ニュージーランドで歴史や伝統を今に伝える街と言えば、南島のダニーデンだろう。スコットランド移民が開拓したダニーデンは、19世紀に起こったゴールドラッシュを機に一大産業物流拠点となった。その当時の華やかな建造物は丘陵の景色も相まって、街探訪にもってこいのスポットとなっている。
ジャガーでクラシックな街をゆく
今回は、街の散策に「クラシックジャガー・ダニーデン・シティ・ヘリテージツアー」を利用。ドライバーとともに筆者たちを迎えてくれたのは、2013年モデルの「ジャガー XJ」だったが、同社は1970年代の「ジャガー 420G」など様々な車をそろえている。また、中には1971年にニュージーランドを訪れた英国のエリザベス女王が使用した車もあるという。なお、街には同社のほかにもツアーを提供している会社はあり、時間や目的などに合わせて自由にプランを選ぶことも可能だ。
大学や駅舎も観光名所
1869年設立・1871年開校のオタゴ大学はニュージーランドで最も歴史が古く、"医学部ならオタゴ大学"などと言われる名門校。特に、時計台のあるネオ・ゴシック建築校舎は観光名所としても知られており、12月初旬の学期末には、卒業したばかりの学生たちが家族と記念撮影をしている姿も見かけた。
また、1906年に建てられたダニーデン駅も豪華な装い。ホールのモザイク床には、英国王室御用達ロイヤル・ドルトン製の磁器タイルが惜しげもなく使われており、光を浴びてきらめくステンドガラスも優雅だ。フレミッシュ・ルネッサンス様式の駅は、改修を加えながら今でも現役である。とはいえ、この駅を通る列車は現在、タイエリ峡谷などを望む観光用列車として活躍しているという。
ダニーデンでは毎日曜日の10時と19時に、約60mの尖塔(せんとう)からベルの音が響き渡る。1873年に"初めて人が集まった教会"というゆえんでそのまま名づけられたファースト教会は、内部の天井にニュージーランド原産のトタラ木材を使用しており、重要文化財にも指定されている。大きなバラ窓のそばにはオタゴ連隊の旗が掲げられているなど、この街が歩んできた歴史を垣間見ることもできる。
チョコとビールの工場見学も
実はこの街の中には、ギネスブックに「世界一急な通り」として認定されている場所がある。それが、ボールドウィン・ストリートだ。ダニーデン郊外の住宅地にある坂で、最大勾配は35%にもなる。実際に車で上ってみると、「このままひっくり返ってしまうのではないか」というほどの勾配を実感させられた。下りは歩くことにしたが、そのままころんと転がりそうでなかなか足が前に進まない。この辺りに住んでいると、必然的に毎日この坂を通らないといけないので、かなり足腰が鍛えられることだろう。
なお、ダニーデンにチョコレート工場を構えているお菓子メーカーのキャドバリーは、この坂の上から約7万5,000個のチョコボール「キャドバリージャファ」を転がすチョコレート祭りを開催している。この祭りは、約7万5,000個の中からナンバリングされたチョコボールを見つけ出した人に景品をプレゼントするというもので、坂一杯にチョコボールが駆け出す姿は圧巻の一言に尽きる。今年のこの祭りは7月17日に予定されている。ちなみに、キャドバリーのチョコレート工場は見学もできるので、あわせて楽しんでみるのもいいだろう。
また、「プライド・オブ・ザ・サウス」と記されたニュージランドビール「スペイツ」は、ダニーデンに醸造所をかまえている。ビールの飲み比べ付き醸造所ツアーを実施しているほか、昼から営業しているレストラン&バー「スペイツ・エールハウス」も併設しているので、ここで本場の味を心行くまで堪能するのもありだ。
成功者たちの栄光に触れる
一大産業物流拠点として栄えたダニーデンでは、事業で成功した人たちが著名な建築家に設計させた邸宅に美しいアンティークの調度品や美術品を飾り、優雅な生活を営んでいた歴史も垣間見ることができる。そのひとつが、貿易商だったデイビッド・セオミン氏が築いたオルヴェストン邸だ。
邸内には、セオミン氏が世界を旅行して収集した美術工芸品が所狭しと収蔵されている。陶磁器や刀剣など日本から収集された物の多さからも、セミオン氏が日本の美術工芸品に深い関心を持っていたことが分かる。セオミン氏の娘であるドロシー嬢の死後、邸宅は遺言によりダニーデンに寄付された。現在でも、書斎や食堂、応接間、ビリヤード室などは当時のまま保存されている。
また、ニュージーランドに現存する唯一の城であるラーナック城も、このダニーデンにある。城はもともと、銀行業で財をなしたウィリアム・ラーナック氏の邸宅で、建設には約200人がかりで3年かかったという。海抜320mの高さに立てられた城からは、オタゴ湾の先に広がる島々も見下ろすことができる。そんなラーナック氏はというと、3度の結婚で6人の子どもの父となり、政治家としても活躍していたものの、1898年に自殺するなどと波乱万丈の人生を歩んだよう。
城はその後、いったんは荒廃してしまったようだが、現在の所有者であるベーカー家の下で大規模な修復工事が行われ、かつての輝きを取り戻した。城と庭園は観光客に一般開放されているほか、ホテルやカフェ&レストラン、結婚式、ダンスパーティーなどと多目的に活用されている。
ダニーデンでは街めぐりのほか、オタゴ半島で「イエローアイド・ペンギン」や「ニュージーランド・シーライオン」(アシカ)などの固有種に会えるエコ・ツアーも楽しめる。ありのままの姿で魅了してくれる野生動物に会いたいなら、できればダニーデンでの予定をもう1日増やすことをオススメしたい。
※記事中の情報は2014年12月取材時のもの