直木賞作家である石田衣良氏が現在取り組んでいることのひとつに、新人作家の育成がある。停滞気味と言われて久しい日本の文芸シーンに新風を巻き起こす新人を本気で発掘している。スマホ小説投稿サイト「E★エブリスタ」が主催し、石田氏が審査委員長を務める「ノベリスタ大賞」の受賞者に向けた「第5回ノベリスタ小説スクール」を取材、新人作家の育成から垣間見える若者の成長力について話を聞いた。

石田衣良(いしだいら)
1960年、東京都出身。成蹊大学卒業後、数々のアルバイトを経て広告制作会社に就職。その後、コピーライターとして独立し、97年『池袋ウエストゲートパーク』で第36回オール読物推理小説新人賞を受賞。現代感覚の表現に優れた作家として、そのオリジナリティが高く評価される。以降、数々の代表作を手掛け、2003年の『4TEEN』で第129回直木賞を受賞する。主な著作は『うつくしい子ども』『シューカツ!』など。

なぜ新人育成に関わるのか?

――そもそもなぜ新人作家育成に関わり始めたのですか?

実は今、本の世界が二つに分かれてしまっているんですよね。ライトノベルのような、若い子たちに気はあるんだけど、独特の世界で孤立してしまっているものと、大人向けの小説と。その間が分断されている気がするんです。この間に橋をかけるようなことができないかというのがひとつ最初にありました。

――「E★エブリスタ」と共同することになったいきさつは?

元々、新人育成はうまくネットをつかってできないかというアイデアがあったんです。でも、今までのルートだと、その間はちょっと埋まりにくいと感じていました。そのことを、ネット媒体を運営している数社に打ち明けてみたら、「E★エブリスタ」さんが一番反応が良かった。それに僕たちがやっている仕事に質が近かったんですよ。このサイトはライトノベルなどさまざまなジャンルの小説が多く掲載されている、小説サイトですから書き手も読み手もたくさんきてくれる。そこで新しいことを始めて、出版の世界全体が元気になるといいなと思いまして。「ライトノベルの世界からスターを作れないかな?」という感じで始めました。

――どんな世代の方々が参加されているのですか?

平均年齢は20代後半から30代くらいになると思いますね。ここで賞をとった方々が出版社から次々とデビューをしているので、新人発掘の力を持っていると思っています。今書いていてどこにも送る当てがないという若い方はぜひ応募してほしいです。

――新人たちと石田さんの世代の違いはどこに感じますか?

何かを強く欲するとか、もうちょっと背伸びしてがんばってみるというところは、今の若い世代にはあまりないですね。これは時代の問題なのかどうかわかりませんけども。「あと一歩」というところであきらめてしまう淡白さとか、最初から夢があまり大きくないというのは、感じます。なかなか力がある子なのに「プロになるのは大変だから趣味で書いていければいいです」という人もちらほらといます。だからこそ、いろんな同世代と会って、お互いに切磋琢磨するといいと思います。

恐竜も変化できずに滅んでしまった

――若い人、年配の人を問わず、石田さんが一緒に仕事をしたい人はどんな人ですか?

あんまり固定観念がない人がいいですね。今、時代の変化がすごく激しいじゃないですか。

なので、柔軟な発想で新しい変化に対応できる人がいい。恐竜も大きくて力が強かったけど、結局変化できずに滅んでしまいましたよね。やっぱり変化するものが生き残るというのは、進化論でも僕たちのような仕事でもみんな一緒だと思うんですよ。

――石田さんは、いろんなものに興味を持つ作家として知られていますが、その興味も小説家にとって大切な変化のきっかけになるのでしょうか?

それはでしょうね。たとえば僕はハロプロが好きなのですけど、ハロプロの良さといえば、楽曲の良さと、厳しいトレーニングの末にたどり着くパフォーマンスレベルの高さです。すごいと思ったらどんどんのめり込んでしまうんですよ(笑)。