窓側席でも静けさを満喫できるエンジン性能
さて、定刻通りにドアクローズとなり、機体は滑走路に向かって移動をはじめた。使われたのは羽田空港で最も新しいD滑走路だった。
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第4世代と呼ばれる最新のエンターテインメント・システムを装着可能。今回の機材は欧州Thales(タレス)社製だった。着陸していく様子も臨場感たっぷりに映し出された。右の画面は、今回の飛行ルートが表示されたフライトマップ |
いよいよ離陸。徐々に加速をはじめたと思ったら、楽々と浮上。エンジン性能の高さを実感する。また、性能以上に驚いたのがエンジン音の静かさだ。筆者の座席は主翼のすぐ後ろの窓側だったにも関わらず、ほとんど聞こえなかったのだ。
今回のデモフライト機に搭載されたロールスロイス社のエンジン「トレントXWB」の騒音レベルは、ICAO(国際民間航空機関)の騒音規制「チャプター4」を16デシベルも下回るという。チャプター4といえば100席クラスの小型機の騒音レベルだが、それよりもはるかに静かなのである。
エンジン音の静かさは、機内の快適性に直結するのはもちろん、飛行機が抱える永遠のテーマ、空港周辺の騒音問題の解決にも大きく寄与する。
耳詰まりが軽減! カーボン素材使用のたまもの
胴体に炭素繊維強化プラスチック(カーボン)素材を使っているのもA350XWBの特徴だが、これにより可能になるのが機内の気圧をより高くすること。ボーイング社の787シリーズを除く従来機の場合、機内の気圧は地上8,000フィート(約2,400m)に相当し、これは富士山でいえばちょうど5合目に当たる。ところが、A350XWBではこれを同3合目付近の6,000フィート(約1,800m)の状態に保っているのだ。
今回は羽田を飛び立った後、名古屋の手前で折り返して羽田に戻るルートの約1時間程度の短い飛行時間だったため、飛行高度は最高で2万5,000フィート(約7,600m)と、中・短距離便の通常の巡航高度の1万mにはおよばず違いが分かりにくかった。それでも、着陸に向けて高度が下がって行く時にいつも感じる耳詰まりがほとんどなかったのは、この旅客機が気圧を高く保ってくれていたからなのだろう。
フライトの終盤になると自慢の発光ダイオード(LED)を使ったライティングで搭乗者を楽しませてくれた。ビジネスクラスではレインボーカラーが演出され、エコノミークラスはブルー、グリーン、イエロー、パープルなど、様々なカラーリングで客室を彩った。A350XWBはオゾンを除去し、バクテリアなどを吸収するなどして機内の空気をクリーンにする機能も持つ。より長距離のフライトに乗れば、それもより実感できるはずだ。
楽しみになってきた定期便への就航
楽しい時間はあっという間に過ぎる。機体は出発後ほぼ1時間で予定通り羽田空港にスムーズに着陸した。感想をいえば、事前に想像していた以上に快適なデモフライトだった。A350XWBは乗客の乗り心地や居住性を最大限によくするべく設計されたと間違いなく言える旅客機だった。
A350XWBは今年中にカタール航空に初号機が納入され、来年にはアジア初のローンチ・カスタマーであるベトナム航空が運航をはじめる予定。日本の航空会社ではJALが2019年の就航を予定している。今回の機体はデモフライト用であり、実際に定期便に就航する客室の座席や配列は航空会社によって違ってくる。各社、どんな工夫で快適さを提供してくれるのか。楽しみになってきた。
筆者プロフィール : 緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。