貸切風呂・家族風呂とは

ところで、混浴風呂にとって代わりつつある貸切風呂・家族風呂だが、夫婦やカップルであっても一緒に入れないところがある。

東京都では条例により「貸切風呂」がつくれないようになっている(写真はイメージ)

東京都の公衆浴場に関する条例では他県のような特例の記載もなく、「10歳以上の男女を混浴させないこと」とある。つまり、お母さんが男の子を女湯に連れていっていいのは9歳までということである。10歳以上であればお母さんと息子、お父さんと娘は一緒に入れない。では、貸切風呂・家族風呂の場合はどうなのだろうか。

「そもそも、『貸切風呂』はつくれないし、10歳以上の男女の混浴はどのような場合でも認めていません」(東京都福祉保健局健康安全部環境保健衛生課指導係)。結構、厳しく決められている。東京都の日帰り入浴施設で「貸切風呂」をあまり見かけないのは、このような決まりがあるからなのだ。

近県でも同様かというと、神奈川県は同じように10歳以上の混浴は認めないが、「風紀上支障がない場合の男女の混浴を認めること(家族風呂としての利用はOK)」。埼玉県でも10歳以上の男女の混浴は認めないが家族風呂はOK、岩盤浴などは入浴着などを着ればOKとのこと。千葉県では年齢制限は特に設けていない。ちなみに、旅館に関しては混浴についての明文規定はないので、神奈川県の宿には混浴露天風呂のある宿が今もある。

岩盤浴は入浴着などを着れば男女一緒でもOKなどと、各県ごとに条件が設けられている(写真はイメージ)

東京都でも「貸切風呂」があるところも

では、東京都の日帰り入浴施設には全く「貸切風呂」がないかといえばそうではなく、東京都の条例が適用される施設とそうではない施設があるという。東京都福祉保健局によると、「23区と八王子市、町田市は各区・市がそれぞれ設けた条例があり、例外がある」とのこと。

また、「介護や火傷などの人が入る場合に限定し、あくまでも混浴はさせないということで許可がおりた」(保健所)ケースもある。東京都あきる野市にある「瀬音の湯」などがそうだ。pH10を超えるアルカリ性の温泉が人気の同施設には2つの個室風呂があり、1時間あたり1,000円を追加すれば貸し切りができる。「一番多いのは介助の方ですね。それから、オムツがとれていない幼児を連れた方の利用も多いです」と瀬音の湯のスタッフは言う。

また、日帰り入浴施設が「公衆浴場法」に基づいて許可されるのに対して、宿泊施設は「旅館業法」の適用になる。これは主に衛生管理や設備に関する基準を定めたもので、東京都では家族風呂や貸切風呂に関する一文は盛り込まれていないため、設置ができることになる。例えば東京都町田市にある「東京・湯河原温泉 万葉の湯」には宿泊者限定の貸切風呂があるが、宿泊者であれば誰でも利用可能だ。

宿泊施設を併設した入浴施設であれば旅館業法が適用されるため、貸切風呂が設けられているところもある(写真はイメージ)

都道府県、さらには市・区によって、基準や解釈が異なる混浴や貸切風呂。特に女性の中には混浴というだけで入浴を諦めている人もいるかもしれないが、混浴のある温泉は歴史もあり、かつ泉質がよいところが多い。「異文化体験」の場として、ぜひ楽しんでいただきたい。

※記事中の情報は2015年12月のもの

筆者プロフィール: 野添ちかこ

全国の温泉地を旅する温泉と宿のライター。BIGLOBE温泉で「お湯の数だけ抱きしめて」、「すこやか健保」(健康保険組合連合会)で「温泉de健康に」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)がある。日本温泉協会理事、3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、温泉カリスマ(大阪観光大学)、温泉指南役(岡山・湯原温泉)。公式HP「野添ちかこのVia-spa」