多くの人が不安に思っている「老後の生活」だが、特に最近の若年層では、将来に対する不安を抱えている人が多く、その対策について若い頃から考える傾向にあるという。そこで今回は、フィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏に、同社が勤労者3万人を対象に実施したアンケート結果などをもとに、若年層の「年金」に対する考え方や、老後への対策の傾向などについてお伺いした。

フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏

――一般には、年齢層が高い人が金融資産を多く持っていると思われていますが、最近の若い人は貯蓄にも熱心と聞いたことがあります。若い人の金融資産の保有状況は今どうなっているのでしょうか?

フィデリティ退職・投資教育研究所では2014年4月に勤労者32494名を対象にした退職準備と投資行動に関するアンケート調査を実施しました。その結果をもとに若い方々の投資の状況をお話ししていきましょう。

まずは金融資産の保有状況ですが、20代の回答者6188人の平均金融資産残高は579.9万円、30代8942人で793.8万円と意外に高くなっています。もちろん50代の1294.3万円と比べると大きく見劣りがしますし、20代、30代ともに一番多いレンジは100-500万円の層で、20代で38.2%、30代で33.6%と3分の1を占めますから、一般的にはそれほど多くの資産を持っているというわけではありません。

しかし、なかには平均を大きく上回る金融資産を持っている人もいます。32494人の回答者のなかで1000万円以上の金融資産を持っていると回答した人は5135人いました。15.8%に上りますが、そのうち20代で金融資産1000万円以上を持っている人が454人で、20代の7.3%に相当します。

――なるほど。若くても多くの金融資産を持っている人も少なからずいるということですね。そうした人に共通する特徴などはありますか?

話を分かりやすくするために若者の代表ということで、ここでは20代に絞ってお話をしましょう。金融資産1000万円以上保有する20代454人のアンケート結果を20代全体6188人の結果と比較していくと、いくつか面白い特徴が浮かび上がりました。

まずは公的年金に対する理解が深いということです。ちょっと意外なんですが、「公的年金を理解していますか」という設問に対して、「理解している」と「ほぼ理解している」との回答者数は、この454人では54.0%と20代全体の32.7%を大幅に上回りました。また、「公的年金の給付額を知っているか」の設問には454人のうち51.1%が「知っている」、「だいたい知っている」と答えており、こちらも20代全体の29.7%を大きく上回りました。さらに「公的年金以外に退職後に必要な資金総額」に対する回答の平均値も454人では3438.3万円で、20代平均の2549.18万円を1000万円ほど上回っています。

こうした特徴は事後的に持つようになるとは考えにくいものです。例えば宝くじや遺産相続で1000万円以上の資産を受け取った20代が、受け取ってから公的年金について理解をするようになり、退職後の生活を現実的にみるようになるとはとても思えません。とすれば、こうした特徴が若くして資産を多く持つようになった原因のひとつとしてとらえてもいいのではないでしょうか。

――なるほど、意外ですね。若くてお金持ちの人ほど、公的年金や退職後の生活に関心が高いということですね。実は私の学生時代の友人に銀行員になった人がいるのですが、その友人も就職活動中から、「老後」のことを考えて就職先を考えていると言っていました。そのほかの特徴はありますか?

もう一つ年金に関連することではありますが、確定拠出年金、いわゆるDCへの関心が高いことも特徴として挙げられます。DCはここ10年ほどで拡大して、加入者は現在500万人弱にまで広がってきた私的年金です。サラリーマンの多くが加入する、企業が掛け金を拠出する企業型確定拠出年金と自営業者などが加入する、自分で拠出する個人型確定拠出年金があります。名前のごとく、自分の口座に拠出される金額が定められており、その資金の運用は加入者が行うことで運用の成果が受け取れる年金に直接影響するタイプの年金です。

このDCに加入している比率は454人中33.2%と20代の16.8%を上回りました。ただこれは、制度を導入しているのが大企業中心であることから、加入者の比率が高いのは高収入の大企業従業員が多いためとみることもできます。しかし、単にDCを知っているかと尋ねた結果でも、454人では41.1%が知っていると答えており、20代21.7%の2倍の水準になっています。この設問での差は単に勤務先の規模だけの問題ではなさそうに思えます。

実は、アンケート回答者全体でDCを「知っている」、「知らない」で比較をすると、保有金融資産や退職準備の状況、投資をしている人の比率などいずれもDCを知っている人の方が非常に高い数値になっていることもわかっていますので、DCへの積極的な関与も金融資産を多く持っている要素の一つになっているかもしれません。

――「確定拠出年金」って何か難しそうなイメージがありますよね。「確定拠出年金」を知っているかどうかで、そんなに差があるんですね。そのほかの特徴はありますか?

お金の情報をどこから得ているかにも特徴が出ていました。新聞、雑誌、TV、知人・友人・家族、セミナーなど、現在我々の周りにはお金に関する情報の入手先は多数あります。その中で20代全体と比較して、454人に大きく表れているのが、金融機関のWebサイトをよく見ていることです。20代全体では金融機関のWebサイトをお金の情報の入手先として挙げていたのはわずか9.4%で、TVの情報番組13.3%に比べ大きく見劣りしています。しかし、454人のなかでは20.7%が金融機関のWebサイトを挙げており、20代全体と同水準の14.1%が挙げたTVの情報番組を抜いてトップになっています。新聞記事とか雑誌の特集記事などの比率も総じて高くなっていますから、文字情報への依存が大きいということになるのではないでしょうか。

それとちょっと気になったのが、お金に関する情報の入手先の選択肢に「家族との会話」というのを入れたんですが、454人のなかでは9.7%がこれを選んでいます。それほど大きな比率ではないのですが、20代全体の5.9%に比べて意外に大きいことにちょっと驚いています。この結果をみて、数年前の女性のグループインタビューで「投資を始めたきっかけ」を聞いた時に「父が投資をしていたから」という人が非常に多かったことを思い出しました。家庭内の投資教育が意外に重要だとすると、何も20代の話ではなく、その親の世代の50代の課題なのかもしれませんね。

――なるほど。金融機関のWebサイトってあまり見ないですよね。「家族との会話」も重要なんですね。いままで、「若いけど"お金持ち"の人」の4つの特徴を挙げていただきましたが、こうした人たちは、やはり「投資」にも興味があるのでしょうか?

