初回放送が今年のドラマ視聴率1位となる26.5%を叩き出して以降、各メディアでさまざまな話題を提供しているドラマ『HERO』。ここでは放送されたばかりの物語をドラマ評論家の視点から掘り下げていく。

今回も15分拡大版となった第3話のオープニングは、たくさんの女性客でにぎわう大人気天ぷら店で笑顔の麻木(北川景子)。そこに久利生(木村拓哉)からの呼び出し電話が入り、麻木は思わず「チッ!」と舌打ちする……これで今日のメインテーマは、「検事と事務官のバトル(たぶん最後はコンビ愛)」であることが伝わってきた。

『HERO』でヒロインを務める北川景子

前シリーズの第7話をアレンジ

久利生検事に対する麻木事務官の不満は、「一日15時間くらい一緒にいるんですよね。解放してください! 私は自分が好きなおいしいものを一人でお腹いっぱい食べるのが一番楽しみなんです。私の楽しみを残業という暴力で奪っているんですよ」。井戸事務官(正名僕蔵)に対する馬場検事(吉田羊)の不満は、「職場から毎日奥さんに電話してノロける事務官は勘弁して!」。

一方、宇野検事(濱田岳)は好意を寄せる麻木事務官とのペア狙いで「合わないのでもう少し年の近い方というか。末次さん(小日向文世)を久利生検事に差し上げます」、末次事務官も好意を寄せる馬場検事とのペア狙いで「宇野検事は若すぎて……たとえば、馬場検事とか」と、こちらは恋絡み。

これらの申し出を受けた川尻部長(松重豊)は、「イーッツ! 変えて欲しいのは私の方だ!!」とブチ切れながらも田村&麻木、宇野&井戸、馬場&遠藤、久利生&末次のペアに配置変更。ただ、ラストはけっきょくお互いに「しょうがないなあ」で元サヤに戻った。この展開は前シリーズで絶賛された第7話をアレンジしたものであり、キャラクターの多彩な『HERO』ならではの王道ネタだろう。

また、「うまいな」と思わせたのは、久利生に対するさりげない演出。コンビニのレジで当たり前のように釣り銭を募金させる、空港で事件関係者を待っているとき自動販売機で飲み物を買おうとした麻木をさりげなく制してお金を入れてあげるなど、「ただのパワハラ上司」に見えないような優しさを散りばめていた。

ラストのTシャツに隠しメッセージ!?

テーマが定番だった分、「被疑者死亡につき不起訴」という意表を突く事件を持ってきたのは、いかにも福田靖の脚本らしい。「どうせこんな展開なんでしょ」と見なされる1話完結ドラマの弱点をカバーするために、3話目で変化球を投げてきたのだ。そういえば前クールの『BORDER』でも、脚本を手がけた金城一紀が第2話で「被疑者死亡」という変化球を投げていた。

さらに、もう1つの事件に「覚せい剤の所持・使用」というタイムリーすぎるネタを採用。久利生が「信頼厚いじゃないですか。責任感あって、面倒見もよくて。みなさん慕われていましたよ。もちろんご家族も心から立ち直って欲しいと言っていました」と話す「"いい人"でステイタスもあるCAでも、薬物が簡単に入手できてしまう」現代社会への警鐘なのか。難しい問題だけに、こちらはズバッとド真ん中のストレートを投げ込んだ。

ラストカットで久利生は、「白Tシャツに短パン」というますます夏っぽい服になっていた。ただ、よく見るとそのTシャツには「LET THERE BE SURF」の文字が。和訳は「波がありますように」だと思われるが、"LET THERE BE"には「〇〇でありますように」「〇〇であることを許す」という意味も考えられる。やや深読みかもしれないが、「麻薬に手を染めた人が悔い改めますように」、あるいは「ご遺族の気持ちが救われますように」、それとも「こんな服装の僕を許して」などのメッセージが込められていたのかもしれない。

久利生の名言、通販、「あるよ」は?

今回も最後に、"久利生の名言" "メンバーの爆笑キャラ" "通販グッズ&「あるよ」"の3点をおさらいしておこう。

久利生の名言は圧巻の長ゼリフ。「甘く見ない方がいいですよ。今までもたくさんそういう方たちたくさんいらっしゃいましたけど、覚せい剤を断ち切るのってめちゃくちゃ大変なんです。強烈に中毒性のある薬物ですし、あなたが思っているように簡単にはやめられないんじゃないですか? あなたはちょっとつまづいたって言っていますけど、あなたは大失敗やらかしたんですよ。自分は大丈夫だって、すぐに立ち直れるって、強がっている場合じゃないんですよ。初犯ですし、反省もされてますから、裁判では執行猶予がつくと思いますけど、でもお願いします、気ゆるめないでください。あなたには心から心配してくれる人たちがたくさんいるんです。そのことだけは絶対に忘れちゃダメなんです。お願いします」。

城西支部メンバーの爆笑シーンは、まず末次の社交ダンス。20年のキャリアがありながら、昨年は『東関東大会シニアの部Bブロック第3位』。前シリーズ出演の美鈴(大塚寧々)とペアで出た大会でも、「はじまって30秒で足くじいて棄権した」らしい。また、遠藤がバイきんぐ・小峠英二のギャグ「何て日だ!」をかましたり、田村の飼っている犬がミニチュアダックスフントのラッキーとヨークシャテリアのロッキーだったり、その田村と馬場が6年前につき合っていて「そりゃ私はバツイチだけど、牛丸次席(角野卓造)似の女性に負けたのよ」と分かるなど、相変わらずクスッと笑える小ネタが多かった。

通販グッズは、購入済みが乗馬式の健康器具、ネット通販で調べていたのがEMS型の筋トレ用具『マッスルパワーデュオ』(1万円が8千円に値引き)、山手線ゲームの「ありえないけど通販で売っているもの」で言った『対ライフル用砲弾シールド』(65万円)の3点。一方、マスター(田中要次)の「あるよ」は、涙を流す馬場に渡すための黒いハンカチだった。

第3話の視聴率は、第2話の19.0%から20.5%に再浮上。ただ、制作サイドに「数字にとらわれている」様子はなく、「"らしさ"を貫くことでファンを大切にする」姿勢がある限り、第4話も期待していいだろう。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。