日本一幅の広い川がどこにあるかご存知だろうか? その答えは、埼玉県鴻巣市と吉見町の間を流れる荒川の御成橋付近で、幅は2,537mにも及ぶ。川幅雑学を知ったのは、埼玉B級グルメを代表する鴻巣市(こうのすし)の「こうのす川幅グルメ」を通じてだった。この地には今、日本一広い川幅にちなんだ幅広のうどん、ラーメン、パスタなどなどが相次ぎ誕生している。
2008年に日本最長と認定された2,537m
「いやあ、びっくりです。土日になると県外ナンバーの車まで押し寄せ、お客さんが殺到するんです」とうれしい悲鳴を上げるのは、鴻巣市のそばうどん店「久良一」のご主人、小峰久尚さんである。お客の目当ては、同店の看板メニューである川幅うどんである。
鴻巣市は埼玉県東部中央に位置する町で、その西域を荒川が流れている。そんな鴻巣市に2008年2月、ビッグな事件が起きた。国土交通省荒川上流河川事務所によって、鴻巣市と吉見町との間の荒川の川幅(両岸の堤防間の距離)が2,537mと確認され、日本最長と認定されたのである。
インパクトと食べやすさの間をとった7、8cm幅
川幅日本一認定を受けて鴻巣市は動いた。町おこしの一環として、市内の飲食店に川幅日本一にちなんだ幅広うどんの開発を依頼したのである。この付近一帯は昔から小麦の産地で、うどんがご当地料理を代表するものだったからだ。「久良一」の小峰さんも幅広うどんの開発に取り組んだひとりだった。
「うちのうどんは7、8cm幅になりました。幅の広いうどんを打つのはそう難しいことではありません。でもあまりに幅広だと食べにくい。インパクトがあり、しかも食べやすくなければいけません。その両立を求めた結果、この幅になりました。つゆにも工夫を凝らしました。幅広のしこしことしたうどんの触感を生かすために、煮込みうどんはカツオ、昆布のダシにハマグリのダシも加えて赤味噌でまろやかに整えています」 。
こうして市内のうどん店で次々誕生した幅広うどんは、2009年に「こうのす川幅うどん」の名で鴻巣の新たなご当地グルメとしてデビューを果たしたのである。川の流れのようななめらかさを感じさせる舌触りも特徴で、うどん通の多い地元の人にも大評判。さらに、埼玉B級ご当地グルメ王決定戦などで入賞を重ねて知名度を高め、遠来からの客を呼び込むほどになっていったのである。
「川幅」コンセプトはラーメン、パスタから饅頭にも
「こうのす川幅うどん」の大成功によって、その後、「川幅」というご当地コンセプトは市内の様々な食べ物に波及していく。うどんにできて、ラーメンにできないことはないとばかり、「川幅ラーメン」が後に続いた。5、6cm幅の「川幅手打ちラーメン」を提供するのは市内のラーメン店「来集軒」。
「苦心したのは麺幅の落としどころでしたね。人間の口の幅はどのくらいかあらためて測ってみたり、試食を繰り返したりして、最終的に5、6cmに落ち着きました。スープは豚骨・鶏ガラベースで、幅広の川幅麺と普通の麺の両方が入っています。一度に2つの麺が楽しめると好評です」(「来集軒」山岸広高さん)。
うどん、ラーメンと来れば、次はパスタだが、こちらには「こうのすや つけしん」の「川幅パスタ」がある。驚くのは、海鮮丼にまで川幅のコンセプトが採用されたこと。「ご馳走Dokoroかねはち」の「川幅海鮮丼」がそれ。まぐろの刺身が川の流れのように、幅広く(冊の幅)長く(20cmほど)ドーンと乗っている。
他にも餃子、ケーキ、どら焼き、まんじゅう、漬け物、とんかつと「こうのす川幅グルメ」は実に多士済々。それらの一つひとつを紹介するのはこのコラムでは難しいので、興味のある方は、鴻巣市観光協会の「こうのす川幅グルメ」をチェックしていただきたい。「川幅」はいまや鴻巣市の代名詞である。
※記事中の価格・情報は2014年4月取材時のもの