東急電鉄と東急不動産はこのほど、「変わりゆく渋谷」と題して記者発表会を開催した。高層ビル「渋谷駅街区東棟」の着工を記念し、渋谷駅周辺開発の全容を紹介。高層ビル、中低層ビル合わせて7棟が新築され、駅周辺は立体的なプロムナードに変わる。新築ビル群は2018年度から随時開業し、全体の整備完了は2027年度の予定だ。
街はいつも変化している。渋谷もその例外ではなく、店舗は入れ替わり、中小ビルの建替えも常だ。その渋谷で、さらに大きな変化が起きている。すでに東急東横線渋谷駅は地下に移され、東京メトロ副都心線と相互直通運転が始まった。高架上にあった旧東横線渋谷駅は解体工事が始まっている。その跡地はJR東日本の駅が拡幅されて、山手線と埼京線のホームが並ぶ。東京メトロ銀座線の駅も明治通り上に移動する予定だ。商業ビルとしては、「渋谷ヒカリエ」がひとあし早く開業している。
今回の記者発表会で、渋谷駅を中心とした不動産開発計画と、コミュニティの中心となる渋谷駅の外観についても明らかになった。
渋谷駅の空が広くなる
渋谷駅に隣接していた東急東横店の東館・西館が消えて、ハチ公前広場が拡張される。ここには駅の屋上も含めた立体的な広場ができる。「西口アーバンコア」と呼ばれる空間だ。
地上のハチ公前広場は、JR山手線・埼京線のガードの反対側にも拡張され、路線バスの発着場に続く広大な広場ができる。また、渋谷の象徴ともいうべきスクランブル交差点は残される。近年の区画整理では、人車分離が理想とされる。しかし、渋谷駅に関しては、周辺の街とのアクセスを考慮して残したとのこと。
ハチ公前広場からは3つの大階段とエスカレーターで渋谷駅屋上空間へ向かう。大階段部分は大屋根で覆われ、雨天時も安心。各階層で渋谷駅の真上に作られるビル「渋谷駅街区中央棟」に隣接する。「渋谷駅街区中央棟」にJR線改札口と東京メトロ銀座線の改札口があり、ビル内のコンコースで立体的につながる。
圧巻は最上階に設けられる広場だ。中央棟の大階段側から北側のJR線ホームの真上に広大な空間ができる。そこから銀座線の線路の上にプロムナードが作られ、「渋谷ヒカリエ」に通じている。
これから数棟の高層ビルが建ち並ぶ渋谷だが、「渋谷駅街区中央棟」は地上10階、高さ約61m、西側に隣接する「渋谷駅街区西棟」は地上13階、高さ約76mに抑えられた。駅上に空を仰ぐ広大な空間が残される。自然の風かビル風かわからないけれど、風が吹き抜けて気持ち良さそうだ。なお、この2つのビルの用途は商業施設とのこと。店舗面積は約7万平方メートルとなる。開業は2027年度の予定。
地上46階、高さ230mの渋谷駅街区東棟
このたび着工した「渋谷駅街区東棟」は、東横線渋谷駅跡地にできる。正確には東横線渋谷駅の敷地のうち、埼京線ホームの拡幅部分以外の敷地だ。JR駅真上の「中央棟」をはさんで、山手線の線路の東側、銀座線の南側、首都高速3号渋谷線の北側にあたる。
渋谷駅の新たなランドマークとなるべく、地上46階、高さ230mで、「渋谷ヒカリエ」より約50mも高い。地下は7階まであって、渋谷川を包む格好だ。内部に乗換えコンコース「東口アーバンコア」を設け、JR線改札口と東急東横線コンコースを高低差ある一直線で結ぶ。
「渋谷駅街区東棟」は、高層階が約7万平方メートルのオフィス、中低層部は大規模商業施設になる予定。事業主体は東急電鉄・JR東日本・東京メトロの3社。工期は2019年度。開業は2020年度の予定。このビルの整備に合わせて、宮益坂・渋谷ヒカリエ方面の歩行者デッキや国道246号線をまたぐ歩道橋も整備・拡幅されるとのこと。
東横線渋谷駅跡地、首都高速3号線南側に34階の「渋谷駅南街区」
高架駅時代の旧東横線渋谷駅は南北に長かった。かまぼこ屋根の上に首都高速3号渋谷線がまたがっていた。この首都高速の北側は、前述の「渋谷駅街区東棟」となる。南側にも新たなビルが建つ。
「渋谷駅南街区」の高層ビルは地上34階、高さ約180mで、「渋谷ヒカリエ」とほぼ同じ高さ。高層階はオフィス、中層階は約200室のホテル、低層階はイベントホールや商業施設が入る予定。このビルと「渋谷駅街区東棟」を結ぶ歩行者デッキには、高架時代の東急東横線渋谷駅で使われた「かまぼこ屋根」のデザインが取り入れられるという。
