米FRB(連邦制度理事会)のイエレン議長は2月24日、金融政策に関する半期に一度の議会証言を行った。11年ぶりとなる「利上げ開始」の接近を議長が告げるのか、市場関係者は固唾を飲んで見守った。証言を受けて、株価は上昇、市場金利は低下し、ドル円は下落した。市場の反応からみれば、証言は利上げに慎重な「ハト」的と判断できる。しかし、証言の内容を精査すれば、議長は「経済情勢次第」という金融政策の柔軟性を確保しつつ、「早ければ6月」の利上げを否定しなかったことがわかる。

金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)は12月と1月の会合後の声明文で、「(利上げ開始まで)忍耐強く(待てる)」との、先行きの政策方針を示すフォワード・ガイダンスを採用している。議長はこれに関して、「少なくとも次の2回のFOMCにおいて、利上げしないという意味だ」と改めて念押しした。その上で、「FOMCの想定通りに経済情勢が改善し続ければ、どこかの時点で利上げを検討し始めるだろう。そして、その前にFOMCはフォワード・ガイダンスを変更するだろう」と述べた。

ただし、「フォワード・ガイダンスの修正は、次の2回以内のFOMCで利上げするという意味では必ずしもない」とクギを刺すことも忘れなかった。つまり、「忍耐強く」とのフォワード・ガイダンスの修正は、その後の利上げ開始の必要条件であって、十分条件ではないということだ。FOMCが6月に利上げを開始するのであれば、その2回前にあたる3月17-18日のFOMCで「忍耐強く」が修正される必要がある。逆に、修正がなければ6月の利上げはないということになる。少なくとも、市場はそのように判断するだろう。

議長は、「昨年7月の議会証言以降、労働市場は多くの点で改善している」と認めたうえで、「労働参加率が低く、賃金の伸びが鈍いなど、弱い面もある」とも指摘した。もっとも、労働参加率の低下は、ベビーブーム世代の引退による構造的な現象が大きいとみることもできる。また、賃金については、小売大手のウォルマートが約50万人の従業員に対する賃上げを発表するなど、労働需給のひっ迫が賃金上昇圧力になり始めている兆候が散見される。

次回3月17-18日、あるいはその後のFOMCで、声明文から「忍耐強く」が消える可能性がある。そして、その場合はFRBによる利上げ開始がいよいよ秒読み段階に入ったと解釈できそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。