ANAがA380導入を検討する理由

一方、ANAにも厄介な問題が残っている。目先の問題は債権者集会でエアバスとリース会社CITを取り込んだ「約束」の実行だ。CITに今後の機材のリース(セール&リースバックの手法が有力)を分配することは難しくないが、問題はエアバスだ。「あり得ない」と思われていたANAのA380の導入が、業界で現実味をもって語られている。

スカイマークの経営破綻で宙に浮いたA380に、今また注目が集まっている

「3、4機のA380なら何とか使いこなせる」とANAの事業計画部門が判断したのか、ANA社内の「A380推進派」が「JALが追随できないことをすべき」と主張しているのか真相は不明だ。しかし、いかにANAとはいえ世界のエアラインが難儀しているA380(近々、製造を中止するのではという見方もある)を収益化ツールにすることは容易でなく、飛ばす路線の選択は難しいだろう。

ボーイングのB747での運航をB777に小型化して収益性を確保した欧米線に投入するとは考えにくく、バンコクやホノルルといった多客路線の「おまとめ便」的な活用しか、筆者には思い浮かばない。A380数機に対する初期コストは決して小さくなく、また4発エンジンを背負う機体にとって、原油価格がいつまで低止まりしてくれるかも不透明だ。

A380ではなく、使い勝手の広いA330を選ぶ可能性があるのかどうかは見えないが、A330はANAも積極運用しているB787と機材の位置づけが類似している。その意味では、この重複を嫌ってA380のような超大型機に向かうということなのかもしれない。

インテグラルの「株式の時価」以外の狙い

そして、最後に残るANAの最大リスクは、投資ファンドであるインテグラルのエグジットだろう。50.1%の株保有率であるインテグラルがこの0.1%に最後までこだわったのは、実質的な経営支配などではなく、最後にエグジットする時に株式に与える「付加価値」だと思われる。スカイマークの再上場に成功した後、株価がどうなるかは市場に委ねるしかないが、単なる「株式の時価」とは別の価値が50.1%にはある。「経営支配権」に高い値を付け、売却するためだ。

ANAとの投資契約においては当然、競合者への売却を認めないという制約条項はあるはずだ。しかし、世の機関投資家で「インテグラルから高値で買い取っても、しかるべき時期にスカイマークの経営権がほしいところに売り抜ける」と考えるものはいるだろう。その後に、例えばJALやデルタ、エアアジア、そしてANA等を集めてビッドさせるというものだ(出資比率制限に対し、技術的にクリアすることが可能という前提ではあるが)。このようなことまで想定して契約でインテグラルとその売却先を縛れているかどうかは分からないが、今後複雑な展開はあり得るだろう。

このように、一段落したかに思えるスカイマーク再建はまだまだ波乱要素を含んでいる。コードシェア開始が1年ずれ込むとすれば、スカイマーク自身がその間にどれだけの業績を自力でたたき出せるかで、ANAとの力関係も変わってくるだろう。

そういう意味では、ANAにしてみればスカイマークが急激な再建を果たすことは痛しかゆしであり、インテグラルとの利害がぶつかる局面もあり得る。今回の支援劇がANAにとって「高い買い物」となるのか、正念場は近いのではないだろうか。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。