雑誌やインターネットなどでよく目にする「セックスで女性がキレイになる」という言葉。これが真実だとしたら、しばらくセックスしていない人は、どんどん美から遠ざかってしまいそうで心配になりますよね。セックスには、実際に女性の容姿や健康を左右するような力があるのでしょうか? 本当のところを探ってみましょう。
「セックスすると女性ホルモンが増える」は誤解
どうやら一部では、セックスによって女性ホルモンが分泌され、セックスするかしないかによって、その量が増減すると言われているようです。たしかに、卵巣から分泌される女性ホルモンのひとつ「エストロゲン」(卵胞ホルモン)には、肌や髪を美しくする働きがありますが、医学的に見ると、セックスすることと女性ホルモンの分泌が増えることは直接的には関係ありません。
女性が美しさをキープし、イキイキと健康的に生活するためには、女性ホルモンのバランスが重要です。ただし、毎日セックスをしていてもホルモンバランスが乱れている人はいますし、長い間セックスをしていなくても、ホルモンバランスが整っている人はたくさんいます。
キレイになるのは、セックスより恋の力!?
もちろんセックスが、女性の心身に良い影響を与えることも知られています。そしてその秘密は、セックスのオルガスムスの時に脳から出る「オキシトシン」というホルモンにあります。オキシトシンは従来、陣痛を促進させる作用を持つホルモンとして知られてきました。さらに最近では「共感ホルモン・絆ホルモン」であることも分かっており、自閉症の患者さんにオキシトシンの点鼻薬で治療するという試みもされています。
また、オキシトシンが分泌されると同時に、幸せホルモンである「セロトニン」が脳から分泌されることも分かっています。セックスの後に相手をいとおしく思い、安らぎとくつろぎを感じるのは、この2つの脳ホルモンが関連しているのです。
充実したセックスは、脳ホルモンの働きによってパートナーとの結びつきを深め、女性に幸福感や満足感を与えてくれます。結果的に毎日が楽しくなり、おしゃれやメイクにも力が入るために、容姿が一段と魅力的になることはあるでしょう。また、パートナーと定期的にセックスしている人は、パートナーが胸のしこりに気づきやすいため、乳ガンの発見が早まる場合がある、というのもメリットのひとつと言えます。
とはいえ、セックスしていなくても、好きな人ができただけで、周囲に「キレイになったね」と言われるケースも多いはず。そう考えると、女性がキレイになるのは、多くの場合、セックスの影響というより”恋をしたから”と言えそうです。
苦痛を伴うセックスは、ホルモンバランスに悪影響!?
これまで、恋をしてセックスをすることで幸福感が増し、結果的に容姿の魅力も増す場合があると述べましたが、それはあくまで好きな相手と、お互いを思いやる良いセックスができた場合の話。性的体験が苦痛や暴力を伴うものであると、オキシトシンの兄弟物質「バゾプレッシン」の方が強く脳から放出されてしまい、ストレス反応が起きてしまいます。つまり、相手のことを心から信頼し安心できる環境にないと、オキシトシンとセロトニンが働かないわけです。
もし、したくもないのに無理にセックスしていたら、「セックスでキレイになる」どころか、ストレスからホルモンバランスが乱れて生理不順などを引き起こす可能性もあります。というのも、女性ホルモンの分泌をコントロールしている脳の視床下部は、ストレスの影響を非常に受けやすいからです。例えばパートナーとの間のセックスレスがストレスになり、ホルモンバランスの乱れを引き起こすこともあり得る話です。すなわち、セックスをする、しないという問題が直接ホルモンバランスに影響するのではなく、お互いの関係性がどうかによると言えるでしょう。
このように、セックスが女性の心身に与える影響は、状況によって大きく変わってきます。「セックスでキレイになる」かどうかは、パートナーとの関係性や自分の気持ち次第。もちろんセックスしていなくても、特に不満がなく、健康で生理周期が整っていれば、何の問題もないのです。うわさや周囲の動きに振り回されず、自分のペースで恋愛やセックスと向き合えるといいですね。
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記事監修: 善方裕美 医師
日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。
主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など