6月の発売以来、売れ筋ランキング上位に君臨し続けている『へぐりさんちは猫の家』(幻冬舎刊)。魅力的な形状の爪とぎ柱、キャットウォークなど仕掛け満載の「猫犬二世帯住宅」の紹介に癒やされる人が続出中なのだ。
それにしても、どうしてこんなステキなお家を設計できるのだろうか? 同著の著者であり、「へぐりさんち」の設計を手がけた一級建築士の廣瀬慶二さんにお話を伺った。
猫だってテーブルでご飯を食べたいんです!
廣瀬さんはこれまで、くだんの書籍に登場する家をはじめ、数々の、ペットと暮らす家を設計してきている。しかし、そのどれひとつとして同じデザインのものは存在せず、毎回、新たな設計を試みるのだという。その挑戦の根底には、「住宅の形自体を変えたい」という想いがある。
「へぐりさんの家を設計したときもそうですけど、僕は、『日本の既存の家を作ってきた常識を疑いましょう』と提案したいんです。例えば、『猫は床でご飯を食べるものだ』という既成概念から離れられない人がいますが、床に皿を置けば、飼い主が蹴飛ばしてこぼしてしまうことだってありますよね?
また、猫にしてみたら、床で食べこぼしても怒られるしテーブルの上にのぼっても怒られるけど、そもそも何で怒られるのか理解できないから、とっても迷惑な話なんです」
そこで考えついたのが、テーブルの上に猫の食事処を設置すること。水飲み場も同様に高い位置に配置することで、飼い主にとっても掃除しやすい一石二鳥の空間に仕上がった。
同様に、トイレもお手入れのしやすさを考えて、猫砂が広範囲に散らばらないよう、床を一段下げた場所に設置することを思いついたという。
目指すのは、「猫にとってのうれしいストーリー」が詰まった家
デザインする際には、「どうすれば猫がより楽しい毎日を過ごせるか」を常に第一に考えるという。
「『朝起きてから水を飲みに行く』というたったそれだけの導線の中にも、気持ちが揺れ動くいろんな仕掛けがあるっていいでしょう? 人間も含めたすべての動物にとって、毎日、新鮮な驚きや喜びを感じることができることはとっても幸せなことだと思うんです。変化のない毎日ってつまんないですから。
でも、室内飼いの猫たちは、家の中というごく限られた空間でしか、その幸せを確かめることができません。だからこそ、有限な空間で毎日をめいっぱい楽しんでもらうために、面白い舞台を用意してあげたいんです」
廣瀬さんはさらに言葉を継ぐ。
「でも、せっかくいい舞台を用意してあげても、遊び相手がいないと退屈なもの。猫は6~7歳までは遊びたい盛りなので、飼い主さんが一緒になって遊んであげることが大切ですよ」
猫の生態について細部まで理解した上で設計を考え、日々の暮らしについてアドバイスも提供できるのは、建築士であると同時に、一級愛玩動物飼養管理士の資格も持つ廣瀬さんならでは。
さらに、不幸な猫を一匹でも減らしたいと常々願っている廣瀬さんは、ライフワークとして、「殺処分ゼロ」を目指す取り組みにも力を入れている。
「処分される猫って子猫が一番多いんです。なぜかというと、哺乳瓶で育ててあげることが必要で、それを難しいと感じる人が多いためです。だから、初めて猫を飼う人に引き取ってもらうことを考えるのではなく、既に猫と暮らしている人に、2匹目、3匹目を引き取ってもらえるような制度を整えていかなければと思うんですよね」
多頭飼いウェルカムな飼い主の増加のためにも、「猫と人間が楽しく同居できる家」を設計し、さらによいデザインを生み出し続けている。
「猫は(爪とぎや排せつなどで)家を壊す動物ですから、それに負けない強い家をつくることも大切。その一環として、やってほしくない場所での爪とぎを防ぐために、魅力的な爪とぎ柱を設えたり、猫にストレスが溜まらないよう、猫たちの琴線に触れる遊び場を設置したり……」とアイディアが尽きることのない様子。
今すぐ実践できるアドバイスも
猫を飼っている人も、将来、猫を飼いたい人も、「家を建てるならこの人に設計をお願いしたい!」と思わずにはいられないことだろう。とはいえ、夢のマイホーム建築まではまだまだ時間がかかりそう……という人のために、すぐにでも実践できそうなアドバイスもいただいた。
「せっかくキャットタワーを購入したのに猫がのぼってくれない場合、置き場所を変えてみるといいですよ。例えば、てっぺんにのぼったときだけ窓の外が見えるように設置すると、眺望を楽しむことができるので喜んでのぼる確率がアップします。
食事する皿の置き場所なども工夫してみるといいですね。猫にとって“怒られる要因が何も用意されていない環境”は幸せなもの。人間の都合で猫の行動を規制することはよくありません。それと、なんといっても一番大切なのは、飼い主がたくさん遊んであげることです。
毎日楽しく暮らすことで、猫の調子や行動は如実に変わってくるので、ポジティブな変化を目の当たりすることで、人間の生活もより充実していくといいですね!」