「日本の温泉地=草津温泉」というイメージを持っている人も多いほど有名な草津温泉(群馬県吾妻郡)。映画やドラマのロケ地になることも多く、草津に行ったことがなくても、草津温泉のシンボルである湯畑を目にしたことがある人は多いだろう。もちろん多くの温泉好きたちも草津を支持する人が多い。そこで今回、自然湧出量は毎分3万2,300L以上と日本一を誇る草津温泉の中より、筆者の最もお気に入りの湯を5つ紹介したいと思う。

草津温泉の湯畑は映画やドラマのワンシーンにもよく使われる場所

湯畑の周りをぐるっと回れる遊歩道では、浴衣を着て下駄をはいた草津温泉の宿泊客たちがカランコロンと歩く。これぞ日本の温泉街といった風情ある光景だ。草津温泉には大きな源泉が6つあり、その他に旅館などが持つ自家源泉が多数ある。どれも素晴らしい源泉ではあるが、それぞれに特徴があり、さらには源泉からの距離や旅館等の湯使いによって同じ源泉でも違いがある。

岩からしみでる自家源泉を持つ貴重な湯宿

まず注目したいのが、1200年余の歴史を持つ老舗旅館である「ての字屋」。草津でここでしか入れない、岩からしみでる珍しい自家源泉を持つ湯宿だ。天然岩風呂は1カ所のみで男女入れ替え制のため、天然岩風呂目当てで訪れる際には事前に確認してから訪問した方がいいだろう。

「ての字屋」の天然岩風呂は岩から湯がしみ出る

湯は草津のどの湯とも違った浴感でまろやか、ピリピリと刺激の強い草津の湯の中で珍しく長湯ができそうな湯だ。湯量は多く、岩の間から出ている湯口からだけではなくいろいろな場所から投入されており、全部合わせると40~50L/分ほどはあるのではないだろうか。

樹齢500年のヒノキの浴槽へドバドバと投入されてはすぐにあふれ出て新鮮そのものだ。なかなか敷居の高い高級旅館であるが、ての字屋は日帰り入浴も受けつけているのがありがたい。ぜひ一度味わってほしい湯である。

ての字屋の外観

草津のシンボル的な共同浴場

草津温泉はありがたいことに、観光客へ共同湯を無料で開放している。その内の最も有名な共同湯が「白旗の湯」であり、湯畑のすぐ横に位置することもあり朝から晩まで常に観光客で混み合っている。入浴する人のみではなく浴室を見に来る人も多く、時間を選ばないと落ち着いて入れないが、ぜひ一度入ってほしい極上湯である。

「白旗の湯」は草津の中でも人気の共同湯(写真は男性用浴室)

湯はフルーティですっぱそうな香りとエグミのある硫黄臭がまざり、草津では一番硫黄臭を強く感じる温泉らしい湯だ。温度はとにかく熱く、熱い方の湯は45度前後。熱い湯は苦手であまり入ることはない筆者ではあるが、この湯に関しては熱くても入りたくなるほど好きだ。

かけ湯を何度もしてやっと入った瞬間は熱いものの、浴感はやわらかく肌にどんどんなじんでくるのが分かる。草津へ来たらまず、この湯へ入らないと草津の湯を語れないというほど有名な湯である。

白旗の湯の外観

草津で唯一、煮川源泉に入れる共同湯

草津温泉の共同湯の中では白旗の湯ほどは知られていない共同湯ではあるが、温泉マニアたちには評判のいい共同湯が「煮川の湯」である。

共同湯「煮川の湯」は温泉マニアの心をくすぐる熱さ

なぜ温泉マニアたちに評判かと言えば、煮川源泉に入れるのは煮川の湯(共同湯)だけということと、草津温泉の中で浴槽温度としてはNo.1の熱さで有名でもあり、この湯のピリピリとした浴感と上がったときの爽快感、出たり入ったりを繰り返すと熱い湯が苦手の筆者でも、クセになってしまうほど気持ちがいい。

筆者が入った時の温度は45.9度。さすが浴槽温度No.1の湯だと思うものだが、これでも地元民からしたら昔と比べて温度が下がったらしく、「なんだか最近はぬるくなったのよね~湯冷めしちゃうわ」なんてことを話していた。草津の地元民たちの熱湯好きにはなかなか勝てそうにない。

煮川の湯の外観

老舗旅館で入れるレモン味のすっきり湯

草津温泉の中で広い敷地を持ち、抜群の風格のある建物なのが「草津ホテル」。この外観からの「これぞ日本! 」といった雰囲気が伝わるためか、外国からの観光客も多く来ているようだ。

外国人にも人気の「草津ホテル」。露天風呂の琥珀の湯は男女入れ替え制となっている

草津ホテルの湯は西の河原源泉を使用しており、草津らしい透明のピリッとした湯が特徴だ。レモン汁をストレートで飲んだような酸っぱさで肌を触るとヌルっと感がある。よく見ると、白い綿毛のような湯の花も大量に舞っている。温度は41度と適温に管理され入っていて気持ちがいい。草津ホテルは湯の良さもさることながら、宿泊のコストパフォーマンスの良さでも評判の良い旅館で、筆者もお気に入りの湯宿である。なお、日帰り入浴も受けつけている。

草津ホテルの外観

草津では珍しいまろやか自家源泉を持つ湯宿

最後に紹介する「泉水館」は現在、2016年夏のリニューアルオープンに向けて休業中ではあるものの、草津温泉の中でも特に印象深いところなので紹介したいと思う。

西の河原通りに面する「泉水館」は、"君子の湯"という温泉マニアたちには言わずと知れた自家源泉を持つ湯宿だ。部屋数は全6室とこじんまりとしたアットホームな小さな湯宿で、宿泊の評判もいい。宿の前の通りは食事処などがズラリと並ぶ人気の通り。温泉街ならではの活気のある雰囲気を部屋の窓からも楽しめる。

「泉水館」の君子の湯(男性用)

さて、目玉である自家源泉の君子の湯は、レモンのようにすっぱいがピリリと刺激のある湯ではなく、草津らしからぬまろやかで優しい湯。温度は41度と入りやすい温度で、浴感はツルツルとしていてなんとも気持ちがいい湯だ。宿泊すると入れる貸し切り風呂もあり、源泉は同じだがその貸し切り風呂が特にお気に入りである。なお、休業前は日帰り入浴も受けつけていたが、リニューアルした後も実施するかはまだ検討中となっている。

泉水館の外観

その規模や質の面でも「日本一の温泉」と誉れ高い草津温泉。町中には温泉とともに楽しみたいグルメもいろいろあるので、のんびり湯めぐりを楽しんでいただければと思う。

筆者プロフィール: 秘境温泉 神秘の湯 しおり

自然そのままの野湯から高級旅館まで温泉が極上であればどこまでも行く温泉マニア。1,000湯以上入湯した中から選りすぐった温泉を紹介する「秘境温泉 神秘の湯」を運営している。