去る5月28日深夜、ドラマ界初の画期的な試みが行われた。それはドラマの放送時間に合わせたネットストリーミング生中継。しかも「主演俳優とリアルタイムでやり取りをしながらドラマを見る」という斬新なものだった。

具体的には、番組のLINE公式アカウント上に生放送の動画を流すサービス「LINE LIVE CAST」を使い、そこに主演俳優を出演させるというもの。冬ドラマでは「ウロボロス」の俳優が副音声放送を務めた「ウラバラス」が話題になったが、これはあくまでテレビの中の話にすぎない。

今回はテレビの枠を超えたネットストリーミングサービスとのコラボ。さらに、LINEは日本だけで5,800万人超の登録者数を持ち、「毎日利用する」アクティブユーザー率63.6%(媒体資料より)を誇る巨大媒体だけに、インパクトと可能性は計り知れない。まさに、テレビとネットの融合としては、今後を占う試みであることがわかる。

パイオニアとなったのは、読売テレビ(日本テレビ系)制作のドラマ『恋愛時代』。悲しい出来事が原因で離婚した夫婦のラブストーリーで、せつなさとやさしさあふれる力作だ。

ドラマ解説者の私は、各メディアで同ドラマをイチオシ作に挙げていた縁もあり、比嘉愛未と満島真之介の主演コンビと一緒に「LINE LIVE CAST」出演の機会に恵まれた。当日の様子をリポートしながら、今後の可能性も含め考えていきたい。

出演者と視聴者の距離が急接近

ドラマ『恋愛時代』

まず説明しておきたいのは、「『LINE LIVE CAST』とは何か?」ということ。これはLINE公式アカウントを通じて、映像をリアルタイム配信するもので、2014年夏のサービス開始からこれまで、浜崎あゆみや西内まりやなどのライブやトーク、東京ガールズコレクションやバーバリーのファッションショーなどのイベント生中継が放送されてきた。

しかし、テレビ番組での活用実績はほとんどなく、ましてやドラマは初めて。果敢に挑戦した読売テレビとしても、手探りの状態であることが分かる。ただ、LINEだけの生放送が見られる上に、質問などのメッセージを送信できるため、出演者と視聴者の距離感は極めて近く、とりわけファンはうれしいのではないか。

ちなみに、「LINE LIVE CAST」の公式アカウントユーザー数は、この時点で約35万人。まだスタートしたばかりであり、これから順調に浸透していけば、ユーザー数は10倍、100倍と増えることが予想される。

放送は渋谷のLINE本社から。一般的な撮影スタジオというよりも、会議室のような部屋で行われた。

テレビとスマホを交互に見る楽しさ

『恋愛時代』の「LINE LIVE CAST」生放送は、前半の23時30分~23時59分が比嘉と満島によるドラマ裏話トーク。後半の23時59分~24時30分がドラマ本編を見ながらの裏実況という2部構成だった。

何しろLINEの生放送に出るのも、そこで台本のないトークをするのも、リアルタイムで視聴者とドラマを見るのも、全て初めてだけに比嘉も満島も緊張していた。誰もやったことがない上に本業は俳優なのだから、それも当然だろう。しかし、その空気はすぐに一変する。

オープニングのタイトルコールで声がそろわず、やり直す2人。すかさずユーザーから「生放送たのしい」「やり直し面白い(笑)」とコメントが入る。緊張のほぐれた2人は、ともに沖縄出身同士で仲良しだけに、トークは盛り上がりっ放し。撮影のマル秘エピソードを話したり、ユーザーからの質問に即興で答えたり、満島が「具志堅用高さんには負けません」と沖縄方言を連発したり、DVD-BOXの特典映像を超えるほどの濃密なトークが続いた。

後半に入ってドラマ本編がはじまると、ユーザーからのメッセージがヒートアップ。「リアルタイムで解説つきなんてお得!!」「大好きなドラマを出演者の方と一緒に観られてるのが、不思議な気分!!」「ドラマとどっち見ていいかわからなくなるぅー」「いつもは録画ですが 今日はリアルタイムで見ます」などのさまざまな声が入る。

中でもユーザーたちが最も注目していたのは、「テレビ画面のドラマが切ないシーンのとき、LINE上の2人はどんな表情で見ているのか」。比嘉も満島も自然体のリアクションを見せていただけに、テレビとスマホをチラチラ交互に見る人が多かったようだ。

