ガンバ大阪の歴史に残る大逆転優勝で幕を閉じた今年のJ1。キャプテンとしてJ2から昇格してきたチームを引っ張り、11月にはワールドカップ・ブラジル大会以来となる日本代表への復帰も果たした34歳の大ベテラン、MF遠藤保仁のプレーを支える2つの原動力に迫る。
「キャプテン翼」の岬太郎に自身を重ねる
遠藤のプレースタイルを表す言葉には、いまも昔も変わらない傾向がある。いぶし銀、黒子、そしてバイプレーヤー……。いずれもヒーローからちょっと距離を置いた存在を意味する。実際に遠藤は常にマイペースで、決して目立たない。それでいて高難度の仕事を淡々と、確実に遂行していく。
ジーコやイビチャ・オシム、そして岡田武史の歴代監督に率いられた日本代表において、不動の司令塔・中村俊輔と以心伝心のコンビネーションで魅せていたころに、サッカー漫画『キャプテン翼』の登場人物になぞらえる質問をぶつけたことがある。
「中村選手が主人公の『大空翼』ならば、遠藤さんは(翼君の)永遠のパートナーである『岬太郎』なのでしょうか」。
遠藤は笑いながら、主役を輝かせる役割に自負心をのぞかせた。
「翼君と岬君ほどじゃないですけど、イメージはそうですね。僕と(中村)俊輔だけの関係なら、100%に近い確率で考えていることがわかり合えます」。
4日間で2度のスポットライト
2014年12月。その遠藤が眩(まばゆ)いスポットライトを浴びながら、4日間で2度もひのき舞台に立った。
一つはJリーグ史上に残る、最大勝ち点差14をはね返しての逆転優勝を達成したガンバ大阪をけん引してきたキャプテンとして。そして、もう一つは1年間を通じて最も活躍した選手の証しとなるMVPとして。
同9日に横浜アリーナで開催された年間表彰式の「Jリーグアウォーズ」。司会者に名前を読み上げられても表情ひとつ変えなかった遠藤だったが、受賞スピーチでは珍しく思いの丈を語った。
「あと1カ月くらいして35歳になりますが、サッカーは年齢じゃないということをこれからも証明し続けたいと思います。それとともに、若くて素晴らしい選手がいることを自分の中で意識しながら、若い選手たちに負けないように頑張りたいと思います」。
日本代表でともに戦ったFW柳沢敦やDF中田浩二が現役を引退していく中で、そう簡単には追い抜かれないと宣言してみせた。
相手の特徴に自身を対応させる感性
来季18回目のシーズンを迎える「フィールド上の職人」を支えているものは何か。
ひとつは研ぎ澄まされた「感性」となる。チャンスでは決して浮き足立たず、ピンチにもまったく動じない。ピッチの上で起こり得ることを瞬時に察知できるからこそ、どんな状況でも自然体を貫くことができる。
件(くだん)の「岬君」は、感性を生かして誰とでもすぐにコンビを組める能力がある。そして、それは遠藤にも相通ずるものがある。J2を戦った昨シーズンから、ガンバでボランチを組んでいる日本代表MF今野泰幸が言う。
「ヤットさん(遠藤)とは特に話さなくても、わかり合えますね。パスや動きで感じ取れるというか、あうんの呼吸ですね。やりやすいし、一緒にプレーしていて本当に楽しい」。
日本代表では、2008年5月から長谷部誠とボランチを組んできた。ザックジャパンでは、トップ下の本田圭佑と絶妙の縦関係を築いた。「感性」が高いから相手の特徴をすぐに理解して、自らのプレースタイルを柔軟に適応させることができるわけだ。
W杯ブラジル大会で刻んだ悔しさ
もうひとつは胸中に刻まれている「悔しさ」となる。
歴代最多記録を更新し続けている日本代表での「148」のキャップ数は、おそらく未来永劫(えいごう)に破られない。
ただ、長きにわたり代表に君臨する一方で、憂き目にも遭ってきた感は否めない。
2000年のシドニー五輪は予備登録選手として現地へ帯同し、同部屋となった中村に気を使う日々を送った。2006年のワールドカップ・ドイツ大会はフィールドプレーヤーとしてただ一人、ピッチに立てなかった。
ザックジャパンでも不動の地位を築きながら、今年のブラジル大会では2試合連続で先発を外れ、コロンビア代表とのグループリーグ最終戦ではベンチを温めたまま終戦を迎えた。
MVPの受賞スピーチでは、ハビエル・アギーレ監督の下で11月に復帰を果たし、ゴールまで決めた日本代表にも言及している。
「個人的にはブラジル大会で悔しい思いをしたので、これからも成長しながら、さらにいい選手になって、チームとしても個人としてもいいパフォーマンスができるようになりたい」。
キャプテンとして史上2チーム目の3冠へ
鹿児島実業高校から加入した横浜フリューゲルスが1シーズンで消滅し、移籍した京都サンガも2シーズンでJ2へ降格した。
苦難を味わわされてきたからこそ、卓越したボールキープ力とパスセンス、戦術眼を存分に生かせるチームカラーを伝統とするガンバへの愛着は深い。
J2への降格が決まった直後には、誰よりも早く残留を表明した。1年でのJ1復帰へ導くと、今シーズンも全34試合に先発。9シーズンぶり2度目のリーグ戦優勝を決めた12月6日の徳島ヴォルティス戦で、ガンバの一員としてJ1をちょうど400試合戦ったことになる。
「団体競技なので個人がスポット(ライト)を浴びるのはあまり好きではないけど、評価されてのことなのでうれしく思います」。
来る12月13日にはモンテディオ山形との天皇杯決勝が、日産スタジアムで待っている。2000年シーズンの鹿島アントラーズ以来、史上2チーム目の国内3大タイトル独占へ向けて―。主役から再び黒子へ戻る遠藤は、プレーと背中でチームを引っ張るキャプテンとしてチームを勝利に導く。
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筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。