大みそかに行われた紅白歌合戦で、『花子とアン』の吉高由里子、『マッサン』のシャーロット・ケイト・フォックスと並んで、ステージに立った『まれ』のヒロイン・土屋太鳳。その映像を見たとき、「3月スタートのドラマを何で今紹介するの?」と感じた人は多かったのではないか。

その理由は3点考えられる。1つ目は「絶好調の"朝ドラブランド"を国民全体にアピールしたい」から。2つ目は「『花子とアン』にも出演していた」から。そして3つ目は「土屋の知名度に不安がある」から。土屋はすでに10本を超える連ドラに出演しているものの、近年主演を務めた杏、吉高、玉山鉄二と比べると知名度で劣るのは確かだ。

ただそれは裏を返せば、『あまちゃん』の能年玲奈がそうだったように、「大ブレイクの可能性を秘めている」ということ。ここでは"2015年の顔"となりそうな土屋の魅力を先取りしていく。

NHKで着実にステップアップ

朝ドラ『まれ』でヒロインを演じる土屋太鳳

土屋は現在19歳にして、NHKのドラマに5本も出演している。そもそもドラマデビュー作が2010年の大河ドラマ『龍馬伝』で、坂本龍馬の姉・乙女の少女時代を演じた。2011年には早くも朝ドラ『おひさま』に出演。学校へ弁当を持参できないほど貧乏な少女役を好演し、食べ物をもらうために米兵の車に飛び込んでケガをしたシーンは涙を誘った。

2013年は『真夜中のパン屋さん』に主要キャストで出演。母親に失踪され、幼なじみから嫌がらせを受けるなど、陰のある高校生を演じた。2014年には2作に出演。『今夜は心だけ抱いて』では47歳の母と入れ替わる娘、朝ドラ『花子とアン』ではヒロインの妹という難役を立て続けに演じた。

一連の流れを見ると、デビュー、朝ドラ、主要キャスト、主演と、NHKが着実にステップアップさせているのが分かる。「大事に育ててきて、満を持して『まれ』の主演に抜擢した」のだろう。「NHKのキャスティングやギャラは、局への貢献度が考慮される」という話は有名だが、それは主演番組のバックアップ体制も同じ。紅白歌合戦へのゲスト出演はその一環で、10代ながら功労者である土屋には局を挙げてのフォローが約束されている。

ではなぜNHKは土屋を起用し続けてきたのか? 演じてきた役柄から推察されるのは、「つらい状況でもひたむきに生きる女性を演じられる」「起用するごとに成長する姿を見せてくれる」から。実際、朝ドラ『おひさま』『花子とアン』の両作とも貧困に悩む少女役だったし、後者では終盤に再婚した夫を力強く看病し、養女に出した娘に毅然と接するなど、たくましく成長した姿を見せてくれた。

そして、これらの姿は役柄だけでなく、土屋そのものにも当てはまる。ドラマデビューしたころのひたむきさや素直さは変わらず、演技の幅が広がっているのだから、「素材重視」のNHKが放っておくはずがないのだ。

外見はお嬢様だが、中身は激アツ

土屋のひたむきさは、他の作品にも表れている。昨年公開された映画『るろうに剣心』のアクションシーンは圧巻だったが、これは本人いわく「身体能力の限界に挑戦して全身全霊で取り組んだ」もの。3歳のころから日本舞踊とバレエを習い、高校でもアクロバティックな動きを含むダンス部に所属するなど、人並み外れたチャレンジ精神の持ち主なのだ。

清楚なお嬢様風のルックスだが、演じる役柄は多彩。ドラマ『鈴木先生』では神秘的な優等生の小川蘇美、『黒の女教師』ではガールズバーでバイトしてでも見栄を張りたい松本栞、『リミット』では四兄弟の長女でしっかり者の神矢知恵子を演じ分けた。これができるのは、自他ともに認める「とことん役のことを考え込むタイプ」だからだろう。

さらに土屋は現在、芸能活動に加え、日本女子体育大学体育学部運動科学科舞踊学専攻に在学している。「私は努力しないと何もできない」と話しているように、どこまでもストイックに自分を追い込んでいるのだ。

朝ドラに向けて、トレードマークのロングヘアを40㎝切ったのも努力の1つ。つねづね「女優という仕事は素晴らしい」「役に出会えた縁を大事にしたい」と公言しているだけに、迷いはなかったのだろう。

俳優界イチの長文ブロガー

「まだピンと来ない」という人は、土屋のブログをぜひ読んでみて欲しい。ファンの間では有名なのだが、彼女は芸能界きっての"長文ブロガー"なのだ。毎日数千字を更新し続けている上に、「私は文章を書くことが苦手」と言うのはいかにも土屋らしいが、そこには等身大の心境と、ファンへの気づかいが延々とつづられている。

そもそも芸能人が、失言リスクの高い長文ブログを書くこと自体リスキーだ。しかも売れっ子女優で、大学での勉強もある土屋は、「忙しくてブログどころではない」と考える方が自然だろう。それでも書き続けているのは、「本当に伝えたいことがある」上に、「ファンとのつながりを大事にしたい」からではないか。何しろ現在「日本一忙しい」朝ドラ主演をこなしながら更新しているのだから、そういう気持ちがなければこれほど長文のブログを毎日書くことはできない。

土屋のそうした真摯な姿勢は、当然スタッフや共演者、さらに高校・大学の同級生にも向けられている。そのためか、彼女の周りには立場を問わず、"個人応援団"が多いとも聞く。群雄割拠の女優界の中でも、これほど「応援される力を持った」存在はレアだけに、春以降の飛躍が楽しみでならない。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。