「LINE LIVE CAST」の裏実況は、24時30分ごろ終了。ドラマは24時54分までだが、「終盤はストーリーに集中してほしい」という願いから、この時間で切り上げとなった。ただ、ユーザーからのメッセージは25時ごろまで続いただけに、今後はドラマ放送終了まで、あるいは終了後も「LINE LIVE CAST」を続けて、「俳優と視聴者が感想を交換する」などのプランが考えられるかもしれない。

現時点で最好感度のファンサービス

結局この日の「LINE LIVE CAST」を視聴した人数は1万828人。ドラマ『恋愛時代』のLINE公式アカウント友だち数は約4万3,000人だから、約4分の1が見たことになる。さらに、その友だちからのメッセージ受信数は4092件。前例のない試みで、さらに2日前からの告知、深夜帯であることなどを踏まえると、「大きな反響があった」と言えるのではないか。

あらためて、「LINE LIVE CAST」におけるテレビ局の目的は何なのか? 考えられるメリットは、[1]番組認知度アップ(特に若年層) [2]ライブ放送ゆえのテレビ視聴率アップ [3]ファンとの結びつき強化 [4]見忘れを防ぐ前日・当日のリマインドメッセージ [5]ドラマ中盤から終盤にかけての刺激やテコ入れ の5つ。

中でも特にメリットが大きいと思われるのは、[1]と[3]。[1]は、すでに約35万人いる「LINE LIVE CAST」公式アカウントユーザーに、放送前日・当日に告知できるのが魅力だ。とりわけ「テレビよりスマホ」「メールよりアプリ」の若年層へのリーチは大きく、今後は「スマホの情報をきっかけにドラマを見る」という行動パターンが増えるだろう。

3)は、ユーザーのメッセージにその成果が現れていた。例えば、「ほんまに一緒に観れてるみたいです!」「むっちゃ一緒のお部屋にいる感じで感動~」というメッセージ。視聴者がここまで俳優との一体感を得る機会は極めてレアなのだ。また、今回の試みを象徴していたのは、「LINE見ながらテレビ見てる。変な感じするけど、なんか楽しい」というメッセージも興味深い。このような良い意味での違和感はネットユーザーの好物であり、クチコミ波及の可能性も高いだろう。全体的に「ドラマへの愛着のようなものが増します」などポジティブな声ばかりで、ネガティブな声がほとんどなかったのは、それだけコアなファンを集めていたということではないか。

そして忘れてはならないのは、比嘉と満島が口をそろえるように、「すごく楽しかった」と笑顔で言っていたこと。俳優にとっても、視聴者と一緒に出演ドラマを見る機会は貴重なだけに、自分の仕事に対するレスポンスがうれしかったのかもしれない。放送終了後、20分近くその場で雑談をしていたことからも、その気持ちが伝わってきた。

現時点で最好感度のファンサービス

ドラマとネットストリーミングサービスとの融合は、今後広がっていくのか、それとも波及せずに終わるのか……答えは迷いなく「イエス」。その理由はここまで書いてきたように、視聴者、テレビ局、俳優の3者全てにメリットがあるからだ。

浸透するまで時間がかかるかもしれないが、今回の手応えを見ると、今後は他の宣伝費を削ってでも実施するテレビ局が現れるかもしれない。仮に主演俳優が出演を渋ったとしても、トーク力のある脇役、または、監督や脚本家などのスタッフが出演するのも面白そうで、企画には困らないだろう。

ここ数年、スマホやパソコン、読書や家事との"ながら視聴"をする人が増え、その影響で「じっくり見る」タイプのドラマが激減した。その影響でシンプルな1話完結や勧善懲悪の作品が増えたのだが、「LINE LIVE CAST」のようなネットストリーミングサービスは、そんな"ながら視聴"傾向をも取り込み、ドラマに集中させてしまう強さを秘めている。

正直、中高年が2つの画面を見るのは難しいかもしれない。それでもユーザーからのメッセージで最も多かった「できれば来週も見たい」に心から同意する。私自身、出演者の一人という立場を忘れ、テレビと主演2人の様子を交互に見ながら、ドラマの新たな楽しみ方を体感してしまったからだ。あの何とも言えない高揚感を多くのドラマ好きに味わってほしいと思う。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む))を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。