このビルから旧東横線跡地と渋谷川に沿った約600mについては、新たな環境整備が実施される。渋谷川の水流を復活させ、ツタによる護岸緑化、並木や広場を整備する。旧東横線の線路を伝って代官山駅側には、散策路やカフェなどが整備される。
「渋谷駅桜丘口地区」も2棟のビルで再開発
「渋谷駅南街区」からJRの線路をはさんだ西側の地区にも、高層ビル2棟が建設される予定だ。この地区は大規模跡地ではなく、既存の小規模建物の地権者による再開発準備組合が主体となって事業を行う。A街区、B街区、C街区の3部分からなり、A街区は「地上36階、地下5階、高さ約180mのビル」と「地上15階、地下4階、高さ約90mのビル」の2棟。B街区は地上32階、地下2階、高さ約150mのビルが建つ。C街区は地上4階、地下1階、高さ約30mの低層ビルだ。
この地区は他の街区と違い、外国人居住者を意識したまちづくりが行われるようだ。具体的には、多言語対応の医療施設、子育て支援施設、賃貸住宅を整備するという。現在地にある教会もC街区に残るようだ。また、産学連携によるビジネスの起業やベンチャー企業の育成を図るため、企業支援施設も整備される予定となっている。
東急プラザを建て替えて空港バスターミナルを整備
渋谷駅西口バスターミナルは交通広場として再整備される。この広場に面した東急プラザビルは、周辺の建物と合わせて「道玄坂一丁目駅前地区」として再開発され、地上17階、地下5階、高さ約120mのビルになる。このビルは「渋谷駅街区西棟」と空中デッキで結ばれる。開業は2018年度の予定。
「道玄坂一丁目駅前地区」では、「都市型観光の拠点」と「街の国際競争力の強化」が図られる。ビル1階の一部は空港リムジンバスのバスターミナルに。中低層部は世界からの来客を想定した商業施設を設置。国内外から来訪する観光客向けの案内施設ができる。高層階はオフィスとなる。クリエイティブ・コンテンツ産業や外国系企業を対象とした産業進出支援施設も設置されるとのこと。
「ファッションの中心」から「ITビジネスの拠点」へ
今回の発表会は、「渋谷駅街区東棟」の起工式にちなみ、渋谷地区で建設される建物群の概要を紹介するという趣旨だった。渋谷という高層ビルの用途は、「オフィス」「商店」「ホテル」に集約される。今回はそれぞれの内容について、予定されるテナントなど具体的な名前は出なかった。「ギャルの街」「ファッションの街」としてのブランド力は十分にあるから、いままでの渋谷に欠けていた「ビジネス」を強く訴求したようだ。
オフィスの需要については、渋谷に集積するIT起業や成功したベンチャー企業の社名を挙げた。渋谷はIT系ベンチャー企業が多く、経済誌などでは「ビットバレー」とも呼ばれている。渋谷の「渋い」の英語「bitter」とIT用語の「bit」をかけて、シリコンバレーになぞらえた名前だ。都心では渋谷の他にも、品川~田町間新駅など再開発やオフィスビルの計画が多い。ライバルが多い中で、渋谷は「ビットバレー」を意識し、オフィスのテナント誘致に自信を見せている。
一方で、商業施設については強い訴求点が見られなかった。しかもエンターテインメント施設についてはまったく触れられていない。シネマコンプレックスやスポーツ関連施設、ミュージアム関連の構想も語られなかった。これらの施設は天井高や柱の配置を工夫しなくてはいけないから、大型になるほどビルの筐体とセットで検討されるはずだ。今回の発表の趣旨と異なるとはいえ、渋谷の魅力を語る上で、少しは触れてほしかった。
筆者はずっと東急沿線で暮らしてきた。東急沿線の人々にとって、渋谷は「買い物の街」だけでなく、「映画館の街」「プラネタリウムの街」でもあった。今回の発表では、「楽しい街・渋谷」をうかがわせる内容がなかった。それがちょっと残念だ。「オフィスがたくさんできますよ」「ITベンチャーがターゲットですよ」という内容ばかりだったから、せっかく渋谷駅屋上に広場ができても、そこを行く人は皆、空を見上げることもなく、スマホ歩きばかりしていそうな印象を受けた。
エンターテインメント関連や商業施設の詳細はまだ発表の段階ではなく、今後の動きに注目といったところだろうか。次はもっと「楽しくなる渋谷」の発表を期待したい。