人民元切り下げに2つの狙い

8月11日、中国は人民元中心レートの決定方式を変更して、事実上約2%切り下げた。その後も人民元安の基調となっている。

人民元切り下げには2つの狙いがあるようだ。

1つは、中国景気の低迷が顕著になるなかで、不振の輸出を振興するためだ。人民元がドルに連動して対他通貨で上昇していたため、それだけ輸出競争力は低下していた。米国の利上げが接近していることでドルが一段高となる可能性もあり、それを見込んで早めに人民元を安く誘導しておく意図があったとの見方もある。

2つめは、人民元の国際化の一環として、人民元相場の決定における市場の役割を高めるためだ。これまで中心レートはPBOC(中国人民銀行)が裁量的に決定していたが、新方式では、前日の終値を基に為替市場の需給や他通貨の動向を勘案して決定されるとのことだ。IMFがSDR(特別引出権)を構成する通貨(現在はドル、ユーロ、ポンド、円)に人民元を含めるかどうかを検討しており、それを後押しする意図もあったとみられる。

「自由に取引される通貨」に一歩近づいた!?

人民元の管理が強化されてSDR入りが遠ざかったとの指摘もあるが、むしろIMFが求めている「自由に取引される通貨」に一歩近づいたとみるべきだろう。その意味では、当局による人民元安誘導ではなく、むしろ人民元相場の管理を手控え、市場実勢に合わせて人民元が下落するのを当局が容認していると解釈すべきだ。

中国の外貨準備は2014年6月をピークに今年7月までに約3,400億ドル減少した。これは、人民元相場を維持するために、当局が人民元買い外貨(ドル)売りの介入を行っていたことを示唆している。

もっとも、人民元取引には依然として制約が多く、当局のいう「市場実勢」は、自由に取引される市場における均衡値という概念からはほど遠いかもしれない。

結局のところ、今後どの程度のペースで人民元安が進むのか(進まないのか)、また「市場実勢」が人民元高に傾いた場合にそれが容認されるのか、それらによって当局の意向を判断するしかなさそうだ。人民元安が新たな「通貨戦争」の引き金にならないことを祈るばかりだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。