この1年あまり、映像プロデューサーやCMクリエイターなど、メディア関係者の話題を集めている若手女優がいる。黒島結菜、沖縄生まれの17歳、現役高校生だ。

爆走するアルパカを追いかける『ミラバケッソ』(クラレ)などのCM出演を重ねるほか、昨年から女優活動も本格化。連ドラ『アオイホノオ』『ごめんね青春!』に主要キャストとして連続出演し、一気に才能を開花させた。また今年は、2月14日公開の主演『あしたになれば。』、3月14日公開の『ストロボ・エッジ』、さらに『ストレイヤーズ・クロニクル』『at home』と4本もの映画出演が控えている。

飛び抜けた美少女というわけではなく、ショートカットも身長162㎝も「普通」の印象を受ける黒島が、なぜこれほどまでに業界の注目を集めているのか。

本格デビューから出演オファーが殺到している黒島結菜

浮かぶのは好印象のイメージばかり

黒島が注目を浴びるきっかけとなったのは、2013年11月から放送された『NTT docomo LTE』のCM。なかなか来ない彼をけなげに待つ少女を繊細に演じて、業界内で「あの子は誰?」とさわがれはじめたのだ。このCMにはセリフがなく、黒島が演じられるのは表情と仕草だけ。「間に合わないかも」とせつない表情になり、彼の「イマ出たよ」に喜ぶ姿は、演技を超えたリアリティーショーのそれに近く共感を呼んだ。

CMのキャスティングという意味で黒島は10代女優の最先端にいる。その後も「NTT docomo」に継続起用されているほか、勉強の「ベネッセ 進研ゼミ」、ファッションの「LOWRYS FARM」、金融の「みずほ銀行」に出演。これだけ異なるジャンルのCMに出演できるのは、「黒島がさまざまなイメージを持ち合わせる女優だから」ということに他ならない。黒島の姿を思い浮かべるとき、素朴、清潔、健康的、自然体、力強さ……好印象のイメージがこれでもかというほど出てくる。

しかも黒島には、商品を邪魔するアクの強さが一切なく、あるのは親近感と透明感だけ。商品のPRを第一に考えるCMクリエイターにとって、これほど使いたくなる10代女優はいないだろう。

名前通り"黒"の力強さがただよう

しかし、CMに必要な親近感と透明感は、女優にとってマイナスに働くこともある。親近感と透明感が売りの「会いに行けるアイドル」女優たちがそうであるように、個性の強い役が視聴者のイメージとフィットしにくいのだ。

ただ黒島に限って、それは心配無用。連ドラ初出演となった『アオイホノオ』では、主人公に迫る"ガツガツ系女子大生"津田ヒロミ役を「私は人見知りなので真逆」と言いながらも難なく演じていた。細部までこだわる福田雄一監督の演出に応え、柳楽優弥や安田顕らの超濃厚演技と渡り合った度胸は、まさに大器としか思えない。

宮藤官九郎脚本ドラマ『ごめんね青春!』でもそれは同じ。総勢60人の生徒キャストがそろう中、生徒会長の中井貴子役(学園祭前に転校)で断トツの存在感を見せていた。中井貴子を通して感じたのは、凛とした力強さと、少女ならではのピュアさ。まっすぐな瞳、太めの眉、ツヤのある髪など、名前通り黒の印象から力強さを、自然体の表情や仕草からピュアさを感じた。

実際に黒島と話してみると予想以上に普通の女子高生で、そのギャップに驚かされる。しかし、質問に答えようとした黒島がこちらを見ただけで、ドキドキさせられるから不思議だ。目ヂカラが売りの女優は多いが、黒島ほど目が合うだけで引きつけられる存在は珍しい。それはスクリーンやテレビ画面でも同じで、黒島の姿が現れ、特にアップになったとき、「思わず目で追ってしまった」のは私だけではないだろう。セリフに頼らない演技スタイルも含め、天性の女優なのかもしれない。

顔も演技もデビュー時期もシンクロ

黒島が唯一無二の若手女優であることは間違いないが、誰か面影のある先輩はいないか……と考えて思い浮かんだのが、女優デビューしたころの深津絵里。前述した黒い瞳、黒い太眉、黒髪、さらにショートカットは、いずれも黒島とシンクロしている。

もちろん、力強さとピュアさを感じる演技もオーバーラップ。奇しくも深津の連ドラデビューも同じ17歳の『予備校ブギ』だった。しかも織田裕二につきまとう役であり、この点も黒島がデビュー作の『アオイホノオ』で演じた津田ヒロミに似ている。

深津が主演女優として一気に羽ばたいたのは、新人監察医を演じた『きらきらひかる』。その後は『カバチタレ!』で正義感の強い行政書士、『恋ノチカラ』で等身大のアラサーOLなどを演じて演技派の地位を確立した。

ラブからコメディ、時代劇まで幅広いジャンルをこなし、『西遊記』では三蔵法師も演じた深津に対して、黒島はこれからどんな役を演じていくのか楽しみでならない。デビュー前にバスケ、陸上、バドミントンで汗を流していた運動神経も含め、伸びしろは青天井。一皮どころか十皮くらいむけそうな大物感がある。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。