――こんな世の中でも、「したたかさ」を身に付けていくと、もうちょっと生きやすくなるんでしょうか?

木暮太一さん

この本の中でも書きましたが、「したたか」って漢字で書くと「強か」なんですよ。したたかさを身に付ける=強さを身に付けるということなんですけど、何が来てもはね返すようないわゆる「鉄の強さ」ではなくて、ただある一点を勝ち取るためにはあらゆる手段を探していくという強さです。

自分がとり得る手段はすべて使ってでも、自分が目指すところに行くというのが、したたかさの定義だと思います。したたかささえあれば、なんでもできる。というのは、結局みんな能力の差なんてそんなにないからなんです。あるのは「覚悟の差」なんですよね。覚悟を持ってやるかやらないかです。

僕の友人に、海外へ行って世界的な評価を受けた職人がいるんです。本人も言っていますが、最初に勉強のために現地を訪れたときは、厳密に言うと「不法滞在」なんですよ(笑)。10代で日本を離れて、働いちゃいけないのに現場でいろいろと勉強していって……今ではその国の政府から賞をもらうまでにいたっている(笑)。

もちろん彼に才能がなかったわけでは当然ないですし、圧倒的な努力をしたんですけれど、でもそこに至るまで何が違うのかなっていうと、「やるかやらないか」だけだったと思うんですよね。これはなんとしてでも最後までやるんだ、どんな手段を使ってでもやる、っていう覚悟さえあれば、何でもできるんじゃないかなって。まあ、この例はあんまり勧められるものではないんですけどね(笑)。

――ルール違反をしてでもやり遂げるという覚悟というか、したたかさがあったから、その方の「今」があるんですよね。

当然、法律は犯してはいけないのですが、世間的な常識とか定説とか、いわゆるこの社会の「暗黙のルール」みたいなものはどんどん破ってもいいと思います。例えば、誰も決めていないのに、中学を卒業したら高校に行かなきゃいけないとか。で、大学を卒業したら一括就職。そうしないと、「何でお前はしないの?」みたいになりますよね。別に何もなければ世間のレールに従ったほうがラクだし体力は温存できるんですけど、もし何かやりたいことがあるんだったら、変えてもいいんじゃないの? って。

計画は立てても意味がない?

――私、特に明確な目標がなくのらりくらりとフリーでやっているので、ちょっと今後が不安です。

僕は、目標を無理に作る必要はないと思ってます。僕自身、あまり計画とか立てないんですよ。計画を立てても、いい意味でも悪い意味でも、結局そのとおりには行かないので。この3年くらいを振り返ってみてもやってることが変わってきていて、ベクトルが変わっちゃう。方向性自体が変わるから、全然元の目標の意味がなくなってしまうんです。

ただ、今目の前でやっていることに関しては、「もっと売上げを上げる」とか「人に対して価値を発揮する」といったことに、かなり覚悟を持ってやってます。そして、自分の発揮できる価値が高まったら、それだけ価格も上げています。

――ただ、フリーランスの人はある程度自分の仕事の値付けができますが、会社勤めをしている人だと給料が決まっているので、なかなか難しいですよね?

やっぱり、サラリーマンだとキツイですね。自分だけ覚悟を持ってやったとしても給与体系は変わらないので、自分一人だけ倍稼ぐっていうのはちょっとむずかしい。でもフリーの場合は結構な割合で覚悟を持って決めれば、収入がドンと上がります。