ANA便のカウンターが並ぶ羽田空港の第1ターミナル

一方、北陸行きの飛行機である。北陸には富山・小松・能登空港があるが、ここでは東京~金沢間の比較のために、羽田~小松線で考察したい。この路線にはJALとANAが運航している。

従来は6割が飛行機を利用

北陸新幹線開業前では、東京~金沢間の旅客シェアの約6割を飛行機が占めている。その理由のひとつが所要時間の短さだ。仮に東京駅と金沢駅を拠点とすると、羽田~小松線の空路(1時間5分)に加え、市中から羽田・小松の各空港までの移動時間(鉄道またはバス)を考慮すると合計で最短約2時間20分である。従来、この東京~金沢駅は最短でも4時間程度かかっていた。

ところが、北陸新幹線の速達タイプ「かがやき」であれば、片道2時間28分で移動できるようになる。所要時間は飛行機利用とほぼ同じだが、乗り換えの少なさを考えると北陸新幹線の方が魅力的に思われる。

しかし、航空会社も北陸新幹線開業をただ黙って見ているわけではない。航空ジャーナリストの緒方信一郎さんは、北陸行きの飛行機における主な利点を「割引運賃」「ホテル付きの格安ツアー」「機内Wi-Fiの便利さ」「目白押しのキャンペーン」と定義している。

片道9,200円からの事前購入型運賃登場

例えば、羽田~小松線の航空運賃を見ると、JALの「先得28」と、ANAの「旅割28」は9,890円程度に設定している。さらに、JALは「ウルトラ先得」を9,200円からと通常期で見た割引率を63%まで下げた。北陸新幹線の東京~金沢駅は1万4,120円だから、搭乗75日前の購入とはいえ魅力的な価格だ。

運賃の使い勝手で比較すると、当日まで予約可能な新幹線の便利さに対抗できる航空運賃となれば普通運賃しかなく、運賃価格は新幹線の2倍に近い。ただ、搭乗前日まで予約できる特定便割引なら片道1万2,900円(JAL「特便1」)と、新幹線の1万4,120円より1,000円以上安く設定されている。とは言え、空港までの移動費を考えると両者互角といったところだろう。

根強い人気の格安ツアー

価格と条件で見ると、従来から人気のある格安ツアーも見逃せない。値段は安く、ほどよく便利だからだ。平日であれば往復航空券とホテル1泊付きで2万円を切るツアーもあり、予約は搭乗の約1週間前まで可能だ。飛行機の発着時間を選べる、いわゆる「ビジネスパック」は出張旅行者などのベストセラーとなっている。

機内Wi-Fi無料も

「JAL SKY NEXT」のシートは革張りで高級感もある

最近は国内線のサービスも向上している。JALの場合、1,000円の追加料金で前後幅が広いワンランク上の座席「クラスJ」を指定できるが、現在、普通席のスペースも以前より拡大し、機内でインターネット(Wi-Fi)接続ができる「JAL SKY NEXT」サービスを順次導入中。羽田~金沢線でも3月29日時点で半数の便(1日6往復のうち3往復)に導入し、7月以降も順次拡大する予定だ。

さらに、JALでは3月中旬以降、同区間で通常400円または500円(プランにより異なる)が必要な機内Wi-Fiサービスを無料にするキャンペーンも実施。「北陸新幹線はトンネルが多く、インターネットに接続できないストレスを感じる時間帯が少なくない。その点、無料でほぼ随時接続できるのは魅力」(航空関係者)だ。

マイルプレゼントなどのキャンペーン実施

もちろん、マイルを貯めている人、また、マイレージの上級会員で空港ラウンジの利用サービスが受けられるような飛行機のヘビーユーザーであれば、今後も空路での移動を選ぶメリットはある。

そうしたマイルを貯めたい人向けにも、JALはキャンペーン参加者で500万マイルを分け合う「500万マイル山分けキャンペーン」を提供。ANAも羽田~小松線の2区間(往復)の利用者に「ANA旅行券」などが当たるキャンぺーンなどを実施している。まさに、キャンペーン目白押しの状態だ。

そのほか、羽田は近年、国際線の便数が増えており、北陸方面から海外旅行に行く場合は航空会社の国際線乗り継ぎ運賃や安く便利というメリットもあると緒方さんは言う。

話題性も含めると北陸新幹線の方がメリットが多いように思われるが、利用者からすれば、北陸新幹線の開業で鉄道・飛行機ともに利用しやすくなるのは確実である。上手に使い分けて、より近くなった北陸を楽しんでいただければと思う。

プロフィール: 杉山淳一

鉄道&ゲームライター。PC、ゲーム雑誌の広告営業職を経てフリーライターに転職。マイナビニュースでは鉄道コラム「鉄道トリビア」「読む鉄道、観る鉄道」「列車ダイヤを楽しもう」などを執筆。近著は『A列車で行こう3Dビギナーズパック同梱ガイドブック』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。達人のとっておき日本全国列車旅33選』など。

プロフィール: 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。