はい、もちろん最も大きな特徴が出ているのが投資に対する向き合い方です。

まずは20代全体の投資の特徴をお話しましょう。20代男性、30代男性に「投資をしていますか」と聞くとそれぞれ25.6%、36.4%が「投資をしている」と答えています。非常に高い水準だと思いませんか。しかし、「退職後の生活の資産形成として行っていること」として聞くと、「資産運用」と答える人は20代男性で8.9%、30代男性で11.7%と激減します。

大雑把にいえば3割が投資をしているが、資産運用は1割。とすると「資産運用ではない投資というのは何か」ということになります。その答えは、投資の目的として「ひと儲けしたい」「小遣いが欲しい」といったことを挙げる比率が高くなっていることを念頭に、20代、30代の男性が全体の平均以上に資金を投じている金融商品をみればわかります。外国為替証拠金取引(FX)です。投資はしているが退職後の生活資金を考えた資産運用ではなく、ひと儲け・小遣い稼ぎを狙ったFX投資をしているのが20代・30代の男性の特徴なのです。

そこで金融資産1000万円以上を保有する20代と、この20代全体のそれぞれの特徴を投資している金融資産でみてみたいと思います。20代全体で投資をしている人は1105人、全体の17.9%です。男性は先ほどみた通り25.6%で、女性は9.5%です。この投資をしている人のうち「どの金融商品を保有しているか」を聞いた結果、日本株が58.8%とダントツに高いのですが、その次がFXで19.9%。あとは10%台となっています。

これに対して金融資産1000万円以上を保有する20代では投資をしている人は44.5%に達し、保有金融商品も日本株が71.3%に高まり、その次が外貨預金25.7%、日本債券23.8%、日本株投信22.3%と続きます。FXは20.3%で4位まで下がります。ちょっと並べてみると、FXは1000万円以上の金融資産を持っている人でも20代全体の平均でも2割で変わらないのに、それ以外の金融商品はすべて1000万円以上の金融資産を保有する人の方が多いということです。すなわち資産の分散が大いに進んでいることを裏付けています。

資産が増えるから分散が進むのか、分散が進むから資産が増えるのか。一概にどちらが原因でどちらが結果とは言い切れない気がしますが、互いに連鎖しているようにも考えられます。いずれにしてもFX投資から一歩脱却して資産分散を進めているのが資産保有者の特徴と言えそうです。

――「投資は難しい」「損するかもしれない」などのイメージがある人もいると思いますが、投資にあたって一番心がける点は何ですか?

若い人にとっての資産運用、資産形成の最も強い見方は「時間」だと思います。金融資産1000万円以上を保有する20代454人の投資理論に関する理解度をみると、「長期投資は有効である」と回答している人の比率は58.8%で20代平均の30.8%の2倍になります。「分散投資」も55.9%と29.3%、「時間分散」も36.3%と18.1%と、いずれも投資理論をよく理解していることがわかります。

資産の分散に関しては先ほどお話ししましたが、「長期投資」と「時間分散」も合わせて理解して欲しいと思います。長い時間をかけてじっくり投資をすることで短期的な相場の変動に惑わされない投資ができます。長い投資期間を想定して投資タイミングを分散する「時間分散」で投資の効率を上げ、投資を続ける姿勢を養います。こうしたことが投資の力になってくれます。

毎月一定額を積み立てる積立投資は、「時間分散」と「長期投資」を具現化してくれる方法です。よく一例として取り上げるのですが、日経平均を1989年12月から毎月1万円ずつ購入したとすると2013年12月末でどうなっていたと思われますか。1989年12月末の日経平均は史上最高値で38915.87円、ここから2013年12月末には16291.31円まで6割方下落しています。この間、289カ月、投資金額は289万円になりますが、2013年12月末の時価評価は342.5万円で18.5%の儲けが出ているのです。

株価は下落しているのに儲けが出ているのは、積立投資の最も注目できる「時間分散の力」です。毎月一定額で買い続けるということは、価格が下落すると購入数量を増やし、価格が上昇すると購入数量を減らすという仕組みを自動的に行うことになります。その結果、購入単価を低く抑えることができるのです。この日経平均の場合には平均購入単価は13745.57円になっています。

――投資の3原則が基本なんですね。野尻さんから、「年金」や「投資」に関して、若い人に何かメッセージなどはありますか?

「今、老後の資産なんて考えたところでその通りになるわけでもない」と考えることを放棄しないでほしいと思います。その通りになるかならないかは誰にもわかりませんが、考えて対策を打っておくことはできます。何もしないよりも確実に何かをする方が将来にプラスになります。「少し将来のことを考える」「そのために今何ができるかを考える」これが大切なことだと思います。

客観的にみると、若い世代の人の30年後、40年後、50年後の負担は人口構造が大きく変わっていることだけでも相当なものになるだろうと懸念されます。今、当然と思われることが当然ではなくなる時代に向けて、政府に頼るでもなく、周りに依存するでもなく、自分で自分を守る「自助努力」しか対策はないだろうと思います。今から始める資産形成はその最たる対策だと思いますので、是非早い時期から資産形成に着手してほしいと思います。