地元・長野県の人たちに愛されているのはもちろんのこと、全国から温泉マニアがわざわざ入りに来るほどの素晴らしい泉質を持つ「加賀井温泉 一陽館」。なにがそんなに温泉マニアたちをトリコにするかというと、温泉成分の濃さゆえに浴槽の原型すら分からなくさせる温泉がここにはあるのだ。

開業当初は旅館だった「加賀井温泉 一陽館」

地元民と温泉マニアにとっては"加賀井温泉"

本来、長野市松代町にある温泉は松代温泉なのだが、慣れ親しんだ昔の名称"加賀井温泉"を今も使う人は多い。ちなみに、筆者も親しみを込めて加賀井温泉と呼んでいる。

上信越道長野ICより車で約10分、アクセスがいいこともあって上信越道を利用する時には必ずと言っていいほど寄ってしまう。長野IC近くになると、「あ、加賀井温泉近くだ」と思い出し、近くになるにつれ「帰りが遅くなっちゃうからなぁ……」などと迷うものの、結局そのまま入りに訪れることが多い。

畑や山に囲まれた加賀井温泉は絵になる風景だ

湯守の管理人も名物のひとつ!?

年季の入った建物はレトロでどこか懐かしい雰囲気。周辺の田園風景にとてもマッチしていて、どこか郷愁すら感じさせてくれる。受付で料金を支払うと、管理人らしき人に「初めて? 」と聞かれる。「はい」と答えると、温泉施設の利用方法にはじまり、建物の歴史や泉質の素晴らしさなどを説明してくれる。

浴場入り口のレトロな「一浴料金所」

最後には源泉槽へ案内され、シュワシュワと泡だらけの源泉槽を前に、「顔を近づけて匂いをかいでごらん」という提案も。言われるままにかぐと、鼻がツーンとする刺激を感じる。これが、温泉好きの間でうわさの"洗礼"なのである。この"洗礼"を受けたか受けてないか、しばしば温泉好きの間でよく話題に上っている。

「1日に何カ所も温泉を巡っている」なんてことを管理人に言うと、「温泉というのは温泉同士の相性があるんだから、温泉は1日にたくさん回ったらだめだ! 」と怒られてしまった。そんな温泉へのこだわりの強い管理人に触れ、湯守とはまさにこういった人のことを言うのだろうと思った。

"析出物のおばけ"のような源泉槽の中はボコボコシュワシュワ。ここで"洗礼"を受ける

温泉成分が付着した浴槽は原型不明

湯気抜きのある湯屋は大正時代の建物で、中には男女別の年季が入った内湯がある。内湯にはカランやシャワーなどはなく、身体を洗ったり洗髪したりはもちろんできず、誰もがじーっと湯に浸かり湯の良さを味わっている。

古き良き時代を感じる、大正時代に建てられた湯屋

温泉の成分はとにかく濃厚! 海沿いの温泉なら海水の塩分が入り込むため、温泉成分の総計が1万mg/kg以上の成分濃度になることはよくあるが、加賀井温泉は内陸部にも関わらず温泉成分の総計は約1万3,000mg/kgという驚異の数値を誇る。ちなみに、これより一桁少ないぐらいが一般的な温泉成分の総計である。初めて訪問した時は、温泉成分が固まった原型の分からない浴槽が見事で、思わず興奮してしまった。

内湯で使用している源泉は炭酸を感じるドバドバ状態! 身体を湯に浸けると若干の気泡がついて、ジワジワと効いてくるのが分かる。ちょっとだけ飲んでみると、炭酸を感じる濃厚な塩分と苦み、そしてダシのような味もする。

内湯の浴槽。温泉成分が付着しているため、もはや原型が分からない

とにかく湯の鮮度は抜群で、源泉投入量は50~100L/分ぐらい。空気に触れて酸化すると緑に染まる源泉は、ここでは勢いよく注がれていることもあってか、酸化の影響をやや逃れて薄い緑となっている。

たまらなく気持ちのいい湯ではあるが、とにかく濃厚なのでゆっくりしすぎると湯上がりにどっと疲れがきてヘロヘロになってしまう。このレトロな空間で地元の人と会話しながら入ったり出たりを繰り返し、時には天井を見上げたりしてゆっくりする。ホッと癒やされる、温泉好きにはたまらないひとときだ。

見事に析出物でコーティングされたケロリン桶

何時間でも過ごせる露天風呂

内湯で十分温まったら、お目当てのぬるめの露天風呂へ! ただ、露天風呂へ行くには、温泉の入り口で靴を履いて、いったん外へ出なければいけない。女性はそうもいかないが、男性の中には裸にタオルをさらっと巻いて、軽快に露天風呂へ向かう人もいる。露天風呂専用の通路はないので、入り口を開けたら来たばかりの人とバッタリなんてこともあるので要注意だ。

寒い冬には一度入ったらあがるのは至難の業。「く~~っ」と声を出しながら内湯へ走って逃げ込む人も。露天風呂は2つの浴槽が並んでおり、ぬるい湯(38度/外気温3度)とさらにぬるい湯(35度/外気温3度)に分かれている。

混浴の露天風呂。右奥が緑がかった薄土色の湯で、手前が濃い鉄さび色の湯

内湯側が緑がかった薄土色で、もうひとつは濃い鉄さび色。緑がかった色の方が源泉投入量が多く、こちらのみ内湯と同じ源泉をブレンドしている。鮮度はこちらの方が上のよう。温度が高いこともあってか、こちらの浴槽の方が人気がある。

この日、お湯をご一緒させてもらった温泉好きの人はなんでも岐阜県から来ていたそうで、「今日は3~4時間は入るつもりで来た」と言っていた。とにかくぬるめで気持ちがいいので、1時間でも2時間でもあっという間に過ぎてしまう。

露天風呂は混浴だが、女性の場合はタオルを巻いたり湯着を着たりして入っている人もいる。塩分が濃いこともあり、湯上りはポッカポカ。浴感は肌を触るとギシギシする感じ。ちょっと口に含んだ感じだと、味は内湯の方が濃いように思う。

露天風呂の源泉はドバドバ状態

入るのは最高だが、加賀井温泉の湯はスケール(堆積物)が配管にたまるため、年に1回くらいの交換が必要とのこと。極上の温泉を維持するのは大変な苦労があるようだ。管理は大変だと思うが、一温泉好きとしていつまでもこのまま維持してほしいと切に願う。

●information
加賀井温泉 一陽館
長野県長野市松代町東条55
営業時間: 8:00~19:45(休憩8:00~16:00)
定休日: なし
入浴料: 大人400円 小学生150円 子供100円 乳児/幼児0円
アクセス:上信越自動車道の長野ICより国道403号線を松代方向へ。荒神町交差点を左折して松代温泉方面へ行き加賀井温泉の看板を右折

※記事中の価格・情報は2015年2月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 秘境温泉 神秘の湯 しおり

自然そのままの野湯から高級旅館まで温泉が極上であればどこまでも行く温泉マニア。1,000湯以上入湯した中から選りすぐった温泉を紹介する「秘境温泉 神秘の湯」を運営している。