羽田~福岡が片道1万円前後の格安運賃

いずれにしろ、利用者にとって気になるのは空の便の使い勝手がどうなるかである。スカイマークが提携を計画しているのは羽田~札幌、神戸、福岡、鹿児島、那覇線。この5路線を中心に、3つのケースで見てみよう。

利用者にとって一番メリットのある未来は?

まずひとつは、現状では可能性が低いが、スカイマークの経営状態が何らかの形で持ち直し、今のまま独立運航を続けた場合である。利用者のお得度はこのケースが最も高くなるだろう。

スカイマークは10月末の冬ダイヤから普通運賃を値上げしたが、割引運賃は安く使いやすい。例えば、羽田~福岡線の普通運賃は2万円強から2万7,000円に値上げされたが、搭乗3日前が予約期限の「フレックス」は最低1万円強からで、普通運賃より約60%以上も安い。また、搭乗1日前が予約期限の「フリーフレックス」も同1万2,000円台前後からと最大約55%も安い。羽田~札幌線でも、普通運賃の2万2,000円に対し、「フレックス」が8,000円から、「フリーフレックス」が1万2,000円台などと割引率の高い運賃が設定されている。

「グリーンシート」の圧倒的な快適度

「グリーンシート」。ヘッドレストやフットレストも付き、簡易なベッド状態で利用できる

スカイマークは安さだけでなく、サービスも良くなっている。羽田~福岡、札幌、那覇線には前述した「グリーンシート」搭載のA330-300が就航(札幌線は8便中6便に就航ずみで、那覇線は今後就航)。この「グリーンシート」をJALやANAの普通席と比べると、座席の前後間隔は約18cm、幅は5~6cmも広い。

そもそも座席の構造自体が全く異なり、スカイマークの「グリーンシート」は一世代前の国際線のビジネスクラスで使用されていたシートで、リクライニング角度は深く、アームレストは幅広く、テーブルは2つ折タイプで、さらに全席に電源が装備されている。筆者も「グリーンシート」を利用した経験があるが、機内ではゆったりと寛げ、ぐっすりと寝込んでしまったほどだった。

JALと提携すれば使い勝手が変わる!?

では次に、JALと提携するとどういう影響を受けるのか。この場合、運賃の条件変更はまず避けられないだろう。

前述したように、スカイマークは羽田~福岡、札幌線に1万円前後の格安運賃を設定しているが、JALにもこのレベルの運賃がないわけではない。問題は予約期限だ。前述したスカイマークの羽田~福岡線の「フリーフレックス」は1万2,000円台。これに匹敵する運賃はJALにもあり、「先得割引」なら同区間で1万2,000円を切ることがある。

しかし、スカイマークの「フリーフレックス」は予約期限が搭乗1日前なのに対し、JALの「先得割引」は45日前(遅くても28日前)。使い勝手の差は歴然だ。観光で乗る時はもちろん、仕事で利用するにも45日前の予約期限では使い勝手が悪すぎる。しかも、スカイマークの「フリーフレックス」は予約の変更もできる。この運賃の安さと使い勝手の良さから、スカイマークはリピーターを増やしてきた経緯もある。

JALとの提携後、スカイマークの運賃がどうなるかは今のところ正式な公表はない。ただ、スカイマークの安くて使い勝手の良い運賃は大手の割引運賃と条件が大きく違うため、共同運航を始めると多少の値上げや予約期限の変更が行われ、今ほどの使い勝手は望めなくなると予想できる。

JAL国内線には運賃に1,000円を追加すれば乗れる「クラスJ」を設置。スカイマークの「グリーンシート」と互角の快適さだ

ANAと提携すれば国内運賃は大幅に上がる!?

そして、利用者にとって最も良くないと考えられるのがANAと提携した場合だ。ANAはJALと違って資本提携もできるため、経営に踏み込んだ展開になる可能性もある。また、運賃が市場シェアに大きく左右されるのは航空業界の常識だ。

羽田空港の国内線の発着枠はANAが37%で、JALが39%とJALのシェアが高い。その上で8%のシェアを持つスカイマークとJALが提携すればANAとの差が広がってしまう。このこともあり、国交省はJALとの提携に「待った」をかけたわけだが、この数字だけ見れば、公正な競争を阻害する可能性があるように見える。しかし、ANAはスターフライヤー、AIRDO(エアドゥ)、ソラシドエアと共同運航を行っており、それらを加えるとANA側のシェアは羽田便の50%を超えるのだ。

しかも、幹線に限ればANA側のシェアはさらに上がる。羽田~福岡線の場合、ANAと同社と共同運航をするスターフライヤーを合わせた便数は1日25便。これに対しJALは17便、スカイマークは11便。もしスカイマークがANA側につけば便数は合計36便となり、なんとJALの2倍以上の便数になる。シェアが格段に上がるとともに、スカイマークの格安運賃に対抗する必要もなくなり、運賃が大きく上昇するか、片道1万円前後の格安運賃の使い勝手は相当に厳しくなる可能性はかなり高い。

スカイマークもついに、他の新興エアラインと同じく独立運航をやめる日が近づきつつある

JALを救済したのは民主党政権であり、現在は自民党が政権を握る。現政権下で政府専用機の整備の委託先がJALからANAに変更された。現在は選挙期間中であり、スカイマークの提携問題が解決するのは選挙後だと言われ、政治的な事情にも左右される話でもある。大手との提携が実現する前に、安くて使い勝手の良い現運賃でスカイマーク便を予約しておいた方が、利用者にとってはいいのかもしれない。

※本文中の便数は2014年12月現在、運賃は2015年3月までの設定分を反映

筆者プロフィール : 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。