の素敵な主演像って、前向きで楽しくて、仕事でもプライベートでも周りに刺激を与えてくれるようなものだったんですよね。それって、背中で語れるような人だと思うので、そういう人になりたいと思っています。でも、映画は見てもらってなんぼの商業作品でもあるので、社会人としてしっかりと背負っていかないとなって思いながら、今朝は起きてきました(笑)。

――20代では、何をやりたいかすぐに答えられなかったという話もありましたが、最後に、今の野望はなんですか?

中村:いろんなことができるのは楽しいですよね。仕事はもう全部やりたいですよ。今公開されてる映画は全部出たいし、月曜から日曜まで毎日ドラマに出たいです。僕はそういう人間なんです(笑)。

――やっぱり今は即答なんですね。ありがとうございました。

映画『星ガ丘ワンダーランド』
「星ガ丘駅」の駅員として働く主人公の温人(中村倫也)のもとに、20年前に姿を消した母の訃報が届き、離れ離れになっていた兄(新井浩文)、そして義理の姉(佐々木希)と弟(菅田将暉)と再会。閉ざされた過去が明らかになっていく物語。CMクリエイター・柳沢翔が初の監督&オリジナル脚本を手掛けた長編映画第1作目。

西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。