しかし、その2年後の2012年夏、今度は成田空港へのアクセスに便利で格安な深夜バスが加わった。

深夜便が好評で便数増やす「格安バス」

成田空港発着の国内LCCであるジェットスター・ジャパンとエアアジア・ジャパン(現在「バニラエア」にリブランド)が就航すると、その「格安旅行客」を狙って京成バス系が東京駅発着の「東京シャトル」の運行を開始した。現在は銀座・東京駅発着の「THEアクセス成田」(平和交通)も加わり、それぞれ片道900円、1,000円とリムジンバスや成田エクスプレスの約3分の1と運賃も衝撃的だった。

東京駅から羽田までの「空港リムジンバス」の運賃は930円だからほぼ同じである。また、成田まで片道1時間前後と電車並みの早さも魅力で、東京駅と銀座駅発着なので、成田まで行く間に都心の渋滞に巻き込まれる確率が低いのも魅力と言える。この成田への格安バスは順調に利用者を増やし、現在は深夜・早朝以外の時間帯の便も走っている。

成田空港・第2ターミナルにあるジェットスター・ジャパンのチェックインカウンター。「格安バス」は客室乗務員も利用する

一気に5路線を開設する羽田発着の「深夜バス」

そして、2013年9月に決定した東京オリンピック・パラリンピックの開催は、両空港のアクセス改善にさらに拍車をかけそうだ。

国土交通省は10月26日から2015年3月末までの間、羽田と都内各所および横浜を結ぶアクセスバスを深夜・早朝の時間帯に実証運行すると発表した。具体的な路線と運賃は、銀座・東京・秋葉原方面(1,860円)、新宿・池袋方面(2,000円)、渋谷方面(2,060円)、大鳥居・蒲田・品川方面(560円、1,030円)、横浜YCAT方面(1,030円)。羽田空港行きが午前3時~4時台、空港発が午前1時台となっている。

2010年10月の再国際化や2014年3月末の発着枠拡大で羽田空港の国際便は増えているが、深夜・早朝の発着便は乗客が思うように集まらず航空会社に敬遠される傾向にある。その原因のひとつが公共交通機関の不足と言われており、それを確かめる意図も今回の実証実験にはあるのだろう。いずれにしろ、利用者からすればアクセスが向上するのは間違いなく、タクシーを使うより何倍も安くすむのは言うまでもない。

どっちが便利か比べる必要ない時代へ

今後は、鉄道のアクセス改善計画もめじろ押しだ。田町・品川付近から羽田にアクセスし、将来的には2015年開通の上野東京ラインを使い東北線・高崎線・常磐線などとの接続も視野に入れる「羽田空港アクセス新線」(JR東日本)、「新東京駅」と羽田を20分弱、同駅と成田を36分でそれぞれ結ぶ通称「都心直結線」(京急)など、いずれも計画は大規模だ。

「都心直結線」は羽田と成田も約1時間で結ぶ計画である。この鉄道が象徴するように、「羽田が便利」「成田が便利」と比較するより、両空港をうまく使って旅するのが賢い時代になっていくようだ。いや、すでにそういう使い方をしている旅行者が多いはずだ。

実際、旅客便の発着枠は羽田が44.7万回、成田が30万回とそう大きな差はなく、羽田の発着枠が満杯である現状を見ると、しばらくは場合によって両空港を使い分けることになるだろう。安い国内旅行なら国内LCCの拠点である成田を使う確率が高く、JALやANAで札幌や福岡、沖縄へ行くなら幹線の多い羽田。またアジアへの海外旅行なら行きは羽田、帰りは成田、あるいはその逆というパターンもある。

自分の家や会社からの便利な行き方、安い行き方はどんなアクセス方法か。知らない間に変わっていくともいえる地上アクセスの最新情報を掴んで上手に使いこなしたい。

※文中の料金表記にICカード割引は含みません

筆者プロフィール : 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。