日本医師会などはこのほど、「食育健康サミット 2014」を都内にて開催した。会場では講演のほか、「性・年齢別疾病の発症予防・重症化予防と日本型食生活の役割」をテーマに、4人の有識者によるパネルディスカッションが開催された。

栄養に精通する有識者たちが、それぞれの観点から意見を述べた

突出している日本の低出生体重児出生率

まず、早稲田大学総合研究機構研究院の福岡秀興教授は、女性のやせ志向と低出生体重児の関係について指摘した。

日本が低出生体重児の出生率調査をはじめたのは昭和26年以降。経済発展に伴い、低出生体重児の割合は減少していったが、飽食による肥満の時代をへて、この数年、また上がってきている。

福岡教授によると、その割合は昭和26年前後にくらべて約30%、昭和53年に比べて80~90%も頻度が高くなっているという。この数値は、現代の妊婦の子宮内栄養環境が劣悪なことを物語っている。

欧米の栄養学研究者の間では、妊娠中から2歳までの約1,000日間の栄養状態が、その人物の一生の健康を左右するという「ワンサウザンドデイ」説が注目されているという。このように、妊娠中のママが食べるものは、子どもに影響を与えることが示唆されている。

「日本の低出生体重児の出生率(9.6%)は、先進国の中でも突出しています。まずは『小さくうんで大きく育てるほうがいい』という誤った認識を払拭(ふっしょく)してください。妊娠前からの健康的な食生活、妊娠中の炭水化物を含む適度な栄養摂取が必須です。また、新生児期や乳幼児期の発育については、過剰栄養にならないよう、母子健康手帳に書いてある月齢の発育基準の曲線を目安に育ててほしいと思います」。

生活習慣病は、生まれてからの不健康な生活習慣などのみによるものではなく、胎児の子宮内栄養環境に起因するという考えもある。事実、妊娠前半に炭水化物摂取量の少なかった妊婦の子どもは、6歳、9歳での体脂肪量の増加や肥満、高血圧を発症するリスクが高くなることが報告されているという。生活習慣予防は、中高年からではなく胎児の頃から始まっているのである。

栄養バランスのとれた食事がわからない人が続出

あいち健康の森 健康科学総合センターの津下一代センター長は、「健診・保健指導」への参加率を上げていく仕組みづくりの重要性を訴えた。

「『健診・保健指導』というシステムは、日本が世界に先駆けて実現しえた世界に誇るべき素晴らしいシステムです。参加率の高い地域は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の治療が減るなど、その具体的な効果も全国の特定健診データを集約したナショナルデータベースで実証されています」。

津下センター長は、現代人の食生活の乱れも不安視する。実際、子どもの頃からきちんとした食生活習慣を持たずに育ってきたがゆえに、栄養バランスのとれた食事がどういうものかわからない人も多いという。

欧米では生活保護受給者など、所得が低い層ほど肥満率が高いというデータが出ている。栄養教育を受ける機会の欠如や、少ない食費では必然的に高カロリー食になってしまうなど、原因はいろいろ考えられる。日本も格差社会が進んでいることから、基礎的な栄養指導はもとより、本人のバックグラウンドや現在の生活環境を把握した上での、きめ細やかな食事指導が必要となってくるとした。

名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学の葛谷雅文教授は、高齢者が若い頃に受けた古い食事指導の教えを順守し続けることに警鐘を鳴らした。特に「年寄りは野菜中心の食事がいい」などの考えが、高齢者の低栄養につながっていることを指摘。肉や炭水化物、油分も適度に摂取することを推奨した。

長寿国家の源となったご飯+おかずの組み合わせ

ディスカッションの最後には、司会を務めた神奈川県立保健福祉大学の中村丁次学長が、会場に集まった1,000人を超える医師や栄養士らに向け、今後一層重要となってくるであろう個別の食事指導の必要性を説いた。

その中で、中村学長は和食がユネスコの無形文化遺産になって以降、「粗食のほうが健康にいい」という考えが世間に広まっている感があるものの、実際はそうではないと訴える。

「昔の日本は粗食ゆえにみな低栄養状態で、かっけによる死亡率も高かったんです。日本がこれほどの長寿国家になったのは、経済発展により栄養が豊かになったこと、そして食の欧米化が進んでも、国民が米を主食とした食生活を手放さなかったからです。ご飯とさまざまな食材を使った、栄養豊富でバランスのとれたおかずを数品組み合わせた食事こそが、生活習慣病を予防する基本の食事だと思います」。

「米をとぎ、炊く手間が面倒だから」と、主食がパンやパスタなどに偏り、「おかず」が不足している人も多いだろう。ぜひとも、日本を長寿国家へと押し上げた「ご飯+汁+おかず」の食事スタイルを取り入れてもらいたいものである。