それを考えさせるっていうことを今の10代の子に教えておけば――その子たちが例えば「JAXA」に入るのはたかが10年後よ? 言葉だけで、専門誌で言っているだけでは根付かないものを、こういうレベルからもっていけば、1人から2人刺激された子が「JAXA」へ行って「先生! それおかしいです!」と大人たちに言ってくれれば、成功なんです。そういう構造にしていきたいという話が、「キャピタル・タワー」ひとつとっても話すことができます。『G-レコ』が公表されるまで3年間、着想はできていたけれど、こんな話一切できなかったんです。今回「クラウン」という車列を出したのは、交通機関のイメージがつきやすいものから、交通の問題を考えましょうということを提示していきたかったわけです。
――交通はもちろん、ものやエネルギーを運ぶ輸送機関としても成立します。
ものを運ぶのが交通。だけどものを運ぶ時に重要なことがあります。こっちとあっちに、ものが運び運ばれる、そして運ばれることが必要だと思っている人がいる、相互になければ交通機関は成立しないんです。宇宙エレベーターの一番怖いところは、行き先に何もないのに作ろうとしていること。でも『G-レコ』なら、今回は宇宙エレベーターがあって交通があって、こういう理屈にしている。アニメだから良いでしょって、言うことができます。
――技術と世の中の断絶のようなものも落としこんであるということですね。
まったくそのとおりです。その上で解説しておくと、リギルド・センチュリーでの科学技術は、一切の進歩を止めた時代にしているということです。これは考え落ちしてもらっては困るんだけど、この世界は「ガンダムワールド」があった上での科学技術だから、今の我々よりももう少し進んだ技術があった上で、それで全てストップしてしまったということ。要するに「ガンダムワールド」的なレベルのものは平気で出していいという言い方もできるので、ガランデンという軍艦が海の上で浮き上がって、「なんで?」と言われても、ミノフスキー・クラフトだからうるせえよ! って言っちゃえる(笑)。それはハリー・ポッターの杖と一緒だから、文句あっか! って(笑)。
――「クラウン」にもミノフスキー・クラフトは使われている?
もちろん。それがなければ絶対あがらないもん。それだけではなくて、「キャピタル・タワー」そのものも、こういうことを考えたんです。今の宇宙エレベーター論で考えた時、実はケーブルを静止衛星軌道から垂らしてつくっていきますが、僕は計算が全くできない人間なんだけれども、直径1センチメートルの糸みたいなものでも3万5,000キロ伸ばしたらかなりの質量になるはず。この質量というものを維持することに加え、「クラウン」所謂リニアモーターカー的なものを動かすとなると、ケーブルに磁気を発生させるために電流が流れていなくてはならない。では、通電する電力どこから? という問題がありますが、「ガンダムワールド」以後ですので、全部解決しました(笑)。
――その電力の供給源があるんですね?
地球そのものがバッテリーになっているんです。バッテリーでもあると同時に、放電するシステムも持っています。そのエネルギーを電力としてケーブルなどに蓄えて、リニアモーターカーを成立させています。地球が発電機になっているなんて皆さん知らなかったでしょう? でもしょっちゅう見ているんです。
――……すぐに思いつきません。
雷です。雷の電力を恒常的に吸収することができるのが、「キャピタル・タワー」でもあると。文句あっか! って(笑)。問題なのは、こんなことできるわけないだろっていうことです。実際の技術の延長にないだろうということなんですけどね。
――そういった富野監督の構想や想いがある中で、主人公のベルリ・ゼナムは、今の時代の"少年像"として、どのようなことを意識して描きましたか?
極端な話はよして、小学生くらいになり、みんなが絶対に共通して思うことがあると思うの。僕は、私は、こんな家の子じゃないよね、本当はもっといいところの子だよねって、みんな思う時期がある……。
――確かに、思いあたります(笑)。
そこをつきました(笑)。つまり、もう小学生にもなれば自分に過去がある、お母さんお父さんがいる。彼、彼女らにはキャリアがあるんです。それがリスクなのかリターンなのかはわからないけれど、そういうものを感じて、自分の中で整合性をつけながら大人になっていくのが子供であり、成長することです。ベルリとアイーダの場合、両方そうなんだけど、二人にははっきりしたリスクを背負わせました。これはドラマ的にわかりやすい設定です。そのことを知らないんだけれど、子供たちはティーンエイジを生きている時に、実の両親に育てられたのか、育てられていないのかということを感じる瞬間があるはずです。知る知らないの話ではなくてね。