世界一高いタワーとしてギネス記録に認定されている東京スカイツリー。2012年の開業から今年で3年。すっかり東京の風景になじみ、都内の至る所からその姿をおがむ度にワクワクしている人も多いはず。かくいう筆者もその一人です。

世界で1番高い自立式電波塔 東京スカイツリー(高さ634m)を足元から撮影

そんな見る者を魅了する東京スカイツリーですが、ある日、1つの疑問が浮かんできました。

「東京スカイツリーのトイレはどうなっているのだろうか」

あんなに高いところまでどうやって水を汲み上げているのか。排泄物の処理はどうなっているのだろうか。やはり、タワーの中心では、尿や便が毎日すごい勢いで落下しているのだろうか--。

このままでは、展望台に上がっても、おちおち用を足すこともできません。 ということで、東京スカイツリーへ疑問を解決しに行ってきました。

トイレの給排水、どうなっているの?

地上450mに水を汲み上げる方法とは?

東京スカイツリーで最も高いところにあるトイレは、地上450mの「天望回廊」にあるもの。地上からエレベーター「天望シャトル」に乗り、地上350mの「天望デッキ」へ。さらに約100m上昇すると天望回廊に到着です。天望回廊からは、ミニチュアと化した東京の街がぐるりと一望でき、まるで空中散歩を楽しんでいるような気分を味わえます。

一面がガラス張りで、大パノラマが広がる天望回廊

冬の晴れた朝は景色が最も美しく見える。富士山もバッチリ

今回お話をうかがったのは、東武タワー スカイツリー 広報事務局の長妻治輝さんと、トイレの設計を担当した同社 電波塔事業本部の柳澤恵理さん。

--早速ですが、天望回廊のトイレの水はどうやって給水しているのでしょうか

柳澤さん「中継に貯水槽を設けながら、ポンプで段階的に汲み上げる方法をとっています。天望回廊までは数段階に分かれていて、各所で使われるポンプは、他のビルでも使われる一般的なものを使用しています」

--なるほど。やはり450mまでとなると、地上から一気に汲み上げることはできないのですね

柳澤さん「技術的には不可能ではないです。ただし、そのためには機材を特別に発注して取り付ける必要があります。特注ではメンテナンスも大変ですし、万が一、修理や交換となった際にも対応が遅れてしまう可能性があるのです。そういった点を考慮して、あえて一般的な機材を使うようにしています」

ポンプで段階的に水を汲み上げていく。トイレの他、レストランなどの各施設でも使用される(お話を元に作成。参考:斎久工業HP)

意外にシンプルな排水の仕組み

では、排水はどうなっているのでしょうか。地上450mから排泄物が落下するとなると、地上にたどり着く頃にはものすごいスピードと衝撃になっているのでは…。かなり危ないですよね。

柳澤さん「排水管の中を通るので危険はありませんが、あまりにも加速度がつくと、管の中が真空状態になり、便器に張られている水が中に吸い込まれる心配はあります。便器内の水は、排水管内からの菌や悪臭を防ぐふたのような役割をしているため、これでは快適に利用していただけなくなります。そこで、排水管には内部表面に設けられた突起により、排水の落下速度を緩める『減速継手(げんそくつぎて)』を使用し、真空状態を防ぐ工夫をしています」

簡単に言うと、直線の道(排水管)ではスピードが出過ぎてしまうので、それを防ぐための抵抗の役割として管部内に突起があるのだそう。意外にも単純な原理ですね。

長妻さん「こちらも、超高層ビルなどで一般的に使用されている方法です。給排水に限らず、東京スカイツリーでは、メンテナンスの面を考えて、特別な方法を取らず、なるべく一般的なビルと同じような設備を使うように工夫しています」

リニューアルでトイレの行列を解消

じつは天望回廊のトイレは2015年2月にリニューアルされたばかり。どのような点が新しくなったのでしょうか。

長妻さん「当初、天望回廊のトイレは男女ともに個室が1つずつしか設置されていなかったため、特に女性トイレはお客様にお並びいただく場面もありました。そこで今回、女性トイレの個室を3つに増やしたのです」

便器にはTOTO「ネオレスト」を採用。1回の洗浄で使用する水量が6リットルから4.8リットルになり、さらなる節水を実現

天望回廊の最大収容人数は900人。混雑時にもよおしてしまったら、さすがに個室1つだけでは心許ないかも…。とはいえ、個室を1つから3つに増やすなんて、スペース的に可能なのでしょうか。

柳澤さん「それが一番の課題でした。そこで、元々面積が広かった男子トイレと女子トイレの位置を入れ替え、スペースを確保したのです。また、通常個室の外にある洗面台を取り払って各個室内に手洗い場を設けたり、個室が満員のときに点灯するサインを入口に付けたりすることで、トイレ内で人が混雑しないような工夫もしています。その甲斐あって、リニューアル後からはほとんど行列は解消されました」

省スペースながらも、もちろん個室内の広さはしっかり確保されていて、快適に使用できます。手洗い場には鏡も設置されているので、記念写真前に身だしなみを整えるには十分。こうした女性へのうれしい配慮はしっかり残されています。

個室内に手洗い場を完備

新しくなった男子トイレには小便器1つと個室が1つ。小便器用に洗面台はありますが、女子トイレ同様、個室に手洗い場が備わり、トイレ内の混雑を防ぐ設計に。天望回廊には、男女トイレの他、「みんなのトイレ」も設置されています。

柳澤さん「みなさん特別な日として来ていただいていると思いますので、そのような設備は十分に取り揃えるようにしています。限られたスペースを、いかに使いやすく快適なトイレにできるかは、担当者の腕の見せどころ。個人的にトイレの設計は燃えますね」

給排水から設計まで、シンプルながらも利用者が快適に使える工夫を随所に見ることができた東京スカイツリー・天望回廊のトイレ。上った際には是非立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

すべての個室に人が入ると、入口の使用中のサインが点灯

スライド式のドアで通路を塞ぐ心配もなし。空室時はドアが開く設計