約半年でサムライブルーの監督を解任した日本サッカー協会が今、本当にやらなくてはいけないことに迫る

スペイン時代に八百長へ関与したとする告発状が裁判所に受理されたことを確認できたとして、ハビエル・アギーレ監督との契約を半年足らずで解除した日本サッカー協会。日本代表チームの前進を止めないためにも、組織として果たすべき責務は山積している。

アギーレ氏の任命責任が問われることへの違和感

アギーレ氏の電撃解任が2月3日に発表された直後から、世間の関心はすでに前代表監督の八百長疑惑から「後任監督」および「任命責任」へと移っている。前者に関しては名古屋グランパスのドラガン・ストイコビッチ前監督を筆頭に、メディアに名前があがった候補者たちからのラブコールが報じられている。

ならば後者はどうか。アギーレ氏との契約を解除した瞬間に、日本代表チームはゼロからのスタートを切ることを余儀なくされた。そうした状況を受けて、アギーレ氏の招聘(しょうへい)に奔走した原博実専務理事、実際に交渉に当たった霜田正浩技術委員長の引責辞任が声高に求められている。

アギーレ前監督に率いられた約半年という時間と、アジアカップを含めた10試合がすべて水泡に帰した。代表チームはただでさえ活動時間が制限される。6月には2018年のワールドカップ・ロシア大会出場をかけたアジア予選も始まる。将来へ向けたリスクを考えれば日本サッカー協会の責任が問われるのは必然だが、だからといって当事者の2人だけに責任を押し付けるのはあまりに短絡的だ。

最高意思決定機関が形骸化している現実

日本サッカー協会の最高意思決定機関は理事会だ。大仁邦彌会長を筆頭に、3人の副会長、原専務理事、5人の常務理事、18人の理事、2人の監事、9人の特任理事からなる理事会がノーと言えば、提出された議題は事実上の廃案となる。

しかし、実際の理事会は形骸化していると言わざるを得ない。例えば昨年12月18日。アギーレ氏が八百長に関与していたと告発された直後に行われた理事会では、冒頭でアギーレ氏がアジアカップで引き続き指揮を執ることが大仁会長から報告され、ほとんど議論が交わされないまま確認された。このときに異論や反論が飛び交っていれば、その後の展開は違っていたはずだ。

昨年7月にさかのぼれば、惨敗を喫したワールドカップ・ブラジル大会の総括が何ひとつなされていないという批判がサポーターからわきあがる中で、アギーレ氏との契約が承認された。「あまりに拙速なのではないか」という声が理事会内であがっても不思議ではないのに、このときも議論はなかった。

理事会から自由闊達(かったつ)な雰囲気が失われた責任の所在をたどっていけば、大仁会長のマネジメント能力不足に行き着くといっていい。かつて犬飼基昭元会長はラグビーの平尾誠二氏、テニスのクルム伊達公子を理事に抜擢(ばってき)した。国際経験が豊かな他競技の人材を登用することで、組織を活性化させたいという狙いがあった。当時の賛否は分かれたが、いま現在はそうした大胆なプランがもちあがることもない。

霜田技術委員長が果たすべき本当の意味での責任

アギーレ氏の八百長疑惑がスペイン国内で初めて報じられたのは、日本代表監督就任から約1カ月半後の昨年9月下旬。いわゆる契約前の「身体検査」が不十分だったのでは、という批判が原専務理事と霜田技術委員長に向けられたのは事実だ。

原専務理事は技術委員長だった2010年夏にもアギーレ氏と交渉したものの不調に終わり、アルベルト・ザッケローニ元監督を招聘(しょうへい)するに至った経緯がある。4年越しの意中の人物だっただけに、前のめりに突っ走った点は否めないだろう。その一方で、スペインの検察庁反汚職課が水面下で調査を続けてきた八百長疑惑を、発覚前に察知することもまた難しかったかもしれない。

その意味では、原専務理事と霜田技術委員長はいますぐ現職を辞すことではなく、日本代表の今後を託せる後任監督をできる限り速やかに選定することで責任を果たすべきなのではないか。監督としてのアギーレ氏は及第点に達していたし、それならばこれまでの流れを熟知している人間が動いたほうがいい。技術委員会を解体・再編するのは、新生日本代表が軌道に乗ってからでも決して遅くはない。

キャプテンの長谷部が頭を下げる問題なのか

告発段階でアギーレ氏を解任すれば、その後に"シロ"が確定した場合にアギーレ氏サイドから名誉毀損(きそん)で訴訟を起こされるおそれがあった。日本サッカー協会は「推定無罪」の原則を無視する組織だと、世界中のサッカー関係者から快く思われない事態も招くだろう。

告発が裁判所に受理され、検察当局による本格的な捜査が始まることが決まった段階での解任は、まさに唯一無二のタイミングだった。解任理由を八百長疑惑うんぬんではなく、「日本代表監督としての業務に支障をきたすというリスクを排除するため」とすればアギーレ氏の名誉も保たれるからだ。

それでも、契約解除に至るまでの日本サッカー協会、とりわけ大仁会長の対応は後手を踏み続けた。アギーレ監督の告発後で初めてメディアに対応したのは、3日後の昨年12月18日。しかも記者会見ではなく、フットサル日本代表の親善試合が行われた東京・駒沢体育館での囲み取材だった。同27日に行われたアギーレ氏の釈明会見にも同席していない。職員をスペインへ派遣して調査させたのも年末になってからだ。

あらゆる手段を講じて情報を収集してスペイン国内の動向を把握し、「何らかの動きがあったときにはこうする」という日本サッカー協会の方針をなぜ早い段階で示すことができなかったのか。

アジアカップへ向けた年末の国内合宿中には、キャプテンの長谷部誠(フランクフルト)は「心配をかけて本当に申し訳ない」とサポーターやファンへ向けて謝罪している。本来ならば囲み取材ではなく、大勢のメディアやテレビカメラを通して組織のトップが頭を下げるべきなのではなかったか。

次回理事会で問われる組織全体の見識

理事会をはじめとする組織運営を含めて、一連の騒動の過程で大仁会長がリーダーシップを発揮したとは残念ながら言い難い。その大仁会長は、アギーレ氏との契約解除を発表した記者会見でこう語っている。

「私を含む役員や関わった責任者に対する処分を検討し、理事会に諮(はか)りたいと考えている」。

理事会は原則として毎月第2木曜日に行われ、2月は12日に予定されている。日本中が注目する場で誰にどのような処分が下されるのか。代表監督の八百長疑惑という前代未聞の騒動に揺れてきた、日本サッカー協会という組織全体の見識が問われようとしている。

写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。