今年のJ2戦線に旋風(せんぷう)を巻き起こした湘南ベルマーレから、アギーレジャパン入りを狙う選手たちとは

J1昇格切符獲得とJ2制覇。今シーズンの目標を成就させた湘南ベルマーレの挑戦は、次なるステージへ移る。J1でどれだけ暴れられるか。アギーレジャパン入りを果たす選手が生まれるか。可能性を秘めた4人の選手に、日本代表入りへの決意を聞いてみた。

アギーレジャパンと湘南スタイルの共通点

平塚の夜空に覇者たちの咆哮(ほうこう)が響く。ベルマーレ平塚から湘南ベルマーレにチーム名が改称されてから、15年目にして初めて獲得したタイトルの証しがカクテル光線に誇らしげに映える。

Jリーグの村井満チェアマンから贈られたティファニー社製の優勝シャーレ(銀皿)を掲げながら、キャプテンのMF永木亮太がホームのShonan BMWスタジアム平塚を埋めたサポーターたちとJ2制覇の喜びを分かち合った。

V・ファーレン長崎との第37節終了後に行われた優勝セレモニー。J1復帰に続く目標を成就させたベルマーレの視線は、次なる「頂」となる日本代表入りへと向けられている。背番号「10」を託されて3シーズン目となる23歳のMF菊池大介は、イレブンの気持ちを代弁するように語る。

「アギーレ監督のコンセプトやスタイルは自分たちのサッカーに似ていますし、その意味では僕たち全員にチャンスがあると思っています」。

テレビ越しの代表戦に自身を投影する遠藤航

走力を前面に押し出したハードワーク。球際の強さ。縦へ素早く攻める姿勢。アギーレジャパンが基本布陣とする「4‐3‐3」は、マイボール時には「湘南スタイル」の源流をなす「3‐4‐3」に様変わりする。共通点の多いアギーレジャパンへの現時点での最短距離にいるのが、21歳のDF遠藤航となる。

リオデジャネイロ五輪を目指すU‐21日本代表で主軸を務め、アギーレジャパンのコーチにも名前を連ねる手倉森誠監督から高い評価を受けている守備のオールラウンダーは、アギーレジャパンが戦った4試合を「自分ならばどれだけできるのか、という思いで見ている」と打ち明ける。

「A代表は常に狙っている。昨シーズンのJ1で戦った選手が招集されている点でも身近に感じるし、3バックでも4バックのセンターバックでも、もっと言えばボランチでもアンカーでも、すべて同じクオリティーでプレーできるようにしたいし、その準備はしています」。

3バックの右を務める今シーズンは、堅守を支える一方で積極果敢な攻撃参加から7ゴールをマーク。フィニッシュに絡んでいく意欲もさらに高まっている。

永木亮太と菊池大介が共有する来年への誓い

衰えを知らない運動量でボールに絡み、スペースへ走り続ける26歳の永木は、自身のストロングポイントがアギーレジャパンのアンカーやインサイドハーフでも発揮される光景を具体的にイメージしている。

「それほど遠い場所ではないと思っていますけれども、だからと言って代表ばかりを意識しても仕方がない。要はどれだけ湘南の力になれるか。ひたむきに頑張っている姿を見てもらえれば、チャンスは巡ってくると思っています」。

左サイドを攻守両面にわたってエネルギッシュに上下動してきた菊池は、J1の壁にはね返され続けた昨シーズンの悔しさを糧にしてきた。シーズン開幕前のキャンプから「J1仕様で練習している」と目線を高く設定している。

「疲れてきた中でのパスやフィニッシュの精度の高さを、自分のストロングポイントにすることが代表入りへの近道だと思っています。ただ頑張るだけじゃなくて、頑張った上で決め切り、戻って守備もする選手にならないといけないので」。

新天地ベルマーレで才能を開花させた丸山祐市

FC東京から期限付き移籍し、3バックの中央を任された25歳の丸山祐市は、3年目を迎えたプロ人生で初めてコンスタントに試合出場を果たした。その中で、184cm、74kgの恵まれたサイズに搭載された潜在能力を開花させた。

高さを生かして制空権を握るだけではなく、直接FKで2ゴールをあげるなど、利き足の左足から放たれる正確キックはベルマーレの大きな武器となった。9月の国際親善試合で、サガン鳥栖では控えの坂井達弥を抜擢(ばってき)するなど、アギーレ監督が「左利きのセンターバック」を重視している点も追い風になる。

もっとも、J2優勝を決めた東京ヴェルディ戦の終了間際に2度目の警告を受けて退場となった点を含めて、丸山は「まだまだ未熟者です」と自分自身を戒めることを忘れない。

「代表も狙っていきたいともちろん思っていますし、湘南で試合に出続けられたからこそ、いろいろと(前向きに)考えられることもありますよね」。

中田英寿で途切れたままの日本代表の系譜

ハビエル・アギーレ監督および代表スタッフは、現時点でJ2の視察に足を運んでいない。選手の情報こそ持ち合わせているはずだが、招集に関してはある程度の線引きがなされているのだろう。

だからこそ、来シーズンのJ1の舞台に立つベルマーレの選手たちは、日の丸を背負うための最初のハードルをクリアしたことになる。眞壁潔会長は「あとはウチの若い選手たちが、J1の舞台でどれだけできるか」と期待を込めて来シーズンを見すえている。

「やはり(A代表に)呼んでほしいですよね。そうなれば、選手たちの気持ちもさらに高まるはずなので」。

ベルマーレからは2010年1月に敵地サヌアで行われたイエメン代表とのアジアカップ予選でDF村松大輔(現徳島ヴォルティス)がA代表に招集されたが、体調を崩して試合には出場していない。実際にピッチでプレーした日本人選手は、1998年のワールドカップ・フランス大会のMF中田英寿とFW呂比須ワグナーにまでさかのぼる。

「今シーズンの残り試合を高い意識で戦えるかどうか、ということも非常に大事になってくると思う」。

菊池が再び言葉に力を込めた。長く閉ざされてきた「日の丸戦士」への扉をこじ開けるために。成長途上にあるベルマーレに立ち止まっている暇はない。

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筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。